第5話 みられている
引っ越してからというものどうも様子がおかしい。
誰かに見られている気がするのだ。鍵は掛っているし窓も開いていない。カーテンも閉めてある。
それなのに感じる違和感。
俺は疲れているのだと思って医者にかかった。
「ふむ。どうやら引っ越しで疲れがたまっているようですね」
医者は睡眠薬を処方してくれた。俺はそれを飲み。眠る事にする。
その日はぐっすり眠れたのだが、部屋の中に感じる違和感だけは消えることはなかった。
俺は大家にそのことを話した。ここは事故物件ではないのかと思いきって聴いてみたのだ。
特に事故物件ではない。いままで何かしらの事件が起こったことなんてない。という返事。
次に俺は友人に相談してみる事にした。その友人はわざわざ家まで来てくれた。
「ふむ。確かにこれはどうしたことか。視線を感じるな」
どうやら、友人も同じ感想を持ったようだった。俺一人だけなら気のせいという事もあるが、友人まで同じような感想を持ったのだ。
間違いなくこの家には何かある。そういう結論にたどり着いた。俺だけではどうしようも無かったが、友人は不動産関係の仕事をしており、知人に不動産鑑定士が居ると言うので紹介をして貰った。
ほどなくして、友人は不動産鑑定士をやっている人物を連れてきた。
「そうですね。私も視線を感じます」
鑑定士なる人物も視線を感じるらしい。これはいよいよおかしなことになってきた。
「家の見取り図はありますか」
不動産鑑定士は見取り図を要求してきた。俺はこの日の為に大家から借り受けた見取り図を手渡した。
「ふむ。妙ですね」
「何か判ったのですか」
さっそく何かに気づいたらしい。彼は見取り図を広げて皆に見えるようにした。
「この辺りなんですがね、実寸と比べると部屋のサイズが明らかに小さいのです」
そう言うと、そういうと、彼は壁の一点を指さした。
そこはベッドが置かれている場所で、丁度足元の位置がおかしいと言うのだ。
「図面だとこの壁はもっと後ろになくてはいけない」
「なるほど。壁が近すぎると言う事ですね」
そこは真新しく塗られた壁だった。確かに一番視線を感じるのは寝ている時だ。
このままでは解決しそうになかった。改めて大家に相談する必要がある。
次の日。友人と鑑定士、それから立ち会うために大家がやってきた。
「この壁がおかしいのです」
鑑定士が大家に説明をした。大家はそんなバカな事はあるかと最初は怪訝そうな感じではあったが、こちらには不動産鑑定士がいる。彼の説明を受けているうちに納得したようだった。
「壁を壊してみましょう」
不動産鑑定士はそういうと、大家も決心がついたようだ。スコップをもってやってきた。
その時、友人が妙な物を見つけた。壁の隅で壁紙の端がめくれているのを見つけたのだ。
「先ずはこれをはがしてみよう」
大家の許可も取れたので壁紙をはがしてみる事にした。
べりべりと剥がれて行く壁紙。壁紙を全てはがした後、みな息をのんだ。誰かが言う。
「確かにこれでは視線を感じるのもうなづける」
そこには白骨化した死体が、こちらを見つめるように埋まっていたのだった。
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