第327話 【罰・3】


「さて、まずは……そうだな、そこに兵士達に隠れてる。神聖国騎士団の団長、前に出ろ」


 兵士達の後ろで身を潜めていた男に対し、俺はそう告げるとその前に居た兵士達は俺の放出する威圧でサッと避けて男は姿を現した。

 騎士団の団長という肩書の癖に、身の丈に合ってない装備。

 更にはブクブクと太っていて、真面な手段で団長になった者ではないと直ぐに分かる。


「……お前、悪魔だろ?」


「ッ!」


 俺の言葉に男は反応すると、周りの人間は「えっ?」と驚いた顔をした。


「召喚された悪魔とは別に、人間に乗り移った悪魔も居たみたいね」


「そうですね。カルムもこの事は知らなかったみたいなので、美味しい餌をかぎつけて悪魔がやってきてたんでしょうね……まあ、そのせいで今日消える事になりますが」


 そう俺は言いながら、男に近づき刀を首筋に付けた。


「や、やめ! ——」


 男の静止の声を聞かず、俺はそのまま男の首を取り落とした。

 そしてその直後、男の死体から黒い靄が出てきて消えようとした瞬間、師匠が出した玉にその黒い靄は吸い込まれた。


「下位の悪魔程度なら、やっぱりこれで十分ね」


「それじゃ、残り悪魔も一旦封印しますか」


 俺の言葉に師匠は「その方が良いわね」と言って、この場に居る悪魔を全て殺して、師匠の作った玉に封印した。

 結果的に当初数人しかいないと思っていた悪魔は全部で10体居て、そのうち1体が召喚された悪魔だった。


「これだけの悪魔が人間の体を乗っ取って、入り込むほどに神聖国は腐っていた証拠ですね」


「そうね。神聖国は面倒だからって、あまり見てなかったけどこれだけ腐ってる国は見た事が無いわ。逆に凄いと感心しちゃうわ」


 俺と師匠の言葉を神聖国の上層部は震えた様子で聞いていた。

 それもそうだろうな、悪魔と言えば乗っ取られた状態でも、ある程度の力があるのに対して、人間である俺が簡単に倒していた。

 魔女の師匠が相手するならまだ分かるが、人間の俺がやってる光景を見て自分達が愚かな選択をしていた事を今更理解している頃だろう。


「さてと、邪魔な悪魔達は片づけたし、後は人間だな……」


「まっ、まってくれ!」


 悪魔の処理を終えた俺は、震えている人間達の方へ刀を向けながら言うと、その中から一人の青年が静止のする声と共に出て来た。

 見た目、優男っぽい感じだか、こいつの事はルゼラから聞いている。


「神聖国の王子が今更どうした?」


 神聖国と名ではあるが、一応この国も王政の国。

 そしてこの国の王族の一人であり、今の国王の一人息子であるジョナン・フォン・フォルティニアは震えながら俺に話しかけて来た。


「あ、貴方が我が国に怒りを感じているのは分かります。ですが、人同士です。ですから、話し合いをしませんか?」


「うん、無理。お前等、人じゃないから」


 王子の言葉に、俺はそう言葉を返した。

 まさか直ぐに断られるとは思ってなかったのは、王子は間抜けな顔をして俺の顔を見ていた。


「今更、話し合いって言える立場か? 散々、世界に迷惑を掛けておいて、他国から資源やら金やら奪っておいて、いざ自分達の命が危ぶまれたら話し合いって……世の中、舐め過ぎだ」


「ひ、ひぃッ!」


 王子を睨みながら脅すと、王子は泣き出してある人物の所へと逃げ出した。

 その人物とは、普通の騎士団とは違い入団試験も難しく、本物の実力者だけが入れることが出来る聖騎士団の団長だ。


「……」


「あの人間、かなり精神力があるわね。弟子ちゃんの威圧を感じても、恐怖に陥っていないみたいね」


「そうみたいですね。神聖国の騎士じゃなかったら、姫様に紹介して国の兵士にしたいレベルでしたね」


 聖騎士団の団長を見た俺と師匠はそう話すと、足元に隠れている王子をその団長は一瞥すると溜息を吐き、再び俺の方へと視線を向けて来た。


「デュルド王国の英雄、魔女の弟子、黒竜の代理人、悪魔を倒した者。貴方の噂は、数多く聞いた事があります。今更、何故この国を攻撃したとのかは問いません。この国が腐っている事は、私も知っていました。知っていながら、何もできず静観していた私も彼らの同類です。そこは変わりません」


「ほ~、さっきの団長とは違い。ある程度、人間らしい人間だな。それで、沈黙を破ったという事は何か言いたい事でもあるのか?」


「……手合わせをお願いしたいです。貴方の程の強者は、私は見た事がありません。生涯の最期に、貴方と戦いたいです」


 俺はその団長の言葉を聞き、こいつは他の神聖国の者とは違うというのが感じられた。

 不快感も感じないし、本心から強者との戦闘を望んでいるんだな。

 聖騎士の団長という立場だから、こいつも腐ってる人間かと思っていたが、その立場でこれだけの心を持っているのは逆に凄いと感心する。


「師匠。周りの奴等の事を頼めますか?」


「……良いの? 彼も神聖国の一人よ?」


「はい。こいつは、神聖国の中でも実力者です。完膚なきまで叩き潰せば、更に周りの奴等に絶望を感じさせられると思うので」


 俺の言葉を聞いた師匠は笑みを浮かべ、俺の事を見て「ふふっ、弟子ちゃんも彼の戦いたいのね」と言った。

 その師匠の言葉に俺は頷き、師匠は俺の頼みを聞いて周りの人間が逃げないように見張りをしてくれた。


「ありがとうございます」


「感謝は良い。始めるぞ」


 お礼を口にした団長に対し、俺はそう言って刀を向けた。

 団長もまた背に担いでいた大剣を取り、両手で構えた。

 その恰好から、団長の強さを感じ取れた俺は、自分でも知らずのうちに笑みを浮かべていた。

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