第274話 【進軍・2】


 あの後、姫様の部屋から転移で宿に戻ってきた。

 そして宿に戻ってきた俺は部屋から出て、姉さんの部屋に向かった。


「姉さん、入っても大丈夫?」


 そう声をかけると、中から「入っても大丈夫だよ」姉さんの声がして俺は扉を開けて中に入った。

 部屋の中には姉さんと、姉さんのパーティーメンバー、そしてフィオロが楽しそうに会話していた。


「ジン君、今日はどうしたの? いつもなら私だけだけど、みんなも一緒って初めてだよね?」


「うん、ほら魔王軍との戦いが本格的になってきたから、ちょっと安全策を先に打っておこうと思って姉さんだけじゃなくてシャーリーさん達に集まってもらったんだ」


 そう俺は言って、【異空間ボックス】から人数分の袋を取り出して、取り出した袋を一人ずつ渡していった。

 そして姉さんたちは渡された袋を開けて、中を確認する首を傾げていたが、最後に渡したフィオロは中を見て驚いた顔をした。


「ジン、あんたもしかしてこれってドラゴンの素材で作ったものじゃない?」


「「え?」」


 流石、悪魔だな一瞬見ただけで素材を当てるとはな。

 今回、姉さん達の為に用意したアイテム。

 それは、ドラゴンの鱗を使った魔道具型の腕輪。

 見た目はただの銀細工の腕輪だが、ドラゴンの素材を使う事で防御型の魔法を展開する魔道具となっている。


「その通りだ。そのアイテムにはドラゴンの素材を使ってるんだ。見た目は普通だけど、中身は王都でもなかなか手に入らない防御型の魔道具となってるんだよ」


「そ、そんな貴重な物を何で私達に?」


「もうすぐ魔王軍討伐に動き出すから、もしもの時のために姉さん達に渡しておこうとおもってね。知り合いに頼んで作ってもらったんだよ」


 そう俺が言うと、姉さん達は驚いた顔をして腕輪を見つめていた。


「さ、流石にこんな貴重な物受け取れないよ……」


「そこは弟からのプレゼントってことで受け取ってほしいかな、俺も本格的に魔王軍との戦いが始まったらそっちに行かないといけないからもしも、その時に王都が攻撃なんてされたら一生後悔すると思う」


 俺の言葉に姉さんは黙り込み、ジッと腕輪を見つめた。

 そんな姉さんに対して、後ろからルル姉が「もらえるものは貰っていいと思うわよ」と言ってくれた。


「弟が折角、姉の事を想って作ってきてくれたプレゼントを無下にする必要はないでしょ? それにヘレナ以外は、皆貰う気よ」


「へ?」


 ルル姉の言葉に姉さんがそう口にして、後ろにいる仲間達を見ると全員嬉しそうに腕輪を付けていた。

 うん、姉さんの仲間ってルル姉に似てるな。


「貰える物は貰った方がいいわよ。ヘレナはいつも気にしすぎなのよ。それにいつも言ってたでしょ、弟君からプレゼント貰ったら一生大事にする。この間、貰った香水は消耗品だから無くならない何かが欲しいって言ってたじゃない」


「あっ、そ、それは……」


 コロンの暴露により、姉さんは顔を赤くしてバッと手で隠した。


「オイラ、こんな凄い物貰ったのはじめて! ありがと、ジン!」


「ええ、本当にね。ありがとうジン君」


 ププルとシャーリーは恥ずかしがる姉さんを無視して、そう俺にお礼を言った。

 その後、姉さんは皆が貰うならという事で腕輪を貰ってくれて一安心していると、フィオロが話があると部屋から連れ出された。


「私としてはこんな腕輪より、力を開放してくれた方がうれしいし、ヘレナ達も守りやすいんだけど……」


「まあ、お前が姉さん達と一緒にいてくれるのは確かに助かってるし、少し安心もしてるが。お前が悪魔ってことは忘れてないから、その口車には乗らないぞ」


「チッ……まあ、でも本当に危ない時は力を少しでも開放してよ。そうじゃなきゃ、いくら私でも彼女達を守れないわ。クロエ達から聞いてるけど、敵は魔物だけじゃないんでしょ?」


 力の開放を懇願してきたフィオロの言葉を一蹴すると、真面目な顔をしてそんな事を言ってきた。


「お前がそんな事を言うなんて、明日は雨でもふるんじゃないか?」


「あんたね……一緒に生活してて少しだけ、守ってやりたいって気持ちがあるだけよ」


「悪魔のお前が守りたいね……まあ、師匠には少しだけ話をしておくよ」


 俺だけの判断で決められないと思い、フィオロの言葉にそう俺は返した。

 それからフィオロは話はそれだけだったようで、姉さん達の所に戻っていった。


「まさか、悪魔のあいつが人を守りたいなんていうとはな……」


 そう俺はこの世界はつくづく、ゲームとは変わってるなと思いつつ部屋に戻った。

 ちなみに次の日は近年稀にみる大豪雨となり、食堂で会ったフィオロは俺と一切顔を合わせようとしなかった。

 

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