第35話 【姫様からの依頼・4】

「だとしたら一つだけ疑問に思う点があるわ」


 話を聞いて納得していた姫様は、そう言いながら俺の方を見て来た。


「ジンさんは自分の事を出来る限り隠したい動きをしてるのに、何故こんな記録だらけになってるの?」


「……まあ、そこには色々と事情があるんですよ」


 言われるだろうなと思っていた俺は、そんな姫様の質問に対してアスカの事を話した。


「成程、ギルドマスターがジンさん達を気に入って色々と依頼を回していたから、銅級までの実績が積みあがったのね」


「自分の予定では、一年程様子見ながら依頼をしていく予定だったんですけどね。まさか、ギルドマスターに気に入られるとは思わなくて予定が狂わされました」


「ギルドマスターがジンさん達を気に入った理由、少しは分かる気がするわよ。なんとなく、あなた達から面白そうな雰囲気を感じるのよ。あのマスターも私と性格が似てるから、そこに気付いて気に入ったんでしょうね」


 そう言えば、ゲームの設定でアスカと姫様は元から親交があって、共に魔王討伐に行く事になった際は親友になる位に相性が良かったっていう設定があったな。

 俺はそんな事を思いだし、現時点でのアスカと姫様の親交具合を少しだけ探りを入れた。


「姫様はアスカの事を知ってるんですか?」


「勿論知ってるわよ。ただ仕事が忙しいみたいで、面と向かって話した事は無いわ。性格についても調べて貰って、似てると思ってるだけよ」


 そう姫様は言うと「いつか会ってみようとは考えているわ」と言い、俺はその時までには王都から離れておこうと心の中で考えた。

 その後、話に夢中になっていた俺達は気づけば昼食の時間になっていたみたいで従者の方が知らせてくれた。

 姫様からこの場で食べるか、食堂で食べるかどっちが良いか聞かれ、俺は「ここで食べましょう」と即答した。


「ジン君、何でここで食べる事にしたの?」


「……下手に動いて、王様とかに会うのクロエは良いのか?」


「嫌だね……ここで食べるの正解」


 王様と会った事が若干トラウマと化しているクロエは、震えながらそう言った


「ふふっ、あの時は私がお願いしたからあの時間にお父様と出会ったけど、普段はあんな時間に出歩いてないから会う事は無いわよ」


「……と言ってますけど、一度やられてますからね」


「信用が無いわね」


 ジト目で睨みながら言った俺の言葉に、姫様はニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。

 それから数分後、従者の方が食事を準備してくれて俺達は昼食を食べる事にした。


「「……」」


「今日の食事も美味しいな、フィアリス付の料理人は腕がいいな」


「ありがとうございます。お父様」


 おいっ! 何で王様がここに居るんだよ!

 俺はそう心の中で叫び、隣で固まっているクロエの方を確認した。


「あ、あぅ……」


 駄目だ状況の理解が出来ずに、泣きそうな顔をしてる。

 俺はクロエの顔を確認してから、視線を目の前で楽しそうに食事をする王族の親子へと視線を向けた。


「姫様、俺達の事嫌いなんですか?」


「あら、今回は私は何もしてないわよ? お父様が勝手に私達の食事に釣られて来ただけよ」


「そうだな、今回は儂が勝手に来ただけだよ。ちょうど休憩していたら、美味しそうな匂いがしてな」


 王族親子のそんな言い訳を聞いた俺は、深く溜息を吐いた。


「一応、言っておきますけど姫様はまあ依頼主だから俺達と関わるのは分かります。ですけど、国王様、あなたは一国の主なんですからもう少し行動を自重してくださいよ」


「大丈夫だ。フィアリスが認めた者達だからな、娘の人を見る目は誰よりも優れていると分かっているからな」


「あら、いやだわお父様ったら、そんなに褒めても何も出ませんよ」


「……あ~、帰りてぇ」


 自分の忠告に対して、親馬鹿な言葉を言って来た国王に対して、俺は小声でそう愚痴を吐いた。

 その後、クロエを現実に引き戻し食事を再開させ、食事が終わると国王はこの場から去って行った。

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