第95話 【レーヴィンの魔法教室・3】


 覚悟を決めた俺は、前もって準備していた道具を身に付けて行った。

 だが早朝から訓練が始まったせいで、俺は殆ど準備が出来なかった。

 出来た物と言えば、ミスリルの腕輪とシンシアの店で買ってる飴。

 防具系の道具を一つも準備出来なかったのは、本当に痛いな……。


「むっ? その腕輪の素材は、ミスリルではないか?」


「やっぱり分かるんですね。そうですよミスリルで出来た腕輪です。流石にレーヴィン様相手に、何も無しで相手したら俺は死にますからね。これ位の道具は許してください」


 そう俺が言うと、レーヴィンはニヤリと笑みを浮かべて「よいぞ」と言い。

 もしかしたら、俺は何かレーヴィンの変なスイッチを押したのかも、と恐怖を感じた。

 いや、大丈夫だ。

 流石のレーヴィンもこんな城の訓練場で本気の魔法なんて出す筈無いからな、ちょっと他の魔法使いより威力が高い魔法を使うだけに留まるだろう。


「レーヴィン様、ジン君。準備は良いですね?」


「うむ」


「はい」


 審判役の兵士からそう確認された俺達は返事をすると、兵士は開始の合図を送った。

 レーヴィンの魔法、それを受けるのが俺の役目。

 なら攻撃を全て捨て、防御の全振りすれば耐えれるはずだ!


「うむ、流石儂が見込んだ者じゃな! その歳で、それだけの魔力壁を張れるとは大したものじゃ! ならば、儂も期待に応えて最高の技を見せてやろう!」


 高らかに、そう宣言したレーヴィン。

 体を空中に浮かせると、両手に魔力を集め始めた。


「ちょっ! レーヴィン様!? その魔力の量、ヤバくないですか!? ここ王城の敷地内ですよ!」


「大丈夫じゃ、ちゃんと儂等の周りに魔力壁を展開してもらってるからの、それにこの程度ならジンも耐えられるから安心するがよい」


 そうレーヴィンが言うと、先程まで無かった魔力壁が俺とレーヴィンを囲むように展開されていた。

 何が安心するがよい、だ! そんな魔法くらったら、俺の力でも厳しいだろ!

 そう思いつつも俺は限界まで魔力を魔力壁へと注ぎこみ、出来るだけ壁を強固にした。


「それでは行くぞ、よく見ておくんじゃよ!」


「ッ!」


 魔力の溜めが終わったレーヴィンは、俺に向かって魔法を放ってきた。

 その魔法、俺が今まで見てきた中で威力は郡を抜いて高く、それを受け止める側の俺は必死に守る事に集中した。

 やっぱりこの魔法か……レーヴィンの持つ最強魔法【極・魔力砲】。

 属性魔法や希少魔法ではなく、ただ魔力を一点に集中して放つ魔法。

 しかし、その威力は作中の魔法技の中でもトップクラスでボス討伐の際はかなりの有効。

 魔法耐性が無い相手に対しては、その威力がそのまま効くという便利な魔法。


「おっ、やっぱり耐えれたでは無いか、流石儂が見込んだ者じゃ」


 そうして何とかレーヴィンの魔法を耐えきった俺は、魔力をほぼ失いその場に座り込み、俺を見て来るレーヴィンを睨んだ。

 レーヴィンを睨んでるけど、実際俺はこの眼で今の魔法をジックリと真正面から見てレーヴィンの言う通り、ある程度の事は実際に見て分かった。

 この魔法があれば今後、役立つ事もあるから理解できたのは俺としても有益だったけど……釈然としないな。


「どうじゃ、ジンよ。あの魔法は実際に受けた者の方が、習得する時間が早いが覚えられそうか?」


「……大体の事は感じて分かりました。ですけど、一つ疑問と言いますか分からない所があります」


「ほう。一回でそこまで分かったのか、それでその分からない事はなんじゃ?」


「魔力を一点に集める際、自分の魔力だけではなく空気中にある魔力も使ってましたよね? あれは、どういう原理でやったんですか?」


 あの場所はゲームでは簡略化されていて、実際に見るのがはじめてな俺はそう尋ねた。

 するとレーヴィンは、俺が尋ねた事に嬉々として答えてくれた。

 さっきの魔法の原理、あれは自身の魔力を一度周りに放出すると共に空気を吸うように体に引き寄せ。

 そして空気中の魔力を合わせ、一点に集めるというやり方だと教えられた。


「……成程、自分の魔力で空気中の魔力を引き寄せ、自分の魔力以上の魔力を集めて放つ技という事ですか」


「そう言う事じゃ、説明だけでは伝わらない魔法な上、相手が居ないと集中できずに失敗してしまう可能性があってジンに的の様な役目をしてもらったんじゃ」


「まあ、実際に的でしたね。ですけど、そのおかげで大体の事は分かりました。多分、実際に周りで見てるより受けた方が伝わりやすいですね」


「そうなんじゃ、じゃがあの魔法弱くしても威力は強くてのう。耐えられる人間は早々居ないんじゃ」


 だろうな、俺だってこの普通だとこの歳ではありえないレベルと魔力の数値。

 そしてミスリルの腕輪に、常時回復薬として飴を舐めていたから耐えきる事が出来たが、普通の人間だとあの魔法に耐えるのは至難の業だろう。


「それで、どうじゃ? あの魔法は、ジンの役に立つそうかの?」


「……そうですね。実際に使ってみないと分かりませんが、強い魔法を教えて頂いた事には感謝します。ですけど、これはアドバイスというより、技の伝授ではないですか? 確かに攻撃魔法の訓練とは言ってましたけど、あれはどうみても自分の技を俺に教えたようなものでは?」


「そ、そんな事はないぞ? 確かに、技の伝授ではあるがあの魔法は他の魔法にも応用がきくんじゃ。じゃから、決して儂がジンに自分の技を教えたくて、本来アドバイスしようと思ってた事を放って、あの魔法を教えたとかそんな事は無いぞ?」


 全部喋ってるぞ……。

 俺はそう思いながらジト目でレーヴィンを睨み、溜息を吐いて「もう良いですよ」と言って、取り敢えず今回の事は許す事にした。

 レーヴィンに魔法を習うと決めた俺は、いつかあの魔法を教えてもらおうと考えていたので、順番が早くなっただけだと思う事にした。

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