第235話 【勇者の力・2】


 その後、ギルドに到着した俺達はリコラさんに依頼をいくつか用意してもらった。


「……竜人国の人達が居るおかげか、魔物の被害系は本当に少なくなってますね」


「そうですね。竜人国の方達は魔王軍との戦いの為に戦ってくれてますけど、道中で被害になりそうな魔物等も討伐してくれているのでかなりそういった依頼は減っていますね」


「だとしたら、冒険者の人から苦情とか出てるんじゃないですか?」


「ないとは言えませんが、ギルドとしては有難いんですよね。今まで、手を付けて貰えないよう場所も竜人国の方達のおかげで被害が無くなっていて、本当に助かっています」


 文句を言ってるのも元々そんなに依頼を積極的にするような冒険者達じゃなく、ただギルドに文句を言いたい奴等が言ってるとリコラさんから聞いた。

 冒険者ギルドもそういう人達を相手にしないといけないんだから、色々と大変そうだなと思った。

 その後、クロエ達と話し合って依頼を受けた俺達はギルドを出て目的地へと向かった。

 今回の依頼は討伐系が無い為、久しぶりの採取依頼を受ける事にした。


「山に採取に来るのってかなり久しぶりだね」


「そうだね~、確か依頼の目的地ってこの山の山頂だよね? だったら、皆で競争しない?」


「いいね~、山で競争なんて昔を思い出すよ」


「俺はパス。やるなら三人でやってくれ」


「レンがそういうなら、レンは審判役を頼めるか? でリウスに乗って先に上に登って、俺達は三人で競争するってのはどうかな?」


 俺の提案にレンは「俺はそれで良いよ」と言い、クロエ達もレンの審判役に了承して、先にレンには山頂に向かってもらった。

 そして山の麓で俺達はレンの合図を待ち。

 数分後、合図が鳴った瞬間、俺達は同時に動いた。


「ジン君、レイちゃん。お先~」


「クロエちゃん、はやっ!?」


 獣人族であり、元々山岳での動きに長けていたクロエは俺とレイを置いて一気に山を登って行った。


「クロエに負けるわけにはいかないな……レイ、スピード上げるぞ!」


「うん!」


 おいて行かれた俺達は更にスピードを上げて、先行したクロエの後を追いかけた。

 身体能力的に俺の方が上の為、一緒にクロエを追いかけていたレイが徐々に後ろへとなっていった。

 これは俺とクロエの勝負になるか、そう思った瞬間、後ろから爆音が鳴り、俺の真横を何かが一瞬で突き抜けて行った。


「じゃ~ね~、ジン君、クロエちゃん!」


「なっ!? レイの奴、今まであんな【怪力】の使い方した事無いだろ!?」


 爆音の正体は【怪力】を使い身体能力を爆発的に上げたレイが、その状態で地面を蹴った時に出た音だった。


「クロエもレイも飛ばしてるな……よしっ、俺もそろそろ本気で行くか」


 様子見を続けていると山頂についてしまうと考えた俺は、本気で勝ちに行こうと魔力を込めた。

 【身体強化】に込める魔力を上げ、更に俺は【風属性魔法】での加速を使い一気に二人共距離を詰めた。

 身体能力と種族特有の力を使い山を登るクロエ。

 【怪力】と【身体強化】を使った豪快な登り方をするレイ。

 そして、【身体強化】と魔法を組み合わせて登る俺、三人の競争は最初の予想を遥かに超えた接戦となった。


「頂上が見えたきた!」


 接戦状態の俺達の視界の先に頂上が見え、俺達はそれぞれ更に力を振り絞って頂上を目指した。

 そして三人ほぼ同時に頂上に着き、審判のレンの言葉を俺達は待った。


「一位ジン、二位クロエ、三位レイ。接戦だったけど、ジンとクロエが最後の最後で魔法で加速してレイと少し差があった」


「ええ!? 勝ったと思ったのに~!」


 レイは結果を聞いて、地面に横になりながらそう叫んだ。


「正直、僅差だったけど、確かな差はあったから間違いない。レイも最後でもう一度、【怪力】で加速していれば勝てたかも知れないけど、かなり序盤で使って魔力を消耗してたんだろ?」


「うっ、だってクロエちゃんが先に行っちゃったから……」


 レイは、レンからの言葉に隣に座ってるクロエを見ながらそう言った。

 そしてそうレイから言われたクロエは、手を合わせてレイに「ごめんねレイちゃん、あれ作戦だったの」と言った。


「え?」


「あの序盤で飛ばせば間違いなくレイちゃんなら追ってくると思ったの、それでレイちゃんに続いてジン君も来るだろうから、二人の魔力を序盤から削ろうと思ってあんな動きをしたの」


「やっぱりそうだったか、だから途中までクロエは魔力を抑えてたんだな。そんな感じがしたから、俺もあえて途中まで二人の動きを観察してた」


 最後の方はクロエも魔法を使っていたが、途中までほぼ魔力を使わない様な動きをしていた。


「う~、競争でそんな頭使わないでよ~」


 負けた悔しさと俺達が作戦を練ってやっていた事に対して、レイはそう言って少しいじけてしまった。

 その後、何とかレイを慰めて本来ここに来た目的でもある依頼の採取物を探し始めた。

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