第55話 【進展・2】
治療のアイテムを手に入れると決めた俺達は、城を出てから王都の外までやって来ていた。
そして俺達はそのまま足を進め、王都から一番近い森の中へと入って行った。
「あれ、ジン君。治療薬ってダンジョンとかで手に入れるんじゃないの?」
「まあ、ダンジョンにもあるにはあるけど、王都からだとこっちで手に入れる方が近いんだ」
「そうなの? でもここにそんな、治療薬になるアイテムとかあるの?」
そう言うクロエの気持ちは、俺もよく分かる。
今俺達が訪れている森、通称:若葉の森。
魔物もそこまで強い者は出なくて、新人冒険者が慣れる為に使うような場所。
ゲームでも序盤に解放される場所で、ここでレベル上げなんかもしていた。
「ちょっと見つけるのが難しいけど、ちゃんとあるんだなそれが」
そう俺はクロエに言い、俺は目的地までクロエを案内した。
それから数分後、俺は目的地の森の中だが少し開けている場所に着いた。
「ジン君、ここにあるの?」
「あるというか、持ってきてもらうが正しいな」
俺はそう言って【異空間ボックス】から用意していた果実を取り出し、そのまま地面に置いた。
「えっ、さっきの果物って姫様のお見舞い用じゃないの?」
「違うよ。これは取引用の果物なんだ」
「取引?」
クロエは俺の言葉に不思議に思っていると、果物の匂いに釣られてやってきた〝商人〟がやってきた。
「魔物だよジン君!」
「魔物じゃない、彼は〝魔人〟だよ」
「魔人!?」
その商人、見た目はゴブリンそのものだが他のゴブリンとは違い、知性のあるゴブリン。
知性のある魔物は、この世界では〝魔人〟と呼ばれている。
魔人は魔物と近い種族の為、迫害を受けたり、差別の対象として見られる事が多い。
しかし、この国では一応差別の対象とされてはないが、それでも魔人達は表で行動する事は少ない。
そして、目の前にいる魔人はゲームには度々登場していて、有能なアイテムを取引してくれるこのゴブリンをゲーマー達はよく利用していた。
基本的にこの魔人は物々交換で取引を行う。
その為、俺は王都を出る際に少し高めの果物をいくつか用意して持ってきた。
「コノナカカラ、スキナモノヲエラベ」
ゴブリン商人は俺の出していた果実を受け取ると、俺と同じように異空間から商品となるアイテムを並べた。
そこには俺が欲していたアイテムが有り、俺はそれを受け取る事にした。
ゴブリン商人は俺がアイテムを選び終えると、再び森の奥へと消えて行った。
「私、初めて見たよ……」
「普通に生活していたら会わない方が普通だからな、俺も最初に彼と会った時は驚いたよ」
「ジン君、いつさっきの魔人さんと会ったの? いつも一緒に居たのに、そんな事言って無かったよね?」
俺が知った感じで説明をしていた為、クロエが俺が彼の事をいつ知ったのかそう聞いて来た。
「言うタイミングを失ってたんだ。すまん、随分前に一度会っててその時に色々と聞いたんだよ。魔人は普通の生活圏では生きるのが厳しいから、さっき渡したような食料とかを交換材料にアイテムと交換してくれるってその時に聞いたんだ」
「そうだったんだ……それにしても、さっきの魔人さん凄く手慣れてたよね」
「会った時に軽く聞いたけど、商人を始めて長いらしいから、普通の商人と変わんないんだと思う」
正直、彼がいつから商人となっているか俺も知らない。
だが少し前に彼と出会ったのは本当で、定期的にこの森の奥に来ているとその時に確認をとって今日ここに来た。
設定では一族で商売をしているみたいな事を書かれていたが、詳しく書かれてなかったからその設定が本当かも分からない。
その後、特にその他にやる事はない俺達は城に帰宅する事にした。
「ジンさん達、朝から出掛けていたから依頼でも受けに行ったのかと思ってたけど、もう帰って来たの?」
「ユリウスさん、別に依頼を受けには行ってないですよ。姫様の為に、治療に使えそうなアイテムを取りに行ってたんです」
「治療に使えるアイテム?」
ユリウスは俺の言葉に首を傾げ、それが何か聞いて来たので俺は【異空間ボックス】から商人と取引して手に入れたアイテムを見せた。
俺が商人と交換して手に入れたアイテムの名は、森の神秘薬。
森の中で生活をしているエルフが作る薬で、巷には滅多に出てこないアイテム。
商人がこれを出した時、心の中で「マジか」と叫ぶ程、俺も驚いた品だ。
俺の本来の目的の物は、この薬の下位互換の薬だった。
しかし、ゲームでも稀にしか出ない商品を目にした俺は真っ先にこのアイテムを選んだ。
「ッ! 一体どこで手に入れたんですか!?」
そのアイテムの凄さを理解しているユリウスは、アイテムを見るや驚いた顔をしてそう叫んだ。
叫んだ本人のユリウスは、ハッと気づき周りを確認して人が居ない事に安心していた。
「とある方と交換して手に入れて来ました」
「……本物なんですか?」
「鑑定魔法で確認してます。本物ですよ」
ユリウスの質問に対して、俺は真顔でそう返した。
それからユリウスは姫様の容態はそこまで悪く無いから、この薬はジンさんが保管していた下さいといって返してくれた。
「くれぐれもその薬は、人には見せない方がいいですよ。その薬を手に入れる為だけに、エルフと敵対した国でさえありますから」
「えっ、これってそんな凄い薬なんですか?」
「……凄いですよ。失った腕さえも再生させる薬ですからね」
クロエには病気を治す薬としか言って無かった為、ユリウスの言葉を聞くと「えっ」と驚いた声を出すと完全に固まってしまった。
「ジンさんが色々と規格外の存在だと認識してましたけど、これは流石に予想外ですよ……」
ユリウスは若干疲れた顔をしながらそう言うと、外で空気を吸って落ち着いてきますと言って去って行った。
その後、俺は固まっているクロエを何とか起こし、そこで俺もクロエと別れ俺が借りてる部屋に向かった。
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