第188話 【敗北の勇者・4】


「そういや、ジン。勇者が四天王に負けたって噂聞いたけど、あれ本当なのか?」


 装備の確認を終えて残りの代金を支払っていると、小声でリーザからそう聞かれた。

 話が出回らないようにされているが、いつもだったら四天王の討伐祝いをする頃なのにそれが無くて、王都の人達は勘付いたみたいだな。


「まあ、そうですね。一応、怪我とかは薬で治ってますけど、精神的ダメージがあって戦女の人達と共に今は王城で休んでます」


「本当だったのね……今まで負けた事が無かったから、魔王軍の勢いも大分減ってたみたいだけど、これからどうなるのかね……」


「ああ、そこは大丈夫ですよ。勇者達が復活するまでは、俺達が動く事になったので」


 心配気味に言ったリーザの言葉に、俺がそう返すとリーザは「えっ?」と驚いた顔をした。

 そしてリーザは「ジン、目立つの嫌いじゃなかったの?」と聞いて来た。


「はい、ですけど問題が解決出来たのでこれからは多少目立っても大丈夫になったんです。それで、まあ勇者が戻ってくる間は俺達が魔王軍の対処に出る事になったんです」


「ジン達が動くんなら安心ね。心配して損した」


 リーザは俺達が動くと知ると、さっきまでの心配してた様子から笑顔を浮かべた。


「正直、得体の知れない勇者よりジンの方が強さも知ってるから安心できる。ちゃちゃっと、魔王まで倒してきてくれてもいいんだよ?」


「魔王は勇者じゃないと倒せませんから、その提案は無理ですね。まあ、勇者達が負けた四天王位なら俺達が倒しておいてもいいかもしれませんけどね」


 そんな冗談を言いつつ、代金の支払いを終えたので先に外に出ていたクロエ達と宿に戻った。

 宿に戻って来た俺達は、それぞれ別行動をとる事にした。

 クロエとレイはフィオロを連れて、王都の外に新しい装備を試しに行き、レンは研究の続きがあるからとギルドへと行った。

 皆を見送った俺は一人宿に残るのではなく、師匠達が居る空島へと移動した。


「あら、それが新しい装備?」


「はい、馴染みの店で頼んで作って貰ったんです。武器の方も新しくしたんです」


 俺はそう言いながら、ヴェルド様の牙で出来た刀を見せた。


「これって、ヴェルドの牙で出来た刀? 凄いわね。人間がヴェルドの牙をここまでちゃんと加工する何て、その鍛冶師は本当に腕がいいみたいね」


「俺が知ってる鍛冶師の中で一番の腕です」


 リーザの刀を師匠は見ると、リーザの腕が凄く良い事を察してそう口にした。

 それから師匠は俺の装備を一通り見て、これなら魔王軍に対しても余裕で相手出来ると言われた。


「竜王の牙を加工できる人間が居るなんて驚き、その人間と一度会ってみたい……」


「それでしたら、今度ナシャリーさんも来ますか? 俺の紹介なら、リーザも会ってくれると思いますよ」


「うん、よろしく」


 ナシャリーもまたリーザの作った刀を見て、リーザに興味を示した様だった。

 ヘレナーザ様は刀というより、防具の方に目がいっていて「センスがいいわね……」と興味深そうに見ていた。


「そう言えば、ヘレナーザさんとナシャリーさんって元の住処に戻らないんですか?」


「最初は修行を終わったら、直ぐに戻る予定だったわ。だけど、ジン君達の成長の姿を見てたら戻ってたら成長の瞬間を見落としそうだな~って思って、暫くマリアンナの所で過ごす予定なのよ」


「私も一緒、それにレンにはまだ沢山教える事がある」


「うんうん、私も同じ~、だからもう暫くはここに居る予定よ」


 そう言ったヘレナーザとナシャリーに対して、師匠は「二人共、いい子が見つかって良かったわね」と嬉しそうにそう言った。

 それから師匠達と今後の予定について話し合いを行い、俺は魔王軍との戦いに向けて準備を始めた。

 準備といっても、情報を集める位なので情報収集を頼んでいるフィーネさんからの連絡が来るまでの間、俺達は修行をしながら待つ事にした。

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