第76話 【消えた剣聖・1】


 ユリウスの休日最終日の翌日、本来であればユリウスは戻ってくる筈なのにその姿は王城には無かった。

 こんな事は今まで無かったらしく、王城の中は慌ただしくなっていた。

 本来だったら今頃、俺とクロエは姫様と共に学園に居るのだが、ユリウスが居ないという事件が起き、今日は学園を休む事になった。


「ジン君、ユリウスさん何処に行っちゃったんだろう……」


「あのユリウスさんだから、事件に巻き込まれたとかは無いと思うけど……」


 そんな慌ただしい中、一人だけ冷静に動いていた人物が居た。


「……姫様、意外と冷静なんですね」


「当たり前よ。王族が家臣の一人が消えたからって、慌てていたら駄目でしょ?」


「流石姫様ですね」


 落ち着いた様子の姫様に俺はそう言い、ユリウスが何処に行ったのか姫様と話し合った。


「……一番妥当なのは、数日前にジンさんが言った岩石山のダンジョンに行った可能性が高いわね」


「そうですね。ミスリルの事を聞いた翌日に姫様に休みたいと言って、その日から姿を消してるので、考える限りで一番可能性があるのは岩石山のダンジョンですね」


 でも、だとしたら今ここにユリウスが居ない方がおかしい。

 岩石山のダンジョンの難易度はそこまで高くない。

 剣聖であるユリウスが一人だからといって危険な場所ではない。


「ジン君、ユリウスさんって採掘に夢中になって時間を忘れてる可能性ってないかな?」


 そんな俺と姫様がユリウスの事で頭を悩ませていると、ふとクロエがそんな事を言った。

 採掘に夢中になって時間を忘れてる。


「……確かに、その可能性はあるかもしれないな。採掘って、かなり集中力が必要だから時間が分からなくなってるかもしれんな」


「あのユリウスが採掘で時間忘れるかしら? 時計が無い所でも、ユリウスは正確に時間を把握してるのよ?」


「普段のユリウスさんならそうだと思いますけど、明らかにあの時のユリウスさんは様子が変でしたし……」


 俺が最後に会った時のユリウスさんは、ミスリルの話を聞いて直ぐに消えた。

 あれは今思えば、ミスリルを長い間求めていたような感じだった。

 そんな設定、ユリウスにあったかな? 勇者の師匠として教えて居た時も、そんな事は言ってなかった。


「そうね。分かったわ、後でユリウスの捜索隊には今の話をしておくわ」


 姫様はそう言うと俺達との話し合い後に、ユリウスの捜索隊の一人を部屋に呼び出して先程の話を伝えていた。

 それから俺とクロエはこんな時に訓練も出来ないしと、それぞれの部屋に戻ることになった。


「ユリウスの捜索は城の優秀な兵士達がやるみたいだから、俺が動かなくてもいい状況だが……」


 少し前なら俺は、自ら動こうとは思わなかった。

 相手は剣聖で、国の優秀な人達が捜索隊として動いている。

 そんな状況で俺が出た所でと思っていただろうけど、俺はユリウスに色々と恩がある。


「という事で、ユリウスを探しに行こうと俺は思ってるけど、クロエはどうする?」


「うん、私もユリウスさんには悩みを聞いてもらったりしてお世話になってるし、何より姫様の為にもユリウスさんを探してあげたい」


「決まりだな、それじゃ俺達もユリウスを探す為に行くか」


 そう言って俺達は再び姫様の部屋に訪れ、ユリウスを探してくると言った。

 そして城を出た俺達はまず向かったのは、情報収集も兼ねて冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドでフィーネさん達にユリウスについて話をすると、数日前にユリウスがギルドに訪れダンジョンの情報を聞いて行ったことが判明した。


「ジン君、やっぱり予想通りユリウスさん岩石山のダンジョンに行ったみたいだね」


「ああ、だけどあれから既に何人か経ってるから、もしかしたら移動してる可能性もある。一応、岩石山のダンジョンに行って確認してみよう」


 その後、俺はギルドを出て乗合所で先週から予約していた馬車に乗り、岩石山のダンジョンへと向かった。

 そしていつもなら三時間以上かかるのだが、御者に事情を説明すると「馬達に少し頑張ってもらいます」と言って二時間程で到着した。

 この事件が解決したら、御者に礼の品と馬にはニンジンでも差し入れよう。

 そう思いながら馬車から降りて、ダンジョンの入口で兵士の人にユリウスについて聞いた。


「ユリウスさんですか? それなら数日前に入って行きましたけど、そう言えばあれからユリウスさんが出てきた所を見てないんですね……」


「やっぱり、そうでしたか。ありがとうございます」


 情報をくれた兵士に俺はお礼を言うと、兵士は困惑した様子で王都の状況について聞いて来た。


「あの、もしかしてユリウスさんが帰って来てない事って、王都の方で騒ぎになってたりするんですか?」


「街の人達はまだ知らないと思います。俺達は王城で仕事をしていた関係でユリウスさんが居ない事を知って、消える前にこのダンジョンの事を話していたので、ここにいるのではないかと思い先に来たんです。王城で兵士達にはこの事は伝えているので、もう少ししたらユリウスさんの捜索隊が来ると思います」


 そう兵士に言った俺は、クロエと共にダンジョンの中に入った。

 そして入口から少し先にある転移陣で、俺達は20層の安全地帯へと移動した。

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