恋愛成就?なぜか僕のまわりだけ幸せになる件

@kyokyon

第1話 ミュゲ


 今日もまだ昨日の疲れが残っていた。


 キレイなシーツに気持ちのいいタオル。

 うーん、洗濯係のおばちゃんは冷たい。



 あっという間に午前が終わり、昼休み中シーツの交換を終え、雑巾がけをしていた。

 

 空いているはずのドアにノックの音がする。

 僕は『はい』と返事をすると小さな声が帰ってきた。



「今、ちょっと時間いいかい?」



 確か……この声――。



「どうぞ、カイヤさん」


「邪魔するよ、ありがとう」



 何とか、最近双子のエイダさんとカイヤさんの声と体の違いが分かるようになってきた。



「どうしたんです? マッサージしますか?」


「い、いや、いい。また今度来たときで」


「そうですか、ではドアを閉めてこちらへどうぞ」



 僕のところには最近相談が増えた。愚痴がほとんどだけど。

 聞くと僕はここに来てまだ日が浅く、良く分かってないのがいいそうだ。



 カイヤさんが肩こりをほぐす椅子に着いた音を聞き、テーブルを挟んだ横の椅子に座った。


 僕は目を追うことも相手の顔から感情を読み取ることはできない。

 どこで聞いても変わらないなら真横がお互いホッとする。



「実は……その、エイダのことなんだ」


「エイダさんですか?」


「うん、何か最近変わったことはないかな?」



 うーん、そういわれても困る。二人を判別できるようになったのは最近だし。

 二人の香りもスズランで同じ。

 この前見た目では見分けがつかないって、他の人たちが言っていたっけ。



「すみません、お二人を分かるようになったの、実は最近なんです。――因みに少し足を擦って中指に切り傷があるのはエイダさんですか?」


「ああ! そうだよ。姉のエイダだ」


「そうですか……」


「何か最近変わったところはないかい?」



「……その、いや、なんでもないです」


 あの件は伝えていいものなんだろうか?



「そ、そうかい、それならいいんだ」


「すみません、お役に立てず」




「いや、いいんだよ。私の話を聞いてくれるかい?」


「ええ、もちろん」





「こんな話を知っているかな?」


そういうと、盲人の僕にも分かるくらい、ひどく悲しそうに話をしてくれた。





「あるとき、ある場所に双子の姉妹が傭兵団に居ました――」



 エルフの双子は仲が良く、お互い弓を使い、どの戦争や紛争でも一緒に行った。


 ところが最近争いが減り、平和な時が増え二人は戦う以外のことを知るようになっていく。



 ある日姉は休日にひとりで街に出て、夜遅くに戻った。


 同じ部屋の妹が何を聞いても上の空。


 休日の度、帰る時間が遅くなっていく。



 心配していた事件が起こった。姉は訓練中誤射して味方側の団員に当ててしまった。


 双子は初めてのことに驚き、妹は姉を責めてしまった。



 姉はそれから食欲も減り、訓練も何もかも身が入らず、殻に閉じこもってしまう。


 夜、布団から嗚咽が聞こえてくることもあった。


 妹は心配になり、知っている人に聞いて回る。




「――どこにでも、よくある話なんだ」




 カイヤさんは話しながら深い森に吸い込まれるような気を出している。




「なんだか、お姉さんも妹さんも切ないですね」


「どういうこと?」




 僕は彼女たちに関わることを決めた。




「その物語には続きがあるんです――」




 ある日、姉は胸の痛みを覚え盲人のマッサージ師のところに来た。


 そこで妹に言えない苦しみとある人への重さで痛めていることを吐きだした。



 翌日もその次の日も姉はマッサージ師のところに来た。


 胸の痛みが和らぐことを願ってきていたが、やがて痛みは消えるどころか、日増しに大きくなっていく。




「――という話なんです」


「そうか、そんなことがあったのか。なぜ相談してくれないのだろうか?」



「――それは、分かりませんが、この物語は語られていない部分があるんです」


「そ、それはなんだい⁉」


「すみません、今日は時間になってしまったので、明日またこの時間来てもらえますか?」


「あ、ああ、すまない、仕事を邪魔してしまって」




 カイヤさんは明らかに気落ちしたようだ。


 僕は午後の仕事準備であまり時間を割けなかったがやるしかなかった。





 次の日、カイヤさんは同じ時間にきた。



「すまないね、時間取らせて」


「いえ、昨日と同じところへどうぞ」



「――昨日も一切話してくれなかった。どうしてなのかわからないんだ」




「そうですか、昨日僕がお話しした物語は覚えていますか?」


「ああ! もちろんだ。語られていない、あの物話の続きを聞かせてほしい」





「はい、今日はその続きのお話を――それはある男の話です」




 彼女はニヵ月前、初めて店に来た。


 そこで僕は一目で彼女を好きになってしまった。


 彼女はいくつか買い物をしていったが、僕は彼女しか見えなかった。


 帰り際慌てて名前を聞いて、できたばかりの新作の香水を一瓶プレゼントした。



 次の同じ曜日、彼女はその香水をつけ、店に来てくれた。


 初めてきたかのように時間を掛け、いろいろ見て回る。


 その度に僕は呼ばれ、いろいろと説明しながら夢の時間を過ごし舞い上がる。




 慌てて僕は彼女にデートを申し込んだ。


 彼女は承諾し、その日を迎える。楽しい一日を過ごす予定だった。


 僕は待ち合わせの場所で、彼女の名前を呼んだ。


 彼女の顔は曇り、その日は晴れることはなかった。


 僕は落ち込んだが、一生懸命気持ちを伝え、次のデートも約束をした。



 デートを重ね、僕は有頂天になった。会えば会うほど彼女しか見えなくなる。



 そして交際して二ヵ月後、突然彼女が連絡が絶った。


 自分の店にも来なくなってしまった。


 僕には彼女の存在が必要だった。




 そこにある日盲人のマッサージ師が現れる……





「――カイヤ」




「ね、姉さん?」


 開いたドアからアイダさんの声が聞こえた。



「ごめんなさい……今まで黙っていて――」



「――そうだったんだ。あの青年だったんだね」


「うん、『お店でもらった』って私にくれた香水……」


「なんで言わないの!」



「――言えなかった。彼を好きになればなるほど、ここにいるのは別人だって」



「姉さん……」


 二人とも声が震えていた。



「でも、もういいの。彼に全部伝えに行ってくる。ヨハンに怒られちゃったし」




 無理に笑っているように聞こえたけど、二人の間に停滞していた空気は少しずつ流れ出している。そろそろかな……。



「あー、とすみません。お取込み中――」


「仕事でしょ?」


「邪魔したね、いくよ、ありがとう」



「ち、ちがいます! ちょっと、待ってください!」


「「ん?」」



 その時、ドアが開いた。ナイスタイミング!



「えっ?ジョン?」


「はぁはぁ、間に合った。時間厳守って言われてたから」


「どうしてここに?」



「姉さん今、ヨハンの話聞いてた?」



「はぁはぁ、アイダ! ヨハン君から全部彼から聞いたよ。全部僕が間違っていた! 僕が好きなのは君だ、アイダ」


そう言いながらジョンの足音は二人に近づく。



「ちょっ、ジョン、こんなところで――」


「僕が全部悪いんだ。 カイヤさん、本当にごめん」



「私は別に謝られても……姉を宜しく頼む――ただ、目の前で抱き合わないでくれないか。なんかムズムズする」



 抱き合っているんだ。よかった。……早くレラに抱き着かれたい。



「でも、ジョン、ここに部外者は入れないよ、早くしないと――」


「えーと、ジョンさん、指定したフレグランスは持って来てくれました?」


「ああ、持ってきたよ。どこに運べばいい?」



僕は指示を出しながら、二人に説明した。


ジョンさんはパフューマーだ。マッサージともしかしたら相性がいいかもしれないって思いついた。

カール副団長に頼んで彼をここに来てもらい、商談することになっていた。



「さぁ!時間がないからちゃっちゃと商談しましょう!」



そうして最初の香りはスズランに決まった。


今度は二人がこの部屋を幸せで満たしてくれた。

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