第71話 【ツルハシの性能・2】


 座り込んでしまった俺を心配に思ったクロエは「ジン君!?」と驚いた顔をして、焦った様子で駆け寄った。


「大丈夫、ちょっと疲れが出て足に力が入らなくなっただけだから」


 そう言って俺はダンジョンの壁に背を預け、飴を取り出して舐め始めた。

 魔力は別に少なくなってないけど、少しでも糖分を摂取したいと体が訴えていた。


「ジン君、ここじゃ危険だし安全地帯まで移動する?」


「移動の方が危険だから、動かない方がいいと俺は思う。ゴーレム程度ならここに座った状態でも、援護くらいは出来るから」


 そう俺は言うがクロエは、心配した様子で「でも……」と迷った様子をしていた。

 俺を運ぶ事は獣人族のクロエなら出来るが、もしも魔物が襲ってきた場合俺を守りながら戦うのは難しい。

 ここなら背後は壁で後ろを警戒しないで言い分、クロエも魔物との戦いに集中できる。


「まあ、数分、長くても十数分あれば歩けると思うから、それまでは周りを警戒しながら休もう」


「……分かったよ」


 渋々といった様子でクロエは俺の言葉に返事をして、物凄い集中力で周囲の警戒を始めた。

 それから少し経ち、俺の体力も徐々に回復してきた。

 そしてようやく動けるくらいまで回復した俺は、クロエと共に20層の安全地帯へと戻って来た。


「ありがとうクロエ」


「ううん、ジン君は私が出来なかった採掘してくれたから、これ位するのは当然だよ」


 その後、俺達はこの後採掘を続行するかどうかを話し合い。

 流石に俺の今の状態では厳しいとなり、今回の探索は二日目の昼で終わる事になった。

 そうしてダンジョンから出た俺とクロエは、偶々別の冒険者をダンジョンに送りに来た御者と会い、そのまま王都まで乗せてもらう事になった。


「本当に助かりました。ありがとうございます」


「ありがとうございます」


「いえ、運ぶのが私の仕事ですから、また来週も待っていますね」


 王都に着いた俺達は御者にお礼を言うと、御者は良い笑顔を浮かべてそう言い去って行った。

 なんか仕事に責任を持ってる人って感じでカッコいいな……。

 去っていく御者の後ろ姿を見つめながら、俺はそう思いギルドの中へと入った。

 建物の中に入った俺達は、受付でフィーネさん達を呼んでもらうと慌てた様子でフィーネさん達がやって来た。


「ジンさん、クロエさん、どうしたんですか? 予定より一日早いですよね?」


「えっと、ちょっと体力を奪う事がおきまして……ここでは話せないので部屋に行きませんか?」


 普段なら直ぐに部屋に通してくれるのだが、今回は俺達が急に帰ってきた事で動揺したフィーネさんはこの場で理由を聞こうとした。

 そして俺の言葉に「あっ」と気づいて、俺達は直ぐにいつもの相談室へと移動した。


「……それでジンさん、クロエさん。ダンジョンで何があったんですか?」


「その実は……」


 それから俺はミスリルを発見した事、そのミスリルを採掘するのに一時間も掘り続けて体力を失い。

 明日の体調が万全にならないと判断して、今回は早めに帰ってきたと報告した。


「……もうジンさん達の事で驚く事は無いだろうと、前回リコラさんと話してましたがまだ上がありましたか」


「ふぃ、フィーネさんミスリルって、あのミスリルですか?」


「リコラさん落ち着いてください。ジンさん達が言ってるのは、間違いなく魔銀鉱石ミスリルの事ですよ」


 毎度驚いていたフィーネさんは精神的に強くなったのか、ミスリルと聞いて慌てる様子はなかった。

 しかし、リコラさんはまだ理解が追い付いていないのか、若干戸惑った様子でいた。


「リコラちゃん、落ち着いて、ほら深呼吸して」


 そんなリコラさんにクロエは落ち着けるように、一緒に深呼吸をして落ち着かせようとした。

 そんなクロエ達を横に、フィーネさんから「実物は見せて貰える事って出来ますか?」と聞かれた。


「良いですよ」


 フィーネさんの言葉に俺はそう返し、ミスリルを取り出して直にテーブルに置かず下にクッションを敷いて置いた。

 ミスリルの輝き、中から出ている微量な魔力。

 それらを確認したフィーネさんは、「本物ですね……」と真剣な表情で言った。


「これほど綺麗に採掘されたミスリルは、初めて見ました。ジンさん達は採掘のご経験があったんですか?」


「いえ、今回の探索で初めて採掘をしました。ただ採掘道具は良い物を使いましたけど」


「未経験で、これだけ綺麗に採掘したんですか? その採掘道具って一体……」


 未経験だったと聞いたフィーネさんは驚き、道具にも興味示したので俺はツルハシも取り出して見せる事にした。


「これは!」


「ご察しの通り、ガフカの工房。リーザ・ガフカに作って貰ったツルハシです。そのツルハシ、マジで性能が良くて素人の俺達でも普通の鉱石なら楽に掘れたんです」


「……先日の金塊、リーザさんに渡したんですね。てっきり、金塊を競売にかけるのかと思っていましたけど」


「金に関しては他の金塊で事足りますからね。クロエとも相談して、リーザに渡しても良いって言ってくれたんです」


 そうクロエの名を出すと、リコラさんの頭をヨシヨシしていたクロエがこちらに顔を向けた。


「だってゴーレム多く狩ってたのジン君だし、ジン君の判断が今まで間違った事は無かったから、ジン君が決めたならその使い道が良いかなって、それにお金にはそこまで困ってなかったしね」


「まあ、クロエが駄目って言ってたら俺の分の報酬を渡してでも、あれをリーザの所に持っていく予定でしたけどね。彼女の依頼書を見た時から、手に入れたら絶対に持っていくと決めていたので」


 その後、話し合いが終わると、魔物の素材だけギルドで売った。

 鉱石系は既に使い道を決めているとクロエと話し合っていたので、クロエからの反発も無く魔物の素材の報酬金を分けギルドを出た。


「さて、クロエ。さっきまで大丈夫そうだったけど、今更緊張してきたのか?」


「だ、だってそりゃ緊張するよ。姫様の頼みでも聞かなかった鍛冶師さんの所に、今から行くんでしょ? 私なんか行って、本当に大丈夫なの?」


「大丈夫。仲間と一緒にとって来たってリーザに言ってるから、クロエの事を追い返したりしないから、だから柱に捕まってなくて早く行くよ!」


 ギルドの入口でそんなやり取りをした俺達は、怯えるクロエを連れてリーザの店へと向かった。

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