第133話 【元工房長・1】


 リーザの父親が王都に帰ってくるという話を聞いてから、俺は王都の外には出ずに街の中で休暇を過ごす事にした。

 レイとクロエは女性同士で一緒に買い物に出かけているみたいなので、俺はレンの部屋でちょっと雑談をしていた。


「へえ、ガフカの工房の前工房長が戻って来るのか、それでジンは昨日からソワソワしてるんだな」


「ああ、だってリーザの父親って事はリーザに鍛冶を教えた人物でもあるんだぜ? あのリーザに鍛冶を教えた人の鍛冶の腕がどの位なのか、単純に興味があるんだよ」


「……確かにそう言われら興味が湧く気持ちも分かるな」


 レンはそう言って、もし面白い人だったら後で教えてくれと言われた。

 その後、レンは研究に行ってくると出かけたので俺は一人になり、自分の部屋に戻り【瞑想】を始めた。

 翌日、俺はふとリーザに店に行くと、珍しくリーザが店の中で誰かと話している声が聞こえて来た。


「んっ、ジンか。何しに来たんだい?」


「いや、昨日リーザが父親が来るって言ってたから、ガフカの元工房長に会ってみたいと思って来てみたんだが……その人ってもしかして」


 リーザの横に立つ男性、何処となくリーザと似た雰囲気を出してる男性を一度見て、リーザに視線を戻した。


「そうよ。私の父の、リブル・ガフカ。数年前に修行してくるって、少ない金とこの工房を置いて出て行った馬鹿親父よ」


「ふむ、見た事が無い顔という事はリーザの客か。儂はリーザの父、リブルじゃ。よろしくな」


「よろしくおねがいします」


 リーザの父、リブル・ガフカ。

 何処となく雰囲気がリーザに似ているが、性格はリーザのように粗くはなく落ち着いた男性といった感じだ。


「一応、言っておくけどジンが特大サイズの金塊を持ってきてくれた人よ」


「ぬっ!? それは本当か?」


「ええ、まあ偶々見つけて」


「なんという幸運の持ち主なんじゃ、儂も修行をする一環で特大サイズの金塊をずっと探しておったがこの数年間で大サイズの金塊を数個見つけた位じゃった」


 そうリブルが落ち込んだ風に言うと、リーザは「ふっ」と嘲笑うかのように笑った。


「父さん知らないと思うけど、私この数年間で特大サイズの金塊2つ手に入れたのよ」


「ッ!?」


 リーザの言葉にリブルは驚き、目を開いて声が出ない程驚いていた。

 リーザの奴、今の状況楽しんでるな、そんなに親子の仲が悪い風には見えないけど何かがあったのは間違いないだろうな。

 ゲームではリーザの細かな設定はそこまで書かれてなかったから、親父と何か起こっていたとしても俺はそれを知らない。


「もしかしなくも、二つともこのジン君が手に入れたのか?」


「ええ、そうよ。ジンは凄い人なのよ。そんな凄い人が〝私〟のお客さんでいるのよ。凄いでしょ?」


「ぐぬぬ……わ、儂だって儂の客の中には剣豪と呼ばれておる男がおるし、他にも名の知れた奴等がいるもん!」


「じゃあ、その人達が父さんの欲しがってた特大サイズの金塊を手に入れた? 手に入れてないよね? でも私の客のジンは二個も手に入れたのよ」


 そうリーザは胸を張って言うと、リブルは負けを認めたのかシュンッと落ち込み「負けじゃよ……」とボソリと呟いた。


「リーザ、さっきから親父さん相手になにしてるんだ?」


「子供の頃、私に色々と自慢話をしてきた仕返しをしてるのよ。特大サイズの金塊を使った溶鉱炉、構造は私が考えたけど作ろうとしていたのは私以外にも居るのよ。それが今ここで項垂れてる私の父親よ」


「……もしかして、自分のが先に作った事を自慢して、親父さんは負けを認めたって感じか?」


「そう言う事よ。何度も今まで負けて来たから、今思う存分勝利の快感を味わってるのよ」


 ……変な親子だな、そう俺は二人の事を見てそう感じた。

 それから暫く、リブルは落ち込んで様子だったが、リーザから「溶鉱炉みる?」と言われると耳をピンッと立てて、ササッと店の奥の作業場へと行った。

 俺もついて行っていいのか、迷っているとリーザから「ジン、こないの?」と聞かれたので俺は小走りで作業場へと向かった。

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