第236話 【勇者の力・3】


 その後、何事も無く採取物を採取した俺達は帰りは転移で王都に戻って来た。

 本当に転移のお陰で移動時間がかなり短縮できるようになって、かなり努力して取得して良かったと今でも思う。

 そして俺達はギルドで依頼の達成報告をした後、昼ちょっと過ぎで少しお腹が空いたなとなり、久しぶりに皆と一緒に食事に行く事にした。


「ここもなんだかんだずっと来てるな」


 昼飯という事で多少ガッツリとした物が食べたく、俺達はロブの店へとやって来た。

 適当に料理を頼み、最近の事を話しながら俺達は食事を進めていると、ふと窓の外に見覚えのある顔が目に入った。

 なんで勇者がこんな時間に、こんな場所に居るんだ?


「今のって勇者だよな?」


 俺の隣に座っていて、丁度一緒に窓の外を見ていたレンがそう言うと、クロエ達が「えっ?」と驚いて窓の外を見た。

 顔が隠れるようにフードこそ被ってはいたが、常に持ち歩いている聖剣のオーラは隠しきれてなかった。


「まあ、勇者も人だし、街中をある事もあるさ……」


 今の一瞬だけしかちゃんと見れなかったが、姫様の話で聞いていた通り、勇者の力は大分上がっているように見えた。

 ドラゴン族との修行で勇者はある力を手に入れるのだが、本来はその力をゲームではかなり終盤で完成されるものだった。

 しかし、この世界では完成までドラゴン族の所で修行していたらしく、パッと見でもかなり強くなっている事が分かった。


「あの感じだと、最後の四天王は苦戦する事無く討伐出来そうだな」


「ジン君がそこまで言うって、勇者はかなり強くなったんだな……正直、今のジンと勇者が戦ったらどっちが勝つんだ?」


「それ前から気になってた。ジン君と勇者さんって比較される事あるけど、実際にどっちが強いの?」


「それ私も気になる。ジン君的にどっちが強いと思ってるの?」


 俺の言葉を聞いたクロエ達は、何故か俺と勇者どちらが強いのかを聞いて来た。

 ゲームでは最終的に勇者が勝つという流れだったけど、あれは勇者だけの力では無かった。

 それで今のこの世界では、勇者の力がどの程度か分からないからハッキリとどっちが強いのかは自分でも分かっていない。


「正直、前までは俺の方が上だって言えてたけど、今は分からないな。そもそも、あの聖剣がある以上、勇者がそう簡単に負ける訳無いしな」


「でも水の四天王には負けてたよね? その四天王をジン君は簡単に倒してたけど」


「うん、だから修行前は俺の方が上だったよ。ただドラゴン族との修行で勇者は変わったから、今の勇者は分からない。まあ、簡単に負けるつもりは無いけどね。負けそうになったら、それこそ今まで貯め込んだ力を色々と使う予定」


 スキルや技術以外に、俺はこの世界のアイテムの力も知り尽くしている。

 万が一の時の事を考えて、三年間の旅の間にある程度のアイテムは回収してる。


「……そういや、旅をしてる時に手に入れた魔道具。ずっとジンの収納スキルの中に入れてるけど、あれはまだ使わないのか?」


「使う場面が来たら使うよ。ただ一つ馬鹿みたいに強力な魔道具だから、おいそれと使えないんだよな」


 最後の絶海のダンジョンで手に入れた魔道具なんて、一つで広範囲に水を出すって魔道具でゲームでは使用場所が限られたアイテムだった。

 ただこの世界ではどこでも使えるからこそ、使う場面を考えないと魔道具によって被害を出す事になる。


「……そう言えば、前にリーゼに頼んだ物がそろそろ出来る頃だな。武器のメンテナンスも兼ねて、久しぶりにリーザの所にでもこの後行くか?」


 俺の提案に皆は特に予定は無いから、その提案に乗ってリーザの店に行く事が決まった。

 少し前、隠れ里が魔王軍との戦いに参加する事になった際、俺は隠れ里からある鉱石を貰った。

 その鉱石は珍しい物で並大抵の鍛冶師では打てる物では無いらしく、隠れ里の長からは自分達の職人に頼めばどんな物でも作ると言われた。

 だけど俺はリーザの腕を信用していた為、長の申し出を断り、リーザの所にその鉱石を持っていき鍛冶の依頼をした。


「あの鉱石、隠れ里でも採れるのが珍しいって言われたし、かなりいい物が出来そうだよな……俺が使うわけでは無いけど、現物を見るのが楽しみだ」


「そうだよね~、自分が使う訳じゃないけどあの鉱石で出来た物が早く見たいな~」


 レンとレイはそう言い、食後休憩もそこそこに俺達は食堂を出てリーザの店へと向かった。

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