実習②
大道芸人はいつもの人形劇を披露してほっと息を吐く。今日の入りはまずまずで、素直な良い客たちだった。よく驚き、よく笑ってくれた。いつもこんなであれば良いのに、と思ったところで気づく。少女が一人舞台を見つめて取り残されていることに。
いつもであればそんな子どものことなど気にしなかった。おおかた遅れてきたか小遣いを持たずに出し物を見損ねた子なのはわかっていたからだ。けれど、この日に限って芸人は気まぐれを起こした。このはぐれ者の少女に何か芸を見せてやりたいと思ったのだ。 少女はみすぼらしい服を着ていた。こんな田舎町の娘たちがたいていそうであるように。
芸を見せてやろう。それもとびきりのものを。
女芸人はそう思って人形を操りはじめた。あるいは諦めきれずに立ち尽くす少女の姿にかつての自分を見たのかもしれない、と思いながら。
少女の視線が人形に釘付けになっていることに満足しながら短い演目を終えた。最後にカーテシーで仕舞いの挨拶をした時だった。操っていた人形が不意に予想外の動きをした。これまで操れたことがないくらいになめらかに唇を動かし、ありがとう、と感謝の言葉を発したかに思えたのだ。そんなことはあるはずがなかった。人形は大道芸人である彼女が操り、言葉を発させる。思うとおりに動かないこともしょっちゅうではあったが、思いも寄らない言葉を発することなどあるはずがなかった。
少女の隣では野良猫が並んで芸を眺め、あくびをしていた。きっとこの猫の鳴き声と仕草を人形のものと混同してしまったのだろう。
わずかばかりのわだかまりを感じながら女大道芸人は帰り支度に取りかかった。
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