実習
枯れ葉が舞う。靴底が音を立てる。踏みしめる落ち葉、小枝、腐葉土。青葉のない森は日差しが差し込む。石で組んだ竈からは松ぼっくりのはぜる音がする。きのこや木の実を入れた兎の鍋が湯気を立てる隣で、ナンが膨らんでゆく。十一月の森。鳥も獣も冬に備えている。間もなく日が暮れるだろう。けれどその前に森は、山は表情を変える。紅葉の赤、夕日の赤から夜へと滑り落ちる瞬間に、魔法が宿る。カメラを手に立ち上がった。影が斜面を走り、光条が空へ昇る。光球が身を隠した。樫が空に影絵を作る。シャッターが切れ、焚き火がはぜた。魔法は解けてしまった。フィルムにはなにが刻まれただろうか。森の魔法は印画紙に焼き付けられるだろうか。カメラを片づけ、兎の鍋の蓋を取る。食べ頃だ。ナンは焼きすぎたかもしれない。夜が訪れていた。鳥たちに代わり、獣の気配が現れる。
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