第36話 【剣聖・1】

 国王が去った後、俺達は食事前に話していた冒険話に戻り、他愛もない時間を過ごしていた。

 そんな時、一人の騎士がやって来て姫様の前に跪いた。


「姫、よろしいでしょうか」


「あら、ユリウス帰って来たの? 早かったわね。お願いしてた物は持って帰ってこれたかしら?」


 その騎士に対して、姫様は〝ユリウス〟と呼んだ。

 ……ユリウスだって!? もしかしなくても、あのゲーム時代〝最強の剣士〟として登場し、主人公の剣の師匠となった〝剣聖〟か!?


「少々手こずりましたが、何とか持ち帰る事が出来ました。いつもの場所に置いて来てるので、後ほどご確認ください」


「ええ、ありがとうね」


 ユリウスからの報告を聞いた姫様は、そうお礼を口にすると「そうだわ、紹介しておく方達がいるわ」と言って去ろうとしたユリウスを呼び止めた。

 いや、マジここでユリウスに会うって嫌な予感しかしないんだけど……。

 俺は心の中でそう思いながら、姫様に呼び止められ俺達の方を見て来たユリウスに視線をやった。


「ジンさんとクロエさん、学園で私の護衛として働いてくれる冒険者の方よ。これから長い付き合いになるから、仲良くしてね」


「ジンさんとクロエさん。初めまして、フィアリス様の近衛騎士ユリウスと申します。よろしくお願いします」


 丁寧にそうユリウスから挨拶をされ、俺達も自己紹介をして挨拶を交わした。


「成程、この方達が彼等が噂していた方達ですね。任務中、連絡用の魔道具で最近姫様のお気に入りの方が増えたとお聞きしていましたので、どんな方達なのか気になっていたんです」


 ニコリと笑みを浮かべながら、ユリウスそう言った。

 ユリウスの言った〝彼等〟とは、多分姫様が集めた人物たちの事だろうな……。

 ユリウスもまたその内の一人で、ユリウスは孤児として生活してる際に姫様と出会い拾われて騎士となった人物だ。

 姫様に救われたという思いから、ユリウスは姫様の為にを心情に鍛錬を積み、王国最強の剣士〝剣聖〟の名を手に入れ、姫様の近衛騎士となっている。


「ふむ……成程、姫が気にいった理由が少しわかります。お二人共、才能の塊のような方達ですね」


「そ、そんな事無いですよ」


「はい、至って普通の何処にでもいる冒険者ですよ」


 ユリウスの言葉にクロエと俺は、そう反応した。


「いやいや、こんなに才能がある方達を見たのは初めてですよ。特にジンさん、貴方は凄いですよ。姫、よくこんな方達を見つけましたね」


「ふふっ、隠れ切れて無かったのよ。他に手を出される前に、私が手を出しただけよ」


「そうでしたか、流石。姫は行動が早いですね」


 そんな会話をする姫様とユリウス。

 二人を見ながら、俺とクロエはコソコソと小声で話し合いを行った。


「クロエ、ユリウスにだけは気に入られるなよ。面倒事が更に悪化するからな……」


「わ、私は大丈夫だけど、ジン君の方が気を付けてよ……」


「分かってるよ。流石に今回は、何もしない」


 クロエに忠告したら、逆に忠告をされた俺はそう言い、何が何でもユリウスに気に入られるのは阻止しようと心に決めた。

 今までのキャラ、アスカや姫様に気に入られるのもまあまあヤバイ事なのだが、ユリウスは更に俺の中でヤバイキャラだと認識している。


 それは何故か? あいつはいずれ、主人公の師匠となるキャラだ。

 そんな奴に気に入られでもしたら、俺は主人公と出会う可能性が更に上がってしまう。

 別にこの世界で今の俺はなにかやらかしている訳では無いし、悪役化もしてない。

 だが、それで会って万が一、物語の修正力が働き物語通りになってしまう可能性も捨てきれない。


「姫様、先程ユリウスさんが頼みの物を持って帰って来たと言ってましたよね? 今日はもう長く話しましたし、終わりにして解散にしませんか?」


「確かに、あれは早く確認したいわね……うん、だったら今日の所はこれで終わりにしましょうか」


「はい! それでは、また明日本日と同じ時間に来ますね」


 姫様の言葉にそう返事をした俺は、クロエを連れてこの場から早く離脱しようと動いた。

 しかし、そんな俺達に向かってユリウスは「待ってください」と呼び止めて来た。


「な、何でしょうか……」


「いえ、先程、姫の護衛をすると仰ってしましたので、よければお手合わせでもしませんか? 実力を計る訳ではありませんが、お二人の実績には対人経験が少ないと聞いています。それで、私が訓練相手になろうと思ってここに来たんです」


「あら、そうだったのね。でもユリウスは旅の疲れが残ってるんじゃない?」


「そこは大丈夫です。ちゃんと休んで万全の状態ですから」


 姫様の心配の声にユリウスはそう返答して「どうですか?」とキラキラとした眼差しで、俺達に視線を向けて聞いて来た。

 その後、逃げる事は出来そうにないと悟った俺は「……分かりました。お願いします」と言い、ユリウスとの模擬戦闘をする事になった。

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