第166話 【孵化・1】


 フィオロが一緒に宿で暮らし始めて数日が経ったが、未だに師匠は戻って来ていない。

 俺の修行相手を探しに行くと言って出かけたから、修行相手を探してるんだとは思うけどどこまで行ったのか全く分からない。

 師匠の転移はそれこそ、この世界の何処にでも行けるレベルだろうから、探そうにも探せない為、俺は以前まで続けていた訓練を空島でしながら日々過ごしていた。


「よくやるわね。ドラゴン相手に戦う人間なんて、マリアンナ以外居ないと思ってたけど、流石あの悪魔の弟子ね」


 宿に居ても暇だというフィオロは修行をしてる間、俺と一緒に空島へと来て今の体に慣れる為に一人で訓練をしている。

 力を封印されたとはいえ、元は最上位の悪魔であるフィオロは冒険者で言うと銀級冒険者並みの力は備わっている。

 だがその力に慣れていないフィオロは、扱いがまだ慣れていないようで魔法も補助系統の魔法しか今の所は使えないといった感じだ。


「それに対しては俺は反論出来ないな、今はもう慣れてしまったけど普通はドラゴンと戦う何て人間からしたら偉業の一つだからね」


「へ~、人間からしたらドラゴンと戦うだけでも偉業なんだ。だったら、ジンは偉業を達成したことになるね」


 スカイはドラゴンの体から、人間の体へと変身しながらそう言った。

 少し前からスカイは、休む時は人間の姿になるようになった。

 なんで人間の姿になるのかスカイに聞くと、「こっちの姿の方が楽なんだよね~」と言っていた。


「というか、いつになったらマリアンナは帰って来るの? もう出て行ってから大分経つわよ?」


「それは俺も分からない、連絡すら来ないからな……スカイさんは何か知ってたりしますか?」


「ジン達が来てからずっと居たけど、マリアンナは基本的に空島に居ない事の方が多いから、今の方が普通なんだよね」


 俺の質問に対してスカイはそう答え、俺はふと師匠の二つ名を思いだした。


「……そう言えば、師匠の二つ名は〝放浪の魔女〟でしたね」


「そうそう。マリアンナは色んな所を旅をして回る魔女だからね。三人の魔女の中でも、一番有名なのがマリアンナなんだよ」


 この世界には三人の魔女が居る。

 魔女の設定はあまり詳しく書かれていなかったが、三人の魔女の名前とどんな魔女のかくらいは書かれていた。

 師匠を除いた二人の魔女の名は〝狭間の魔女ヘレナーザ〟と〝無の魔女ナシャリー〟。

 師匠とは違い、この二人の魔女は基本的にそれぞれ別空間の所でずっと引きこもってる魔女達でこっちの世界には滅多に現れる事は無い。


「スカイさんは師匠以外の魔女方達と会った事ってあるんですか?」


「狭間の魔女とは会った事があるよ。でも、無の魔女の方は会った事が無いかな、マリアンナ曰く彼女がこっちの世界に来る事は多分もう無いと前に言ってたね」


「そうなんですね。師匠と同じ魔女の人達に俺も会ってみたかったです」


 そう俺が言うと、スカイは「マリアンナに頼んだら、連れて来てもらえるんじゃないかな?」と言った。


「師匠でも流石に同じ魔女を動かす事は無理なんじゃないですか?」


「そうかな? 前来た時もマリアンナに用事を頼まれたから来たって〝狭間の魔女〟が言ってたから、案外マリアンナに頼めば会えると思うよ」


 そうスカイから言われた俺は、師匠が戻ってきたら一度言ってみようかなと思い休憩は終わりにして修行を再開した。

 そうして一日の修行を終えた俺は、フィオロと一緒に宿に戻って来て夕食を食べシャワーを浴び、部屋に戻って来て卵に魔力を流した。

 師匠と出会ってからの日課の一つである卵への魔力供給は、どんなに疲れていても欠かさずやっている。

 最初の頃は魔力を流しても何も変化がなく、本当にこれで良いのか心配だったが一週間を超えた辺りから卵に模様が出るなどの変化が現れた。

 それからも徐々に卵は変わって行き、当初白色だった卵には何本もの線が出来て模様の様な形となっていた。


「師匠からは早くて一週間で孵るって言われたけど、一カ月以上魔力をやってるのに生まれる気がしないな……変化はしてるから、魔力を与えている意味は感じるんだけど」


 俺はそう愚痴りながら卵への魔力供給を終えると、無くさないように【異空間ボックス】へと入れてベッドに横になり眠った。

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