第217話 【隠れ里、参戦・2】


「神秘薬に魔剣の提供。これだけで、魔王軍との戦いは一気に人間側に有利になりますね」


「本来であれば竜人国の様に戦力を提供した方が良い所ですが、儂等の里も魔王軍にとっては侵攻対象の場所のようじゃから、竜人国の様に戦力に余裕がなくて里を守るので精一杯なんじゃ」


 竜人国と比べたら何処も一緒だしな、あの国がおかしいんだ。

 戦力もそうだが、総人口も桁外れに多い。

 今回、変な繋がりで味方になってくれたのは本当に良かった。

 それだけでもかなりゲームでは死ぬことになる大勢の人が、竜人国のおかげで救われた。

 勿論、ジンというキャラが居ないおかげで人間側も魔王軍に対して、全戦力を注ぎ込めてるからというのもある。


「それにしても、ドワーフ族の魔剣。あんな数を国に渡して良かったんですか? 正直、魔剣一つだけでもかなりの戦力ですよね?」


「今回の事で世界の敵は、協力して戦う事が最優先だと気付かされたんじゃ」


 ドベルドの言葉にギルゼルも頷き、いち早く魔王軍を倒す事が最優先だと気付いたと言った。

 その後、今度は里に遊びに来て欲しいと言われ、ドベルド達は帰って行った。


「ジン君、おかえり。誰か来てたみたいだけど、誰だったの?」


「エルフ族とドワーフ族の長達だよ。魔王軍との戦いに参戦する事になった経緯とかを話しに来て、今後は王都にも偶に来るって言ってた」


「へ~、そうなんだ。それじゃあ、薬の事で分からない事があったらエルフ族の人達に聞けるかな?」


「難しいんじゃないか? 一応は、最高傑作だって言ってた物だし、早々教えて貰えそうにはないけどな」


 そういう俺だが聞いてみるだけなら良いだろうと思い、今度会う機会があれば薬についてちょっと教えて貰おうと考えた。

 それから俺はレンの研究の手伝いをしてその日は過ごし、宿に戻り部屋で夕食まで時間を潰していると部屋にフィオロが尋ねて来た。


「珍しいな、お前から俺の所に来るなんて」


「ええ、余り近づかない様にしていたもの。力を封印した相手に好き好んで近づく馬鹿は居ないわ」


「まあな、それでそんなお前がどうして来たんだ?」


 フィオロは俺の言葉に対して、険しい表情をして「この世界に悪魔が何体か出て来たわ」と言った。

 悪魔が出て来た。

 それはつまり、ゲームでのジンがフィオロと契約したようにこの世界の誰かが悪魔と契約したという事になる。


「それは本当なのか?」


「力を奪われても、そっちの能力は封印して無かったでしょ? ついこの間、この世界に悪魔が出て来る気配を感じたのよ。それも、私と同等クラスの悪魔がね」


「色の名持ちか?」


「遠すぎてどの個体かまでは分からなかったけど、名持ちなのは確かね」


 フィオロからの話を聞いた俺は、ふと嫌な予感がしてフィオロにある事を聞いた。


「……なあ、その悪魔が出て来た場所って勇者の所じゃないよな?」


「勇者って、今は確かドラゴンの所だったかしら? それなら大丈夫よ。私が感じたのは、全く別の方向だから、もしかして勇者が悪魔と契約したって思ったの?」


「まあな、勇者の成長を何度か止めてしまった自覚はあるから、そのせいで悪魔に付け入られたかも知れないと思ってな」


「ふ~ん……まあ、勇者には悪魔にとって嫌な聖剣があるから、早々悪魔に狙われる事は無いわよ。余程、心にダメージが無いと契約する事すら出来ないわ」


 勇者の聖剣には、魔物や悪魔といった〝魔〟に対して物凄い耐性が付いている。

 確かにあの聖剣がある限りは、勇者が闇落ちみたいなパターンはないとは思うけど、それでも心配にはなるな……。


「勇者の心配はいいとして、悪魔がこの世界に来てるってのは確実なんだよな?」


「ええ、一応報告しておこうと思ってね」


「へ~意外だな、お前だったらその悪魔と協力して力を取り戻すと思ったんだけど」


「私も今の生活に慣れて、人間の生活を楽しんでるのよ。悪魔の世界に居た頃より楽しいし、何よりご飯も美味しいもの。力は失ったけど、他はいい事ばかりだから壊されたくないのよ」


 フィオロはそう言うと、最後に小声で「それにヘレナ達とも仲良くなったし」と恥ずかしそうに頬を赤く染めてそう言った。

 それから俺はフィオロに礼を言って、一先ず今後について考える事にした。


「まあ、一番は師匠に話を聞く事なんだけど……師匠、いつになったら戻って来るんだ?」


 ヘレナーザの話によれば、俺へのプレゼントを探しに出かけたと言ってたけど、未だに帰って来てる様子はない。

 その代わり空島にはヘレナーザが居るから、ヘレナーザに話をして悪魔への対策をしておいた方がいいかな?

 そんな事を考え今日は既に夕方で今行ったら迷惑になるだろうから、明日空島に行こうと決めた。

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