第230話 【模擬戦闘・3】


「あの頃も相当強かったけど、この3年で更に強くなったわね」


 激しい攻防を一旦止め、アンジュは息を整えながらそう言った。


「まあ、沢山ダンジョンも攻略してきましたし、最近は魔王軍とも戦闘をしてますからね」


「そうね。本当にジン達の活躍は聞いただけで呆れちゃう程、凄い事ばかりよね。隠れ里を襲撃した四天王の一人を倒したって聞いた時は、本当に驚いたわ。私が試験をした相手が、まさか世界を脅かしてる魔王軍の四天王を倒したなんてね」


 まあ、アンジュからしたらそうだろうな、三年前に自分が昇格テストをした相手がいつの間にか強くなっていたら驚くだろう。

 そんなアンジュは「ユリウスも待ってるし、次の一撃で決めるわ」と言って、力を込め始めた。

 雰囲気からして、かなり強い一撃が来るだろうと予想出来る。

 ここは俺も、最高の一撃でアンジュに対抗しよう。

 それがアンジュに対しての最大の礼儀だろう。


「行くわよ。ジン!」


「俺も行きますよ。アンジュさん」


 最高の技、そう考えた俺は型の中でも一番の得意技であり最大火力が出る〝一の型・竜の爪〟を使った。

 アンジュも最大の攻撃を放った事で互いの力と力がぶつかり合うと、激しい爆風が起きた。

 そして風が治まると、訓練場の壁にアンジュが吹き飛ばされており、魔道具の数値は既定の数値に達していて勝敗は俺の勝ちとなった。


「最後の技、本当に凄い威力ね」


「はい、アンジュさんの気持ちを感じ取れたので、俺も刀術で一番の得意技で勝負させてもらいました。流石にここで全力は出せませんからね」


「ふふっ、確かにね。魔王軍の四天王を倒すだけの力があるジンが、本気をこんな街中では出せないものね。そんな中でも、私との戦いで自分の得意な技を使ってくれたのは嬉しいわ。ありがとねジン、いい勝負だったわ」


 そうアンジュはお礼を言うと、回復薬を飲みながらクロエ達の所へと行き、アンジュと変わってユリウスが出て来た。


「ジン君、アンジュに得意技で勝負してくれてありがとね。アンジュ、ジンとの勝負を凄く楽しみにしてたんだ」


「アンジュさんとの気持ちは伝わりましたからね。あそこで変に違う技を出すより、俺の中で一番得意な技で勝負しようと思ったんです。まあ、アンジュさんは魔法を使わないので俺も魔法は使わない様にしてましたけどね。ユリウスさんには、ちゃんと魔法でも攻撃を仕掛けますから安心してください」


「それを聞けて安心だよ」


 ユリウスは俺が魔法も使うと言うと、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 アンジュに対して魔法を使わなかったのは、ユリウスの師でもあるアンジュと武器一つで戦いたいという思いがあったからだ。

 逆にユリウスにはそれは無い為、魔法も使おうと最初から考えていた。


「それでは、ユリウス対ジンの対決をはじめます。両者、準備は良いですね? それでは、試合開始!」


 リコラの試合開始の合図と共に、ユリウスと俺は同時に【身体強化】を使い、ユリウスは一気に詰めて来た。

 そんなユリウスに対して俺は落ち着いて魔法を放ち、ユリウスの足を止め、更に追い打ちで魔法を放った。

 感知能力が高いユリウスは魔力のちょっとした反応を感じ、魔法が襲う前にその場から移動して徐々に俺との距離を詰めて来た。

 昔に比べて、格段に感知能力が高くなってるな……ゲーム時よりも強くなってるだろうと予想していたが、予想を遥かに超える力だ。


「ジン君の魔法はこの程度じゃないだろ? もっと強くしても大丈夫だよ」


「……言いましたね」


 ユリウスの安い挑発に俺は乗り、魔法に込める魔力を更に上げた。

 序盤、楽しそうに笑っていたユリウスだが、時間が進むにつれて余裕も無くなって行き、次第に真剣な顔つきへとなっていった。

 それでも時々俺が今までユリウスに見せた事が無いような戦い方をすると、驚き笑みを浮かべる事もあった。

 そうして試合開始から俺の試合ペースで戦いは進むと、そのペースを打破する為にユリウスが動こうとした。


「ユリウスさん、逃がさないよ」


「ッ!」


 ユリウスは俺の接近により、考えていた次の攻撃を止められると次の攻撃を考え始めた。

 しかし、俺はユリウスに悠長に考える時間を与えないように常にプレッシャーをかけ続け、俺の攻撃が直撃して数値が増えていった。

 そうして戦いはその状態が続き、遂にユリウスの魔道具の数値が規定の数値に達してしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ~、やっぱりジン君は強いよね。刀術も凄く上手いし、魔法なんて一つ一つが国の魔法使いの本気の一発以上の力だよ。凌ぐだけで、僕の体力が持っていかれちゃったよ」


「ユリウスさん相手に油断したら、いつ逆転されるか分かりませんから、ずっと気を張ってました」


「途中、何回か油断を誘った攻撃をしたんだけど、気付いてたよね?」


「はい、気付いていましたよ。昔の俺なら、多分つられてまんまとやられてました」


 ユリウスは本当に戦いが上手く、戦闘中に何回か俺が油断しそうな攻撃を仕掛けて来た。

 多分、昔の俺ならすんなりとその攻撃に釣られていたと思う。

 三年間の様々な経験と、師匠との訓練のおかげだろう。

 それから、回復薬をユリウスに渡して飲んでもらい審判役をしてくれたリコラにお礼を言い、試合を見ていたクロエ達から凄かった等の感想を貰った。

 ユリウスの頼みで引き受けた今回の模擬戦闘だったが、かなりいい経験とクロエ達に良い刺激になったようで、改めてやって良かったなと感じた。

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