第116話 【やり残し・3】


 それから数日間、俺達は岩石山のダンジョンで探索しては二日休むというのを繰り返し、年を越した。

 この世界でも年越しは落ち着いて過ごすという文化があるみたいで、冒険者ギルドもお休み期間に入る。

 そして年を越して二日目、俺はクロエの家に新年の挨拶をしに行った。


「クロエ、今年もよろしくな」


「うん、よろしくね。ジン君」


 その後、新年の豪華な食事をクロエの家でご馳走になった。


「新年からお邪魔したのに、食事までご馳走して頂いて、すみません」


「いいのよ。クロエちゃんと仲良くしてくれてるんだもの、ジン君の出会ってからクロエちゃん凄く楽しそうに冒険者の活動をしてるのよ? 本当に感謝してるわ」


 食事のお礼を言うと、クロエの母からそんな事を言われた。

 そんな母の言葉に「ちょ、ちょっとお母さん!?」と、クロエは慌てた様子で立ち上がった。

 その後も楽しく新年を過ごした俺は、翌日も挨拶回りを行った。

 流れで王城にも行くか迷ったが、流石に今は貴族の集まりで忙しいだろうと思い、王城への挨拶はとりあえずやめておいた。


「さてと、クロエ。残り大体4ヵ月くらいだけど、どうする? 春先に旅に出るのは決定として、それまでどう動くか」


「う~ん、そろそろ岩石山のダンジョンはクリアしてもいいんじゃないかな? リコラちゃんに聞いたら、そろそろダンジョンクリアしても驚かれはしないとは思うって言ってたし」


「あそこのダンジョンに潜り始めて数ヵ月経つし、クリアしてもそこまで驚かれはしないか……うん、分かった。取り敢えず、最初にやる事は岩石山のダンジョンを攻略だけど、多分一日で終わるな」


 とは言っても既に30層まで安全に行けるようになってるから、後はボスを討伐するだけだ。

 そこまで時間もかからないし、なんなら明日やろうと思えば直ぐに終わる。


「残ってる事と言えば、後は訓練くらいだよね? ジン君としてはこれ以上、昇格するのは嫌でしょ?」


「まあ、するなら後半年は待ちたいかな、一年でも銅級は速い方だけど、流石に今よりかは目立たないと思うし」


「う~ん、だとしたら何が良いんだろう……」


 流石に残り四ヵ月近くをまた訓練するのは、別に良いけどなんか物足りない気がする。

 だったら、姫様の護衛任務を春までしていた方が断然、給料も安定してもらえたから続けて置けば良かったってなる。


「昇格しない程度に依頼をするというのが一番いいのかな、前みたいに討伐系ばかりするんじゃなくて、街の依頼とかだったらそこまで評価される物はないだろうし」


「確かに、討伐系だと昇格の評価が高いけど街の依頼はそこまで無いから、ジン君にとっては良いよね」


 街の依頼と討伐の依頼だと、昇格に関わる評価値が大分違ってくる。

 評価値とは、依頼の危険度によったり、内容の難しさで変動するから、街の依頼だと危険度はそこまで無く、更に報酬も低い物が多い。

 そんな依頼、誰が受けるんだ? という疑問もあるが、怪我で討伐系を出来ない冒険者が日銭を稼ぐ為だったり、初心者が少しでもお金を稼ぐ為にやったりしている。


「その人達には悪いけど、時間つぶしとしてやらせてもらうか、出来るだけ皆がしなさそうな奴を受ければ迷惑にもならないだろうしな」


「そうだね。街の依頼でもおつかい系は人気らしいから、清掃だったりお手伝いをメインにしていこっか、こうみえて掃除は得意だよ」


 そうクロエは胸を張りながら言い、俺達の今後の動きは決まった。

 その話し合いの結果を翌日、フィーネさん達に伝えると「それはギルドとしても助かります」と言われた。


「ここ最近、初心者の方でも無理して討伐系に行く方が多く、街の依頼が溜まり気味なんです」


「そうなんですか? だったら、本当に丁度良かったですね」


「はい、それにジンさん達は依頼の達成率も高く、ギルドとしても信頼を置いてますから信用がないと受けられない依頼等も任せられるので本当に助かります」


 そうフィーネさんは言い、俺は「そんなに依頼が溜まってるんですか?」と聞いた。


「正直に言いますと、上の位の冒険者様にギルドがお願いして片付けてるレベルで溜まってます」


「それを聞いただけで、相当ヤバいという事が伝わりました。でも仕方ないですね冒険者に強制して、街の依頼をしろとは言えませんからね」


「そうなんですよね。初心者の方には安全な依頼を選ぶようにと受付の方では言ってるんですが、中々街の依頼に手を付ける方は増えない状況が続いてます」


 成程な、まあでも俺達としては良いタイミングだったし、出来るだけ多く依頼を受けるとフィーネさん達と約束をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る