実習①
終わってしまった、と少女はうなだれる。大道芸人が人形芝居を見せていると聞いて駆けつけたのだけれど遅すぎたらしい。男の子や大人たちが壁になっていて、その後ろからでは芸人の頭がほんのちょっと見えただけだった。大人たちが器にコインを投げ入れ、男の子たちは棒付きキャンディを咥えて興奮した声でおしゃべりしながら、ぞろぞろと見せ物の前を離れていった。
――どうせお菓子も買えなかったけれど。
最前列で芸を見られるのはお菓子を買った者だけのはずだった。早くたどりついていても文無しの彼女は男の子たちの背中しか見られなかっただろう。
心残りで離れ難く、少女は芸人が露店を片づけるのを眺めていた。投じられたお金を袋にしまい、簡素な舞台を片づけた芸人がふと顔を向けた。
芸人はどうかしたのかと問い、少女は首を振る。そのときになって少女は初めて大道芸人が若い女であることに気づいた。女芸人は少し思案した様子だったけれど、一度箱に収めた人形を取り出した。とても美しい人形だった。彼女の知る人形とはまったく違っていて、教会のマリア像よりずっと細やかな作りだった。服も見たことがないくらい薄手のしなやかな生地で、手足や首の節々は球が仕込まれているらしい。
女芸人は何も言わずに少女の前で人形を操り出す。紐で吊られた人形はまるで生きているかのように歩き、躍った。少女は手を伸ばせば届きそうな距離で演じられる芝居に夢中になった。短い演技が終わり、人形がスカートの裾を軽く持ち上げる動作とともにしゃべった。また来てね、と高い声で。少女は驚いて女芸人を見上げる。本当に人形がしゃべったように聞こえたのだ。芸人が少女の足下に視線を向ける。黒猫が一匹、少女と並ぶようにして座っていて大きなあくびをしていた。女芸人が涼やかな声で笑い、少女もまた笑った。
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