第304話 【王都の変化・1】


 勇者を見送って数日が経ち、俺達は王都周辺の魔物狩りを行っていた。

 魔王討伐が終わり、王都に冒険者が戻って来たのは良いが、まだ依頼の消化率が悪いらしく、俺達はギルドから頼まれてそれらを解決していた。


「やっぱり、ジンさん達は依頼の消化速度が速いですね」


「それで言うと、フィーネさんもギルドマスターを経験してからか、仕事の効率が以前よりも上がりましたよね」


「そうですか? まあ、事務処理に関してはギルドマスターをしていた際に沢山やらされていたので、以前よりも早くなったのかも知りませんね」


 魔王討伐が終わった事で変わった事はギルドでもあり、ギルドマスターにはアスカが戻り、フィーネさんも俺達のパートナーへと戻って来た。

 正直、二人も居るのか? と思うかも知れないが、俺達の場合は依頼の消化速度が速い為、フィーネさんとリコラさんの二人が付くようにした。

 その方が仕事の効率も良いからという理由もあるが、大きな理由としては二人のどっちかを選べなかったというのがある。

 まあ、お金には困ってないから、依頼から少し減ったとしても二人との関係性を崩したくないと俺達は決めた。


「フィーネさんの事務処理能力、昔から凄かったですけど、ギルドマスターを経験してから更に一段階レベルアップした感じがします……」


「リコラさんまで、あまり自分では感じられないんですけどね?」


 リコラさんからも言われたフィーネさんは、首を傾げながらそう言った。


「逆に今のギルドマスターの方は大丈夫なんですか? 旅の間で、大分仕事の感覚を失ってたみたいですけど」


「ジンさん達の対応が終わった後は、アスカのサポートをしていますので大丈夫ですよ。今は忘れた仕事のやり方を叩きなおしてますので、もう少ししたら以前のアスカに戻ります」


 微笑みながらそう言うフィーネさんに対し、俺達は少し怖さを感じた。

 まあ、アスカは勇者の件が終わってから自堕落な生活をしていたらしいからな、それをフィーネさんに見つかって怒りを買ったのだろう。

 多少は許してやっても良いだろうとは思うけど、フィーネさんからしたら仕事を押し付けられた状態で遊んでるように見えるからな……。


「それでフィーネさん、冒険者はどんな感じですかね? 見た感じ、結構戻って来てるように見えますが」


「はい。数日前と比べると、冒険者の数はかなり増えては来ています。それに加え、新規の冒険者も増えてきているんです」


「へ~、良い事もあったんですね」


 フィーネさんの言葉にレイがそう言うと、フィーネさんは複雑そうな顔をしていた。


「人が増える人はいい事ではあるんですが、増えた分だけ問題が起きる確率が上がるんですよね。実際に既に何件か、冒険者同士の喧嘩が報告されてるんです」


「まあ、人が集まるとどうしてもそうなりますよね……」


「だから、ちょっとギルドの雰囲気が険悪な感じに少しなってるんですね」


「はい。ジンさん達は顔も知られていて有名ですから、突っかかってくる人は現れないとは思いますがご注意ください」


 そうフィーネさんに言われて、俺達はギルドを出る事にした。

 ギルドから出た後、俺達はその足でリーザの店へと向かった。

 向かう途中、明らかに今までは見た事の無い風貌の人が増えていて、こんなに増えたら流石にいざこざも起きるだろうなと思った。


「少し前と比べたら、本当に人が増えたよな」


「うん、そうだよね。日に日に人が増えてるみたいだし、もっと増えそうだよね」


「うんうん、魔王が居なくなってその魔王を倒した勇者が居るって噂で王都に来てるのかな?」


「……俺としては人が少なくなってた方が、人通りも少なくて良かったんだけどな」


 俺達の言葉を聞いて、レンがポツリとそう言うと、クロエ達も「正直、私達もそう思ってた」とそう言った。


「最近、買い物に行っても人が多くてお店に入らない事が多いんだよね」


「これからもっと増えるってなると、なんだか人が少なかった時の方が暮らしやすかったなって感じちゃうね」


 三人のそんな本音を聞いた俺は、クロエ達に「実は俺もだよ」と皆と同じ気持ちだという事を伝えた。

 姫様や国王には悪いけど、人が増えていい事を今の所感じてなく、逆にちょっと嫌な事もあって住み難い感じになったと思っていた。


「ただ今更、王都から別の場所に拠点を移すのも面倒だしな……」


「そうなんだよね。落ち着くまで我慢するしかないよね」


 クロエのその言葉に俺は頷くと、レイも「早く、落ち着いてほしい」とそう言った。

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