第31話 【初めてのダンジョン・3】

 クロエに態々、最後の一撃を譲った理由。

 それは単純に、俺とクロエのレベル差を少しでも埋める為だ。

 現在俺のレベルは30前半だが、クロエは少し前にようやく20に上がったばかりだ。

 だから俺はあえて、ゴブリンリーダーを経験値が多くなる【狂化】状態にして瀕死の状態にさせてからクロエに譲った。


「ジン君、今の戦いでレベルが22に上がったよ!」


「おお、ダンジョンに来て一番の成果はクロエのレベルアップだったな」


「うん! 今日だけで2つも上がっちゃった!」


 クロエは嬉しそうに、ピョンピョンと跳ねていた。

 その後、俺達はダンジョンの一番の楽しみである〝クリア報酬〟の宝箱を開けて中身を確認した。

 宝箱の中には、固定で出る〝攻略の証〟とランダム特典からスキル書が一つ出て来た。

 攻略の証はボス部屋に居る人の名前がついた物で、そのダンジョンをクリアした証明する物だ。


「確かこのダンジョンで一番のレアアイテムは、スキル書だったから俺達は一発で一番いいレア物を引き当てたみたいだな」


「やった~! ジン君、鑑定出来たよね!? どんなスキルが見てみてよ!」


 興奮してるクロエからそう急かされた俺は、宝箱からスキル書を手に取り【鑑定】を発動させた。


名前:風属性魔法

情報:風属性の魔法が使えるようになる


「属性魔法のスキル書か……つて、これ滅茶苦茶高いぞ!?」


「確か属性魔法って貴重なスキルだから、どんな物でも最低金貨30枚以上はいくよね……」


「ああ、それに風っていうと攻撃魔法・防御魔法どちらにも使える属性魔法で意外と高く扱われてる奴だぞ……」


 俺もクロエも二人共、風属性魔法は持っている。

 だから取り敢えず、スキル書は【異空間ボックス】に入れて大事に保管する事にした。


「まさか、成り行きで攻略したら一回目でレアアイテムが出るって驚いたな……」


「うん、あれ目当てに何度も潜る人がいるぐらいなのにね」


「ああ、確率だけで言えば数百回に一度出るか出ないかって言われてるぐらいの品だからな」


 ゲーム時代の確率は0.1%で最も出にくいアイテムだった。

 やり込みしていた俺でも、このアイテムを手に入れるのは根気のいる作業でコンプするとかアホみたいな事を挑戦してた時は半分死にかけていた。

 その後、俺達は最深部の奥の部屋に入りクリア者だけが乗れる〝転移床〟でダンジョンの入口付近へと転移した。

 そしてそのまま俺達はダンジョンの外に出て、予約している馬車の時間まで時間をつぶす事にした。


「……ジンさん、クロエさん。もう一度言ってください、何とおっしゃいましたか?」


「その、余りにも簡単と感じて攻略してきちゃいました……」


 王都に帰還後、俺達はギルドに行きフィーネさん達にダンジョンを攻略して来たと伝えた。

 まさか俺達がたった一日で攻略してくるとは思っていなかったフィーネさん達は、驚いたまま固まってしまった。


「ジンさんとクロエさんが実力のある方だと、私達も認識していましたが……まさか、ここまでの方達とは思いませんでしたよ。まさか一日で最低難易度とはいえ、ダンジョンを二人で攻略してくるなんて」


「あはは、その出てくる魔物が弱く感じて何処まで行けるか試していたらボス部屋に到着してしまって」


「普通、ダンジョンの魔物を弱く感じる所がおかしいんですよ。外の魔物とは違い、統率のとれた動きをして外の魔物と戦い慣れていた人達程、ダンジョンに慣れるのは遅いんです。それなのにジンさん達は……」


 フィーネさんは呆れてそれ以上はもう言えないようで、隣に座るリコラさんも「こんな事をする冒険者様は、見た事がありません」と若干震えていた。


「一応、確認しますが〝攻略の証〟は持っていますか」


「「はい」」


「……本当に持ってるんですね」


 疲労感が伝わるフィーネさんの声に俺とクロエが証を出すと、フィーネさんはマジマジと証を見てそう言った。

 そして俺は一応、ランダム報酬で手に入れたスキル書も出し、フィーネさん達に見せた。


「ジンさんは私達を驚かせることが趣味なんですか? 一度目の探索でクリアして、その上クリア報酬でスキル書を持ってくるなんて」


「あわわわ」


 フィーネさんは若干怒った様子でそう言い、リコラさんはもう半分壊れかけていた。

 それから取り敢えず、一旦落ち着きましょうと声をかけてリコラさんとフィーネさんに今の状況に納得してもらう時間を与えた。


「……ジンさん、流石にこの事は話題になりますよ。私達の力じゃ、この事は隠せてませんから」


「ダンジョン攻略時間、大幅に短縮してしまいましたからね……」


「ええ、それも初潜入で攻略したという偉業も合わせてギルドで伝達され、後日張り出されると思いますよ。本当に、実力隠したかったんですか?」


「す、すみません」


 いつもの丁寧なフィーネさんは消え、アスカに注意する時の怖いフィーネさんが現れ、俺はそう言われてしまった。

 流石に今回の事は隠せないだろうなと、攻略した後に俺も気づいて自分のした事を反省していた。

 攻略時間、攻略人数、そして初潜入でダンジョンを攻略した。

 それらが合わさって発表されたら、俺とクロエは多分と言うか絶対に騒がれるだろう。


「流石に今日明日とはいきませんが、数日以内にはジンさんとクロエさんの周りに人が集まると思いますよ」


「ですよね。流石に今回は俺達、というか俺の落ち度です。本当にすみません。今まで色々と隠して貰っていたのに」


 改めて俺はそう謝罪をして、明日もう一度集まり今後の対策について話し合う事になった。

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