第210話 【隠れ里のエルフ・1】


 隠れ里の救援の為、戦いの準備をしていた俺達だが流石に今から向かうには時間的にも厳しいと考え明日、動く事にした。


「でも明日まで大丈夫かな? もうエルフ族の里を魔王軍が襲ってるんでしょ?」


「隠れ里の者達を舐めない方がいいぞ、今まで襲撃されたのは多分ダミーの里だろう。用意周到で堅実なんだ」


 隠れ里のエルフとドワーフについて、俺はこの世界に来てから色々と調べてみた。

 まあ、色々調べたと言ってもその調査が進んだのはここ最近の事、師匠から隠れ里について色々と教えて貰った。


「それにドワーフの方はもっと用意周到な奴等で、地下に追い込まれても独自の隠し通路を使って逃げる事も出来るって言ってたから、早々やられるような者達じゃないからそこまで心配はしなくても大丈夫だよ」


 そうクロエ達に言って、今日の所は準備をしてきっちりと休む事にした。

 そして翌日、俺達はハンゾウの部下の隠れ里出身のエルフと合流した。


「はじめまして、私はエルフ族のキールと申します。この度は私の部族の救援の為、動いてくださりありがとうございます」


 ハンゾウよりも少し背が低い175㎝程の男性は、そう畏まった感じでそう挨拶をした。

 キールと挨拶を交わした俺は、何故かその場にいるハンゾウへと目をやった。


「……なあ、お前のその恰好からしてお前も一緒に来るのか?」


「こいつが隠れ里まで案内するって言ったのはこれが初めてだからな、こんな機会逃すはずないだろ? それにこうみえて、俺も戦えるからな」


「キールさんは守るけど、ハンゾウは一人でどうにかしろよ」


 そう俺は呆れた顔でハンゾウに言い、キールの案内で俺達はエルフ族の隠れ里を目指した。

 魔王軍が最後に襲った隠れ里から一番近い隠れ里を目指した俺達は、目的地に近づくと森が荒らされてるのを発見した。


「ここを通ったのは間違いないな……急ごうか」


 それから俺達は一気に加速して魔王軍の捜索をしつつ、森の奥へと進むと奥の方で戦闘音が聞こえた。

 眼の良いクロエとキールは、同時に「エルフ族と魔王軍が戦ってる」と報告をくれた。


「ハンゾウ、お前は魔法と剣どっちが得意なんだ?」


「魔法だな、後方に置いてくれるのか? さっきは知らんみたいな態度だっただろ?」


「邪魔されるよりかはマシだからな、それじゃあハンゾウはクロエと一緒に俺達の援護を頼むぞ」


「了解」


 ハンゾウも上の立場の人間ではあるが、この場では俺に従いクロエと共に魔法で援護する事に了承した。

 そうして俺達はそのまま奥に進むと、大群の魔王軍に囲まれた数十人のエルフ達が見えた。

 魔王軍よりも先に俺達の事に気付いたエルフ達は、新たな敵かと思われ警戒をされた。

 しかし直ぐに、キールの存在に気付いたエルフ達はキールの「助けに来た」という言葉に警戒を解いてくれた。


「貴方はもしかして、キール様ですか!?」


 魔王軍の大半を蹴散らして、エルフ達と合流するとその集団の中の少し衣服が周りと違うエルフがキールに対してそう声を掛けた。

 そのエルフに対してキールは「今は戦いに集中するんだ」と言って、俺達はまだ沢山居る魔王軍との戦いに集中した。

 それから約一時間程が経ち、ようやく全ての魔王軍を討伐した俺達は傷を負ったエルフに回復薬を渡して休む事にした。


「キールさん、さっきエルフ達から凄い見られてましたけど、もしかしてエルフ族の中でも偉い方なんですか?」


「……まあ、そうですね。実を言うと、私は隠れ里に住むエルフ族の族長の子なんです。少し前に父といざこざがあり、家出をしましてその時にハンゾウ様と出会ったんです」


 キールがそう言うと、怪我の手当をしていた集団の中でも一人だけ衣服が違う女性のエルフが話しかけた。


「やはり、キール様ですよね」


「……うん、久しぶりロアナ。元気にしていたかい?」


 そうキールが声を掛けると、その女性は目に涙を浮かべキールに抱き着いた。

 その光景にハンゾウは「彼女が居たから、女に興味なかったんだな」と、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。

 その後、その女性が落ち着くまで俺達は待ち、待ってる間に他のエルフ達から隠れ里の現在の情勢について聞いた。


「魔王軍、最近は竜人国から散々やられて数が減ったと思ってたけど、隠れ里の襲撃の為に人員を移動させてたのか……」


「薄々、何か準備してそうな動きだなとは思ってたが、まさか隠れ里の襲撃の為に数を絞って居たとはな……まあ、確かに無駄に竜人国とやるよりも、隠れ里の者達を襲ってアイテムを手に入れる方が簡単ではあるからな」


 ハンゾウと俺がそう話していると、ロアナとキールが呼んだ女性のエルフがようやく落ち着いて話し合いに加わった。


「ロアナ、父さん達の所はまだ大丈夫なのか?」


「はい、今の所襲われているのは予め用意していた偽の里で、死者も現在は居ません。ただ思っていたよりも魔王軍の数が多く、戦士に疲弊が溜まってる状況です」


 まあ、魔王軍は数だけは居るからな、有利な状況で戦ってるとはいえ何日も戦い続けていたら、そりゃ疲れも出てくるだろう。


「あの、それでキール様、先程から気に入っていたのですがこの方達はキール様とはどういった関係の人達なんですか?」


 ロアナと呼ばれたエルフの女性は、キールからの質問に答えるとそう俺達を見てから聞いた。


「里を助けてもらう為に呼んだ人達だよ。この人達は既に何度も魔王軍と戦ってきて、その全ての戦いを勝利してきた人達だよ」


 そうキールが言うと、ロアナは驚いた顔をして「凄い人達なんですね」と俺達を見てそう言った。

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