第66話 【獣人族の英雄クロム・3】
それから俺は、忘れないうちにまずクロムへの届け物を渡した。
クロムは俺が異空間から箱を取り出すと、驚いた眼をしてその取り出した物を見て「あっ」と声を出した。
「こちら、シンシアから預かって来た物です」
「おお、態々ありがとな。帰って来て、これが無い事に気付いてどうしようか困っていたんだ」
クロムはそう言いながら、箱を嬉しそうに受け取った。
そんなクロムを俺がジッと見ていると、俺の視線に気づいたのかクロムが「どうした?」と俺を見てそう言った。
「いえ、その、前にクロエからクロムさんの事を少しお聞きして」
「あ~、俺が英雄って事クロエから聞いたのか?」
「はい、獣人族の英雄として慕われていた方が何故、大陸も違うこの王国に居るのか、少し疑問に思いまして……」
「ごめんね。お父さん、ジン君なら話しても良いかなって」
クロエは自分が父の秘密を喋った事に対して、そう謝罪をするとクロムさんは少しだけ間を開けて話し出した。
「英雄扱いされたくない、そうクロエから聞いてると思うが実際の所は違う。獣人は強き者こそ、上に立つべき者という考えを持っているんだ」
「聞いた事があります。多くの試練を乗り越え、強さを証明しないと獣人は付いてこないと」
確かこのゲームの獣人の設定は、強者にしか獣人は従わないという感じだった筈だ。
本編でも主人公が訪れた獣人の里で、協力してもらう為に長と一対一で戦い強さを認めさせるという場面もあった。
「その通り、特に獣人族の故郷でもある獣人国はその考えが根強くてな、獣王でさえ対応できなかった国の危機を俺が救ってしまって、俺を国王にしようって考えをもつ者達が居たんだ」
「国王ですか……」
「ああ、俺はただ家族を守る為に戦っただけだったのに国を導く何てやりたくない、そう思って俺は国を出る事を決めたんだ。それが英雄にまでなった俺が、この国に居る理由だ」
「そうだったんですね。教えて下さり、ありがとうございます」
「娘と仲良くしてくれてるからな、ジンにはいつか話しておこうと思ってたんだ」
俺がお礼を言うと、クロムからそう言われた。
それから何故か、俺はクロエの家で夕食までご馳走になる事になった。
「そう言えば、クロエから聞いたがジンは魔法と剣術どっちも出来るって本当か?」
「はい、ですけど剣術に関しては少し前まで我流だったせいで、そこまで強くはないです」
「だとしても両方の才能があるってのは凄いと思うぞ、俺には全く魔法の才能が無いからな。唯一使える魔法は【身体強化】だけで、他の魔法は全然だ」
「そうなんですか、でも獣人って基本魔法は使わないんじゃないですか? クロエは最近、魔法の練習してますけど」
そう俺が言うと、クロムは「基本は使わないな」と言った。
「ただ使わないと、使えないは話が別だ。俺は魔法そのものが不得意なんだよ」
「……成程、そう言う事ですか」
「そうなのよね。クロムったら、魔法が全くダメで小さい頃は「何で、魔法が出来ないんだ!」って暴れていたのよ。懐かしいわ~」
「ちょっ、エレナ! 昔の話はするなよ……」
昔の事を掘り返されたクロムは、エレナに対してそう言って恥ずかしそうな顔をした。
そんな二人のやり取りを見ていた俺は、隣に座るクロエに「仲いいんだな」と言った。
「うん、お父さんとお母さんずっと仲良しだよ。小さい頃からの幼馴染らしくて、ず
~っと一緒に居るんだって」
「へぇ、幼馴染か。俺には居ない存在だな」
「私もいないから、お揃いだね~」
幼馴染か、前世の時も居なかった存在だな。
ラノベとか、ゲームとかで幼馴染キャラが出ると、毎回いいなと羨ましく思っていた。
今生ではそもそも、家から出る事すら許されず、友人すらいない状況だったしな。
その後、食事を終えた俺達はそろそろ城に戻らないといけない時間になった。
「また今度、ゆっくり出来る時にでも来てくれよ。ジンとは、まだまだ話したい事が沢山あるからな」
「はい、俺もクロムさんの冒険話をまだ聞きたい事が沢山ありますので、是非また今度お邪魔させていただきます」
そう言ってクロムと約束をした俺は、クロエ共に家を出て城に帰宅した。
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