第234話 【勇者帰還・1】


 師匠の所でステータスを見せた翌日、俺は姫様から呼び出されて城へとやって来ていた。

 姫様の部屋に来た俺はソファーに座り、目の前に座る姫様に呼び出した理由を聞いた。


「姫様、朝から呼び出しって何かあったんですか?」


「一応、ジンには先に報告しようと思って来てもらったわ」


「報告ですか? ……あっ」


「気付いたようね。勇者が修行から帰って来たわ」


 姫様から〝報告〟と言われた俺は城内の魔力を探ると、ここ最近王都から居なくなっていた勇者の魔力を感じ取った。

 この魔力の感じからすると、無事にドラゴン族の所での修行は終えたようだ。


「随分と長い間、修行してたみたいですね」


「ええ、四天王に負けた事が相当悔しかったみたいなのと、竜人族とジン達が居るって安心感で力が安定するまで修行をするって言ってずっと修行してたみたいよ。それで彼女達も、そんな勇者に感化されてこの期間で物凄く成長したわ」


「そうなんですか? だからこの期間、戦女の人達の話題も無かったんですね」


「ええ、彼女達も勇者と同じく修行に集中していて表舞台から姿を消していたわ。私はほら、こんな立場だから情報が来るけど、ジンも彼女達の成長ぶりを見たら少しは驚くと思うわよ」


 姫様がそこまで言うという事は、戦女も相当強化されたのだろう。

 ゲームではそういった描写は無かったが、この世界では勇者が居ない間に彼女達も自分達の力を強化する事に専念したのだろう。


「という事は、最後の四天王討伐に勇者達は動きだすんですか?」


「そのつもりで今は準備しているわ。竜人国の方達にも協力してもらおうと思って、前線に出てる人達も呼び集めて会議をする予定よ。ジンもその会議に参加する?」


「いえ、そういったのは以前経験して面倒だと感じたので、姫様から伝えてもらうだけでいいです。というか、多分その集まりに行ったらレーヴィンさんに小言を言われそうなので遠慮したいです」


「ふふっ、ジンが自分とは違う相手の弟子になった事、相当悔しがってたみたいね」


 まあ、レーヴィンには悪いけど相手が悪いとしか言えないよな。


「そう言えば、ユリウス達と戦ったんでしょ? ジンの圧勝だったって聞いたけ、実際どうだったの?」


 勇者の話が一旦終わり、茶を飲んで休憩していると姫様からこの間のユリウス達との模擬戦闘について聞かれた。


「まあ、魔法も使って良いってルールですからね。流石に魔法無しだと、ユリウスさん相手にはまだ苦戦はすると思いますよ。昔に比べて、剣術が更に磨きがかかってますからね。本当に何処まで強くなるんですかねあの剣聖は」


「さあ、ね。ただ言える事は、アンジュには本当に感謝してるわ。彼女が貴族嫌いじゃなかったら、王城に招いていたわ」


 姫様は意味ありげにアンジュの名を口にしながらそう言い、俺はふと思いだした事を姫様に聞いた。


「……姫様に会ったら聞こうと思ってたんですが、あの二人ってまだ付き合って無いんですか?」


「剣術に関しては国一番のユリウスだけど、それに関しては国で一番鈍感の様ね。本人ですら、気付いていないみたいよ」


「マジですか?」


 この三年間でユリウスとアンジュ、二人の関係性はかなりいい方向に進んでいた。

 それは偶に王都に戻って来る俺ですら気付くレベルで仲が良く、一見恋人同士かと思う程に距離感が近い。

 元々、幼馴染同士というのもあるのだろうが、それにしては距離が近く、俺は何となくだがユリウスに聞いた事がある。

 だけど本人はそういった気持ちは無いみたいで、大切な友人と答えていたが、あの感じは自覚は無いけど本能では多分アンジュの事を想っている様子だった。


「ジンはどう思ってる? 裏の子達でもアンジュの人一倍強い警戒心で近づけなくて、アンジュの考えとかは分からないのよね」


「ユリウスさんが自覚さえすれば実ると思いますよ。これは俺のパーティー全員が、二人を近くで見てそう感じました」


 同性でもあるクロエとレイはアンジュの行動や発言を聞いて、あれは間違いなくユリウスに少なからず恋心は持ってると言っていた。

 男である俺ですら、そういったのを感じ取れたので多分どっちかが動けばくっつくとは思っている。


「という事は、もう暫く様子見していればいずれくっつくかしらね」


「まあ、ユリウスさん次第な所もありますけどね。前、話した感じからしてユリウスさんって恋愛についてかなり疎い感じでしたし」


「そうなの? 私はそういった話をした事が無いから知らないけど……今度、少し探ってみようかしらね」


 姫様は笑みを浮かべながらそう言い、何か進展があったら報告するわと楽しそうに言い、話し合いは終わった。


「遂に勇者が戻って来たか……となると、魔王軍との戦いもいよいよ最終局面だな」


 ゲームではこの修行後、残りの四天王を討伐して魔王まで一気に物語は進んでいた。

 既に仲間は揃っている状態な上、ゲームでは必須の試練も乗り越えた勇者は中盤までの様に苦戦する事は殆ど無く、試練等の寄り道は無く物語は進んで行く。

 特にゲームで熱いシーンは最後の四天王戦で、何度やっても飽きない演出があった。


「まあ、この世界はゲームじゃないからそれを見る事が出来ないかも知れないけど、魔王との戦いさえ終われば、クロエ達とまたダンジョン攻略の旅にでも出ようかな……」


 そんな事を考えながら俺は宿の部屋から出て、食堂で待機していたクロエ達を呼びに行き、ギルドに依頼を受けに向かった。

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