第163話 【フィオロとこれから・1】


 それから俺達は宝玉の力で力を奪われ、俺と師匠のペット扱いとなったフィオロを交え今後について話し合いを始めた。


「まず、私を解放した方が良いわね。ほらっ、やっぱり上の悪魔である私が力が無くなったって気づいたら、他の悪魔が襲いに来る可能性もあるわよ?」


「その時は、貴女の力を一時的に解放させればいいだけでしょ? それと先に言っておくけど、その宝玉はただの媒介に過ぎないから、それを壊したところで貴女の力は封印されたままよ。まあ、今のその状態じゃ壊す事も出来ないか」


 テーブルの上に置いていた宝玉に触ろうとしていたフィオロは、師匠の言葉にグヌヌという反応をすると溜息を吐いて俺の方を見て来た。


「はあ、全くそこの人間に興味を抱いたばっかりにこんな事になるなんて……まあ、でも暇だったし、ありっちゃありなのかしら? マリアンナの封印がある限り、どうせ私は魔界に帰れないんでしょ?」


「ええ、そうなるわね。まあ、帰そうと思えば帰せるけど、そうした場合向こうで他の悪魔から馬鹿にされるのは確実ね」


「……どうか、こっちの世界で暮らさせてください。お願いします」


 フィオロは師匠の言葉に、頭を下げてそうお願いをした。

 そんなフィオロの姿に師匠は満足気味に「ふふっ、それは話し合いできめましょうね」と言って、フィオロを虐めるのを楽しんでいる様だった。


「まずは、弟子ちゃんの今後についてね」


「……そうですね。俺がこれまで目立ちたくない行動をとっていたのは、悪魔に自分の存在を認識されないようにという思いが強く、色々と制限してきました。ただその隠れようとしていたのに、大分前から気付かれていたんだなと少しショックは受けてます」


「……そう言えば、フィオロはどうやって弟子ちゃんを見つけたの?」


「んっ? 転生者の魂がそこの人間に入る前から、見てたけど? そもそも、元のそこの人間の魔力が気に入って見てたら、もう一つの魂が入って来てなんだかおもしろい事になったって思ってずっと見てたの」


 ……えっ、じゃあ俺の頑張りって全部無駄だったって事か?

 闇落ちの最大の原因は悪魔からの闇の力の譲渡により、ジンの秘められた能力が解放され、その力を使いゲームでは問題を数多く起こしていた。

 だから俺はこの世界に転生した時から、この悪魔から隠れる為にと極力目立たないように行動しつつ、悪魔よけの魔道具なんかも買い漁っていた。


「弟子ちゃん、そんな落ち込む事は無いわよ。弟子ちゃんの魔力がフィオロに気に入られたって事は、弟子ちゃんの魔力は悪魔にとって興味の対象であることは変わりないと思うわ。見た感じ、フィオロ以外の悪魔の魔力は感じないから、それを防げたって事だけでも良かったと思うわ」


「まあ、元々私が見てた人間だから多少隠してはいたけど、もしもさっきの話通りだったら多分他の悪魔もちょっかいをかけていたと思うわよ。その〝げーむ〟の中だと、私だけが力を与えていたのかしら?」


「……いや、闇落ちの原因は確かにフィオロだけど他の悪魔からも力を貰っていたって書いてたな」


 最初の原因はフィオロだったが、それに釣られた他の悪魔もジンに力を与えていた。

 悪魔にとって人間が苦しむのはいい事なので、力も有り、人間への復讐心も強かったジンは悪魔にとって良い取引相手だった。


「なら、そこは守られたんだからいいんじゃないの? まあ、そのせいでこんな罰を私だけが受ける事になったんだけど……こうなるなら、他の子にも話して巻き添えすれば良かったわ」


「あら、珍しいわね。貴女が他の子に話して無いって、それだけ弟子ちゃんを独占したかったの?」


「……正直、ここまで悪魔にとって魅力的な魔力は無いわね。マリアンナの場合、別の意味で興味があるけど、ジンの魔力は美味しさだけで悪魔を使役する事も可能なレベルね」


 魔力に味なんてあるのか? 俺はそう思い「魔力に美味しいとか不味いとかあるのか?」とフィオロに聞いた。


「あるわよ。ジンの魔力、偶におつまみ感覚で頂いてたけど本当に美味しくて、食べ過ぎないようにいつも注意して食べてたわ」


「……俺の魔力食べてたのかよ」


「勿論。まあ、それも今じゃ勝手に食べられないようにされてるけどね。話した序に、ちょっとくれない?」


 お願いと、可愛らしいポーズをして頼んできたフィオロに師匠は「フィオロ?」と名前を呼ぶと、フィオロはビクッと反応して出していた手を戻した。

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