第38話 【剣聖・3】

 アンドルの合図を待つ俺とユリウス。

 そんな俺達にアンドルは確認の声掛けをして、二人共が「大丈夫」と言うと試合開始の合図を行った。


「ハァッ!」


「ッ!」


 このユリウスの野郎!

 クロエの時は、動かなかった癖に俺の時は開始と同時に突っ込んできやがった!


「おお、凄いですね。吹っ飛ばすつもりだったのに、受け止められましたよ」


「一応、鍛えているんでねッ!」


 何とか受け止めた俺は、ユリウスを弾き飛ばして今度は俺から攻撃を仕掛けた。

 剣聖、剣術において最高峰の称号を持つユリウス相手に、俺の剣術が何処まで通用するのか分からないが、やれるところまでやってやる。


「ふむ、中々良い腕をしていますね。太刀筋から我流だと分かりますが、本当に誰か師はいないのですか?」


「居ませんよ。ずっと一人で鍛えてきましたからね」


 設定で家に居る時から訓練をしていたと言ってる手前、俺はそうユリウスに言った。

 だあ! くっそ、ユリウスの奴、クロエの時よりも速く動きやがって!


「ユリウスさん、クロエの時よりも力出してませんか?」


「ふふっ、女の子相手と男の子相手、そりゃ力加減は変えてますよ。それにこの位、ジンさんなら大丈夫でしょう?」


 笑みを浮かべながらそう言ったユリウスは、剣に魔力を流し更に強力な剣術を出してきた。


「ちょっ、魔法は無しなんじゃないんですか!?」


「そんな事、言ってませんよ? ただクロエさんは魔法を普段から使わないと言っていたので、止めていただけですよ」


 ユリウスはそう言いながら、剣に魔力を流すだけではなく、普通に魔法も放ってきた。

 流石にそれはヤバいと察した俺は、咄嗟に風魔法で上空へと魔法を飛ばして少し距離を取った。

 成程な、全力は出さなくても俺のある程度の能力は調べておきたいって考えか……。

 そっちがその気なら、俺だって全力を出さない範囲で足掻いてやるよ。


「おお! 同時に別々の魔法! 高度な技術を持ってますね」


「剣より魔法の方が得意ですからね」


 両方の才能を持つ俺だが、魔法の方が少し得意だ。

 その理由はゲームではジンが魔法をよく使っていたというのもあるのだろうが、俺がジンに入る前、多分ジンは自分で魔法の訓練をしていた。

 その痕跡を俺は家を出る前に見て、ジンなりに色々と頑張ろうとしていたんだなと感じた。


「おいおい、あの坊主。凄い魔法を使うな」


「うちの魔法部隊の奴等より、凄い魔法を使って無いか?」


 戦闘中、聞こえて来た兵士達の声に俺はやり過ぎたかもしれないと、またやっちまったと戦闘中に反省をした。

 そんな俺にを見てユリウスは、「ジンさん、戦いに集中してください」とムッとした表情でそう言って来た。


「すみません、ちょっと力を出し過ぎたみたいで注目されてるなと思いまして」


「そうでしたか、確かにジンさん手を抜いていてそれは、まあ注目されるでしょうね。子供位の年齢なのに、兵士クラスの魔法使いと同等以上の力を手加減した状態で扱ってますから」


「加減を完全に見誤ってましたよ」


 その後、力を少し落として真面目に戦い模擬戦闘の時間が終わった。

 終わった後、兵士達から声を掛けられたが直ぐに姫様に呼ばれて、先程の庭園に戻って来た。


「ユリウス、どうだったかしら二人の能力は」


「凄かったですね。実際に戦ってみて、二人共凄い才能の持ち主だなと感じました」


 クロエは種族特有の能力を活かしつつ、自分の才能と合わせ戦闘員ではないのに十分戦える力があると褒められていた。

 また魔法に関して、今のままでも十分使いこなせているが、もっと工夫すれば今より更に冒険に役立つようになるともアドバイスを受けていた。


「それでジンさんなんですか……勿論、クロエさんも凄かったんですが、話に聞いていた以上に別格の方でした。手加減していたとはいえ、身体能力の高さ、戦闘の知識、咄嗟の判断力、どれも高い技術を持っていました」


「ユリウスがこんなに褒めるなんて、珍しいわね。ジンさんは、それほどの方だったの?」


「はい! 今まで見てきた中で、これほど成長が楽しみな人は居ません!」


 そう熱く言ったユリウス、そんなユリウスを見て姫様は俺の方へと視線をやった。


「ジンさんはどうでした? ユリウスと戦ってみて」


「……まあ、今まで対人経験が少ないのは分かっていましたが、自分で力をセーブすると言ってましたが難しかったですね。俺が加減が難しいのを理解してくれて、ユリウスさんが対応してくれてたのは助かりました。普通の相手だったら、怪我をさせていた攻撃も何回かありましたから」


「経験値的に私の方が多いですからね。そこは合わせる様に頑張りましたよ」


「今後、人と戦うような事があれば活きると思うので本当にいい経験が出来ました。ありがとうございます」


 そうお礼ユリウスを言うと、ユリウスは「いえ、私から頼んだ事なので」と笑ってそう言ってくれた。


「それで二人が護衛する事に、何か問題はありそうかしら?」


「いえ、問題は無いと思いますよ。二人共反応速度は高いので、姫様が遠距離から狙われたとしても必ず守ってくれると思います」


「ユリウスがそこまで言うなら、大丈夫そうね」


 そう姫様が言うと、ユリウスは他の姫様の部下と話があると言って、この場から去って行った。

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