第19話 【ランク上げ・3】
食後、特にやる事も無かった俺は明日体調不良を起こさない為に早くに宿に戻り、諸々の事を済ませいつもより早い時間に就寝した。
そして翌日、集合時間より早めに着くように宿を出た。
「おはよ~、ジン君」
「おはよう。クロエ、眠そうだけど大丈夫か?」
「ん~、大丈夫~」
集合場所には既にクロエが居て、少し眠たそうにしていた。
「まあ、先にテスト受けるのは俺だし、それまでには眠気飛ばしておくんだぞ」
「は~い」
「……本当に大丈夫なのかよ」
気の抜けた返事をするクロエに、俺は少し呆れた感じにそう言った。
それから少しして、フィーネさんがやって来て試験所へと案内してもらった。
試験場はギルドの裏手、訓練場の横にあった。
「本日は訓練場にも誰も居ない様にしているので、安心して戦って下さい」
「色々とやってくださり、ありがとうございます」
「いえ、パートナーの要望を叶えるのが仕事ですので」
ニコリと笑みを浮かべながらフィーネさんはそう言い、俺達は試験場の中へと入った。
試験場の中には既にリコラさんと、見覚えのない女性が二人いた。
一人は服装からギルドの人だな、って事はあの人が俺達の対戦相手か。
「初めまして、私は金級冒険者のアンジュよ」
「初めまして、本日試験を受ける鉄級冒険者のジンです」
「初めまして、同じく鉄級冒険者のクロエです」
「「よろしくお願いします」」
俺とクロエは同時にそうアンジュと名乗った冒険者に挨拶をした。
「ふふっ、聞いていた通り礼儀が正しいわね。普通の冒険者だったら、試験官が女ってだけで騒ぐのに」
「そうなんですか?」
「特に男性の冒険者は女に見られるのは嫌がるのよ。女性も、自分の本当の実力を計って貰えるのか分からないって騒ぐのよ」
そんな人がいるのか、そう俺は困惑した。
すると顔に出ていたのか、アンジュさんはクスッと笑みを浮かべた。
それから俺とクロエは装備の説明を受け、更衣室で用意された装備に着替えた。
「それで先に訓練を受けるのは……ジン君だったかしら?」
「はい、よろしくお願いします。一応聞いておきますが、本気でやって大丈夫なんですよね?」
真剣な表情でそうアンジュさんに聞くと、俺の気持ちがふざけて聞いてるわけではないと理解して「良いわよ」と返答した。
それを聞いた俺は、この試験では本気で挑もうと改めて考えた。
冒険者生活を送る事になってこれまで、俺は本気で戦った事は一度しかない。
それは舐めているからとはではなく、単純に本気で戦ったら討伐した魔物の素材を駄目にしてしまうからだ。
だから俺はこれまで、あえて自分の力を抑えて活動をしてきた。
しかし、今回の対戦相手は金級冒険者。
自分の本気が何処まで通用するのか、試すには申し分ない相手だ。
「それでは準備は良いですか? ジンさん、アンジユさん」
「ええ」
「大丈夫です」
俺とアンジュさんに確認をとったフィーネさんは、その次の瞬間「試験はじめ!」と大きな声で叫んだ。
アンジュさんはどっしりと剣を構え、先手は俺に譲るような形をとっていた。
「ハァッ!」
ならその先手頂こう。
そう思った俺は、剣を構えアンジュさんへと斬りかかった。
斬りかかる瞬間、俺は土魔法でアンジュさんの足元を崩し体勢を崩そうとした。
「甘いわ!」
「ッ!」
足元を崩すこと自体は成功したが、体勢を崩す事が出来ずそのまま剣と剣がぶつかり合う。
いくらジンがチート級の強さとはいえ、相手は金級冒険者。
能力値の差は相手のが少し上で、押し負ける形になってしまった。
「これで終わりかしら? さっき、本気がどうって言ってなかった?」
「すみませんね。少し本気を出すのに、時間がかかりましたっ!」
そう言って、最近手に入れた新たなスキル【身体強化】を使用してアンジュさんへと攻撃を仕掛けた。
元の能力値の差は殆ど無い、そんな状況の中俺は自身の能力を底上げするスキルを使用した。
「くッ! 中々、やるわね。生意気な事を言うくらいには自信があったみたいね」
アンジュさんは笑みを浮かべながらそう言った。
それから俺とアンジュさんは互いに一歩も譲らない攻防を続け、遂に俺の剣がアンジュさんの胴体に直撃した。
「ぐっ」
素の能力+身体強化状態の俺の一撃は、装備越しでも効いたみたいで苦しそうな表情となった。
「そこまで! 試験はこれで終わりです!」
フィーネさんがそう言うと、急いでリコラさんともう一人の職員の人がアンジュさんへと近寄った。
「ジンさん、凄いですね。手加減してるとはいえ、あのアンジュさんに一撃を与えその一撃で沈めるなんて」
「戦ってるうちに、アンジュさんの動きが一定で動いてると気付いたので、その隙を狙っただけなんですけどね」
試験相手であるアンジュさんは色々と枷がある状態で、この試験を受けている。
その中には動きの制限もあるのか、アンジュさんは先程の試合では殆ど決められた動きをしていた。
その動きを観察して、隙を見つけ、そのタイミングで全力で斬りかかっただけに過ぎない。
「それより、アンジュさんは大丈夫ですか? かなりエグイ音しましたけど」
「装備で防御されているので大事にはなってないです。安心してください、ただクロエさんの試験には少し時間がかかるとおもいます」
「あ~、クロエには悪い事をしたな……」
その後、10分程経ってからクロエの試験が始まった。
クロエは得意とすると敵を翻弄する動きで、アンジュさんへと攻撃を仕掛けていった。
「にゃっ!?」
しかし、アンジュさんの剣術は素晴らしくクロエが攻撃を仕掛けたタイミングで綺麗に合わせ、クロエを弾き飛ばした。
そんな感じでクロエは結局、アンジュさんに一撃も入れる事は出来ずに試験は終わった。
「勝てなかった……」
「まあ、そこまで落ち込むなよ。試験は勝敗の結果じゃなくて、俺達の実力で合否が決まるんだ。クロエなら無事に合格するよ」
「う~」
涙を浮かべるクロエを、俺は頭ヨシヨシと撫でた。
その後、フィーネさんから合否の発表を受け、俺達は無事に〝銅級冒険者〟へとランクアップした。
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