元勇者は、転生先の世界で魔王として仲間を大事にする

くぼってぃー

第1話 裏切りは突然に

体中が痛みで悲鳴を上げていた。

「はっ、はあっ、」

息が切れて、血も体の至るところから飛び出している。

「神速のイカヅチ

手にしている剣に雷が突き刺さり、神々しく光る属性剣となった。

そして目の前にいる魔王レオニオスの片手を削ぎ落とした。

「――――っ!」

魔王レオニオスは、悲痛な叫びと共に残った腕に魔力を集中させた。

反撃カウンター!」

その瞬間、勇者の腕が切断音と共に転がっていった。痛みで薄れ行く意識の中、後衛で見守る仲間に言った。

「イリアス!切断面と腕の修復を、、頼む。」

背後から、何かに切りつけられた気がした。だが痛みは無い。とりあえず、イリアスに、傷の修復をしてもらうのが最優先だ。

「超再生!」

そう叫び、取れたはずの腕がもぞもぞと動き出す。そして主の元に帰還する。

血と肉の繊維がメリメリと音を立てて繋がっていく。

痛みと気持ち悪さで倒れそうだ。

「俺は、、、必ず、勇者として、、、魔王を倒すんだ!」

私は、愚かにも、持っていた聖剣で、儀式を始めた。

「やめろ!その儀式をすれば、、、お前は。」

後ろの仲間カルナバルは、幼かったが、儀式の代償を知っていた。

「きたれ、終末の世界。」

「無に帰す世界ジャッジ·ワールド

大切な何かを代償に使う技だが、確実に相手の動きを封じる技。だが、この儀式を知っているものは、ほとんどいない。

「さぁ、世界の番人、俺の何処でも持っていけ、だがあいつらには指一本触れさせねぇ。」

「いい心掛けだ。」

そして、代償を支払った。それと同時に、相手の動きは世界から見放され、ついには、停止した。

そして私は、全ての力を振り絞り、魔王レオニオスの心臓を一突きにした。

そして、魔王は命脈を断たれ消失した。

「ついに、、やった。これで、」

後ろを振り向き、仲間を見たがそこに、仲間の姿はなかった。

「えっ、、、?」

次に見たのは、自分の心臓を貫かれ、血の柱を胸から建てる自分の姿だった。

「かっ、、、何で、、、」

起きた状況が分からず、それでいてなぜ苦しいのかも分からなかった。

「やった、やっと魔王レオニオスを倒した!」

それは、嬉しがる魔術師イリアスの姿だった。

「これで、世界に平和がもたらされる。」

少しの笑みを見せながら笑うのは、もう一人の仲間で賢者のアレスだった。

「さぁ帰ろう、誰一人欠けず、世界に平和をもたらした我々の姿を、王国の者にも見せてやらねば。」

自信満々で、先陣を切り帰還しようとするのは、剣士マウニスだった。

「うん、楽しみだね。」

喜びはしゃぎまくるのは、呪詛師カルナバルだった。

(なぜ?私は、どうしたのだ。)

声が出ない、地面が血塗られる。体が硬直を始めて、動けなくなってきた。

目の前が真っ暗になってきた、私は死ぬのだろう。

そして、分かった。私は、彼らに裏切られたのだ。魔王討伐まで、何もせず、いつも後衛から、戦闘を見ていた彼ら。戦うのはいつも私だけだった。

このパーティーの中で、一番強いのは私だ。だがそれだけだ。

それだけで先陣を任された。さっきの魔王討伐も、私だけ。

いつも、自分たちが弱く振る舞って人任せ。

そして裏切られ、私は地面に這いずり回り、屍をさらす。

本当なら、私が、私だけが、報酬を得るべきだった。

そう考えると、情けなさと、裏切られた怒りで、噴死してしまう。

あいつらを、呪ってやる。祟り殺してやる。

あいつらの子孫も未来永劫幸せが来ないように呪おう。

それが、今無力な私に出来る復讐だった。

だが、こんな事も考えてみた。

彼らを前線に立たせたくなくて、よく強めの言葉言っていた。

「お前は、武器の使い方が甘い!もっと強く刈り取る様に!違うそうじゃない!もういい、お前はパーティーに入れるんじゃなかった。」

そんなきつい言葉を今になって言った事を後悔している。

「次の人生があるなら、もっと仲間を大切にしよう。」

そう言う風に考えた。そして意識が絶えてしまった。



「―――――!」

産声を上げる赤子の様な声がする。

「、、さま、、、ました!」

婦人服の様な服を着た女性が、私の隣に呼び掛ける。

少し、若い女性が隣に見えた。だが何かがおかしい、この女性には角が生えている、、、まるで魔族のようだ。

そういえば私は、死んだはずだ。仲間の力を信じずに、自惚れた自分を見ていた私は、なぜここまで暖かい布の様な物にいるのだろう。

ともかく、魔族なら倒さなければ、、、ってあれ?

剣がない、それどころか何だこのぷにぷにの指と腕は!

魔族の家庭のようだが、、、男の魔族が私を持って見下ろした。

「よし、この子の名前は、、、」

そうやって名前を言おうとする魔族の目を見た。

そこには、生まれたての魔庭の赤子が写っていた。

もしかして、私は魔族に生まれ変わったのか!


―――こうして勇者が魔族になった話は、始まったのである。

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