第138話 【拳闘士ルバド・3】
その後、爺同士の会話が終わったのを見計らい、俺はルバドの言っていた噂についてレーヴィンに聞いた。
「うむ、まあそう言う話もあるというだけじゃ、流石に皆はジンの事をよく知ってるから、その噂が広まらないように口にはしないようにしておるんじゃよ」
「……じゃあ、何で俺の事を知らない筈のルバドさんがその噂を知ってるんですかレーヴィンさん?」
「……ルバドだけじゃ、酒の席でポロッと」
そう言ったレーヴィンに対して、俺はボソリと「奥さんの連絡しておきますね」と言った。
すると、レーヴィンは俺の足にしがみついて「や、止めてくれ!」と必死な顔をして止めて来た。
うん、無理だね。
「というか、俺と勇者って比べたとして勇者のが強いと思いますけどね」
「……ジンは、勇者の力を見た事はないじゃろ? 確かに普通の兵士クラスよりかは既に強いが、まあその程度なんじゃよ」
俺の足にしがみついたまま真剣な顔をしてそう言ったレーヴィンに対して、俺は現在の勇者の力を詳しく聞いた。
ゲーム通り、勇者は剣術・魔法どちらも才能が有り、日を分けて両方の訓練をしているらしい。
だがその訓練をつけてる人達、剣術はユリウス、体術はアンドル、魔法はリオンとレーヴィンと俺と共に訓練をしていた人達がやっていると言い。
そのせいか、俺と少し比べてしまっているといった。
「勇者とジンは同い年じゃ、それも勇者の方はジンよりも幼い頃から魔物を狩っていて基礎がちゃんと出来ておるのに、ジンよりも成長が遅くてのう。皆も比べたらいけないと分かっておるんじゃが……」
「……まあ、多少俺の責任もあると思いますけど、そこはちゃんとしておかないと勇者が傷つきますよ。折角の魔王に対抗できる唯一の人なんですから」
どんなに力が強い者だとしても、魔王を討伐できるのは勇者である主人公だけだ。
いくら俺と比べ、俺の方が強いかもと思っていようと、勇者しか魔王の対抗策は無い。
まあ、〝アレ〟が俺を認めたら俺も魔王に対抗できると思うが、そんな事は起こるはずが無いしな。
「取り敢えず、レーヴィンさん達は俺の事は忘れて真剣に勇者と向き合った方がいいですよ。魔王との対戦まで時間も無いんですから」
「……分かっておる。じゃから、儂等も気を付けておる。今の所、他の者には儂等の思いはバレておらんしの」
「まあ、それならいいですけど……そう言えば、戦女の方達は全員見つかったんですか?」
「うむ、そちらも大丈夫じゃ。7人とも見つかっておる。中には強者も選ばれておるから、その者達がいるおかげで今は魔王軍に対応できておる」
前回、王都に来た時はまだ最後の一人が見つかってなかったが、無事に全員見つかったようだ。
勇者誕生から少しして、俺は姫様に戦女についての情報を渡していた。
この当時、何処に戦女が居るのか全て分かっている俺は、場所をそのままいうのではなくヒントとして姫様に教えた。
どうして、その事を知ってるのか聞かれた時は、いつも通りのらりくらりと質問を回避した。
「それなら良かったです。心配事の一つが消えました」
そう俺が言うと、黙って聞いていたルバドが一言「いつまで、レーヴィンはしがみついてるんだ?」と言った。
ルバドの言葉通り、この会話中レーヴィンはずっと俺の足にしがみついていた。
本人も忘れていたようで、スッと立ち上がるとわざとらしく咳払いをした。
「しかし、聞いていた話よりジンは強いみたいだな、儂との模擬戦闘でもまだまだ力を温存していたようじゃし」
「まあ、これでも強くなる為に色んな所を旅してまわってますからね」
「爺ちゃん、ジン達は本当に凄いよ。この間なんて、あの〝絶海のダンジョン〟をクリアしてきた位だしね」
「なんじゃと!?」
リーザから〝絶海のダンジョン〟をクリアしたと聞いたルバドは、驚いた顔をしてそう叫んだ。
それからルバドは真剣な顔をして、俺の方を見てきた。
「ジン、お主の力、この老い先短い儂に貸してはくれんか?」
その真剣な様子に俺は、普通の頼み事じゃないなと察して「内容によります」と言って頼み事の内容を聞く事にした。
ルバドの頼み事、それは王都から馬車で三時間程で着く場所にあるダンジョン。
〝谷底のダンジョン〟へ、一緒に攻略に行って欲しいと言われた。
「〝谷底のダンジョン〟ですか?」
〝谷底のダンジョン〟は名前の通り、谷の底にあるダンジョンで生息してる魔物はジメジメとした所が好きなスライム種が特に多い。
特に難しいという場所でもないのに、何でルバドはそこに俺に一緒に来て欲しいと思ったんだ?
「ジン、あそこは確かに出て来る魔物は強くないから、銀級冒険者の儂なら一人でも攻略はできるじゃろう。儂にはあの場所で手に入れたい物があるんじゃ。じゃが、それを手に入れるには人手が必要じゃ」
ふむ、リーザの爺ちゃんの頼みだし、特に行きたくない理由も無いな。
それに、あそこなら護衛も俺一人で大丈夫だろう。
一応、皆には声を掛けて、行けるなら一緒に行ってもらえばいいだろう。
そう考えた俺は、ルバドの頼みに「良いですよ」と答え、準備期間として一日貰い明後日出発する事を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます