第299話 【魔王討伐・3】
それから数日後、勇者達は王都に戻って来た。
行きはかなり時間が掛ったのに対して、帰りはすんなりと帰って来た所を見ると、本当に魔王城前で躓いていたんだな。
そう俺達にしか分からない事実を再確認した俺は、暫くは王都は騒がしそうだなと思いながら朝食を食べた。
「ジン様、こちらを」
「んっ、了解」
朝食から一時間程経った頃、姫様の従者が宿にやってきて手紙を持ってきた。
そこには、話したい事があるから城に来て欲しいと書かれていた。
一応、クロエ達に一緒に来るか確認したが、話し合いなら俺だけで言ってきた方が良いと言われて、一人で行く事になった。
「……パレードに俺達もですか?」
「ええ、ジンが嫌だとは分かってるんだけど、こちらとしてはジンが居なかったら魔王は倒せなかったわ。だから、ジンが本当に無理って思ってないなら私達と一緒にパレードに参加してほしいの」
パレード、それは俺の時とは違い王都の街中を特殊な馬車に乗り、街の人達に対して手を振ったりするような事らしい。
確かにゲームで魔王を倒した際に、そんな描写がされていたけど、あれに俺も参加してほしいと言われるとは思ってなかった。
「正直、俺は嫌ですね。でも、クロエ達がやりたいようでしたら良いですよ」
「そう。わかったわ。それじゃ、明日またジンの宿に私の従者を送るから、返事はその時に」
「はい、わかりました。ただまあ、期待はしないでくださいね」
俺はそう言うと、姫様は「無理強いはしないわ」と笑みを浮かべて言った。
「そう言えば、姫様。勇者が一人旅するって話、いつ聞いたんですか?」
「少し前ね。勇者もよく耐えてたし、一人旅位は許可しようってお父様と話し合って決めたわ。あんな環境で、ちゃんと魔王を倒してくれたんだもの」
「まあ、確かにそうですね……」
姫様も勇者の事を同情したのか、特に悩まずに勇者の一人旅は許可したみたいだな。
その後、勇者の一人旅計画について少し話をしてから、俺は宿に帰宅した。
帰宅後、俺も自分の時間を堪能して、夕食を食べた後にクロエ達に集まってもらい昼間に姫様に聞かされたパレードについて話をした。
「パレードか……それって、街の人達に手を振ったりするアレだよね? う~ん……」
「私は嫌かも~、見世物みたいだし」
「俺も嫌だな」
レイとレンは直ぐにそう嫌だと即答をして、悩んでいたクロエも「私も嫌かな」と申し訳なさそうにそういった。
「別に申し訳なさそうにしなくてもいいぞ、ただの提案らしいからな。無理強いはしないって、姫様も言ってたから」
そう俺はクロエの表情を見てそう言い、それから話し合いは終わりそれぞれの部屋に戻った。
そして次の日、昨日と同じ時間帯に姫様の従者がやってきたので、パレードには出ない事を伝えた。
多分、昨日の様子から姫様もさほど俺達がパレードに出る事は無理だろうと察していたみたいだし、返事を聞いた従者の人は直ぐに帰った。
「アッサリと決まったな、姫様も本当に無理強いは考えてなかったみたいだな」
そう思いながら俺は部屋を出て、リーザの店に行く事にした。
そうして宿の外に出ると、既に少しだけだが王都の人の数が増えているように感じた。
勇者達が戻って来て、まだ一日だがそうこんなに集まり始めたのか……これはパレードの日までに更に人が増えそうだな。
そう思いながら、俺はリーザの店の近くまで転移で向かう事にした。
「ジン、魔王討伐お疲れ」
店に入ると、店頭で剣を磨いていたリーザにそう言われながら出迎えられた。
「俺は魔王は倒してないよ。雑魚狩りしてただけだからな」
「だとしても、活躍はしたんだろ?」
「まあ、少しはな……ところで、その木の剣ってもしかして世界樹の剣か?」
リーザの言葉に返し、俺はリーザが手に持っている木の剣が気になりそう聞いた。
そう聞くと、リーザは笑みを浮かべ「ええ、そうよ。良い剣でしょ?」と言いながら見せてくれた。
「まあ、でもまだ完成はしてないのよね。正直、持ち手の部分はかなり作れたけど、刃の部分がまだまだなのよね。それに出来てるのも、この一本だけだし」
「へ~、リーザでもかなり苦戦してるんだな」
そう言うと、リーザは「世界樹の加工が難しすぎるのよ」と言った。
なんでも鉄よりも平気で硬く、叩いても中々形が変わらないらしい。
持てる技術を全力で出して、何とか形は出来つつあるとリーザは言った。
「多分、全部を作り終えるまで一ヵ月以上は掛かりそうね」
「そうか、まあそんな急に欲しいって訳じゃないし、リーザが納得するまで作ってくれ」
「そのつもりよ。中途半端で仕上げるなんて、絶対にしないわ」
リーザは普段見せない、やる気に満ちた目をしてそう言った。
その後、暫くは王都が賑やかになりそうだから、買う物があるなら今日か明日には買いに行った方が良いぞと言って、リーザの店を出た。
それから数日後、勇者達の魔王討伐を祝うパレードが行われた。
「勇者様、こっち向いて~!」
「勇者様、ありがとう~!」
魔王を倒してくれた勇者達に感謝を伝える為、そのパレードには多くの人々が他国からも態々やって来て集まっていた。
勇者達はそんな人達に笑顔を浮かべて対応して、普段は喧嘩ばかりのあの戦女達も流石にこの日ばかりは笑顔を浮かべて手を振っていた。
そうして魔王軍と人類軍の戦い、人類側の勝利として幕を閉じたのだった。
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