色を超えたさきへ
雑貨屋ことり
挫折
中学校三年生。1枚の紙を受け取った僕は、その瞬間から目の前の世界が白と黒だけになった。1枚の紙に書かれていた言葉。それは「不合格」の3文字だった。
僕は高校受験に失敗したのだ。
4月から黒のブレザーに黒色のズボン。そして首には黒と青の縞模様のネクタイを締めて通うはずだった高校に、たった今通えないことが決定した。
人生で初めての挫折だ。2年生の夏休みから絶対に通うと決めていた並木田高校は関東有数の進学校。偏差値は70を越えている。
1年生の時からコツコツと勉学に励んでいた僕は2年生の夏休みの全国模試でも13位を取り、担任の先生からも「赤池は心配ないな」
と言われていた。
それなのに、僕は第一志望の学校に受からなかった。
自慢できるほどではないが、僕は多才だった。ピアノも、書道も、水泳も、そして小学生の時に習っていたドッジボールも。どれも少し努力すればそれなりにできた。周りの友達からは
「碧は凄いな」
「なんでもできるじゃん。何ができないの?」
と言われてきた人生だ。
僕は自分に自信があった。だから高校も受かると思っていた。どこがいけなかったのだろうか。僕にはよくわからなかった。
「やったー!!受かったー!!」
「模試では1回も合格予想率50%越えなかったから受からないかと思ってた…」
周りで多くの合格した人が歓喜の瞬間を分かち合っている中、僕は不合格だったことを学校に報告するために1人、うつむきながら学校を後にした。
2月下旬の学校は1年で1番寂しそうに見える。桜の木は本当に花を咲かせるのか心配になるほどに葉を1枚も身に付けていない。僕の今の気分とマッチしていてより一層寂しい気持ちになった。
僕はこれからどうしようか。併願の私立高校に通うことは決まってしまったが、やることがない。なんせ行く気のない学校だったから、あまり深く調べてもいない。
どんな制服なのか、どんな人が通っているのか、どんな部活があるのか。、どんな校風なのかさえ分からない。とりあえず今はこの胸の苦しさを、初めて感じる悔しさをどうにかしたい。学校へ向かっている途中、僕はずっとこれからのことを考えていた。
………………………………………………
中学校へ向かう電車はあと5分でやってくる。並木田駅から中学校の最寄り駅、坂中台駅までは25分。途中の駅は6つ。ローカル電車ということもあって、電車が駅に停まっても乗る人は1駅に10人ほど。
あと5分でくる電車に乗り込むとと担任の待つ中学校に着いてしまう。
中学校に着いてしまえば、担任に不合格であったことを伝えなければならない。
そうなると、僕は未だに受け止めきれない事実を認めることになる。
不合格を伝えることは「高校受験に失敗しました」と言うことと同じだ。
「間もなく2番線に電車が参ります。黄色い点字ブロックより内側でお待ちください」
来て欲しくなかった電車が来た。
仕方がないから僕は電車に乗り込んだ。
並木田高校に通う練習をしていたため、窓から見える景色はもう新鮮ではない。途中に見える黄色の屋根の家も、同じ顔をして並んでいる白い団地も、見慣れた風景だ。
でも、この景色は2度と見ることがなくなる。僕は、やっぱり並木田高校に通いたかった。
25分。今までで1番長かった最寄り駅までの道のりが終わり、中学校に着いた。僕は職員室へ行き、担任の高橋先生に報告をした。
「先生、僕は並木田高校には通えません。不合格でした」
「……そうか。」
先生は1言呟いただけだった。それ以上は何も言わず、ただ黙っていた。
「何も言わないんですか?よく頑張ったとか、これからも頑張れとか」
「頑張ったって俺が言っても意味なくないか?頑張ったって言葉は過去形だからそこで終わってしまう。俺はお前にここで終わって欲しくない。これからも頑張れって言っても、俺はこれからお前の近くにいないだろ?」
なるほどと思った。
僕は何も言わなかった高橋先生に驚くばかりだった。いつもは体育教師として大声を出している先生が今日は静かだから。
僕よりも先生の方がショックを受けているようだ。「自分のことのように」と言う言葉が今の先生にはぴったりだ。
…………………………………………………
3月中旬。併願校の私立、
グレーのブレザーにチェックのズボン。首には赤色のネクタイ。自由な校風を推しているようで、染髪·化粧·ピアスなど、中学校で禁止されていたほとんどのことが許されていた。
前髪は目にかかり、メガネをかけている真面目な見た目をしている僕とは正反対の人が多くいる学校だった。
様々なことが許されている自由な校風の
自由な校風ではあるものの、勉強ができる人が集まるような高校だ。
僕は少しだけ安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます