実習

 我が輩は猫である。様々な名がある。今日は三つほど違う名で呼ばれた先で食事をしてきたその足で、見せ物をやっていることに気づいて少し離れた場所から見物していた。これは大道芸というものだろう。糸で吊した人形を操り、芝居のようなものを見せているらしい。梢の上から一通り眺め、見物人たちが帰ったところで我が輩もいつものねぐらに戻ろうとしたのだが、子どもが一人遅れてやってきて、芸人の帰り支度を見つめていることに気づいた。あまりまともでない食事を分けてくれる子だ。

 我が輩の鼻が嗅ぎつけたところでは芸人はあまり情けというものに縁がなさそうだったが、意外にもその遅れてきた子どもに金を取るでもなく芸を見せ始めた。人垣が消えて猫を蹴り飛ばしそうな輩も去ったこともあり、我が輩も子どもに並んで見物する。芸人の手捌きによって揺れる人形の手足にちょっかいを出してみようと思ったのだ。

 ところが人形が我が輩を制止した。ただ揺れているだけのはずの目玉で「やめなさい」と伝えてきたのだ。小癪な人形だった。芸人の手が操るよりもずっと上手に躍るのも、傍らの、我が輩よりも食べるものに不自由してそうな子どもに芝居を見せようとしているらしいことにも少しだけ感心をしたこともあってちょっかいを出すのはやめることにしてやったけれど。

 人形が一通りの踊りを披露し、最後に人形自身の声で礼を述べていたけれど、我が輩にはなんで人形が礼を口にするのかよくわからなかった。それを確かめようと人形にちょっかいを出しにいったけれど、脱力した人形はもはやただの人形で、ゆらゆらと揺れる足を我が輩の肉球でさらに揺らしてやっても答えようとしなかった。代わりに大道芸人が我が輩に怒り、追い払おうとしてきたので軽くかわし、ねぐらに帰ることにした。



問二と差別化できていない。

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