第33話 風紀委員の鷹宮さんは、感情の変化に気付かない④
「なん、で……」
弱々しく出てしまった僕の声だったが、
「あなたたちが恨みを持つのは私のはずです……! だから、もうこんな酷いことをするのは止めてくださいっ!」
鷹宮さんの悲痛な叫びが、暗闇に包まれた公園に響く。
「っぷ! あはははは! こいつ、女に守られてやがるぜ! だっせーな!」
しかし、そんな鷹宮さんの姿をみた男たちは、僕に対して侮蔑的な冷笑を浴びせた。
だが、僕は自分が馬鹿にされていることなど、今はどうでもいい。
どうして、鷹宮さんは僕の言った通りに、1人で逃げなかったのだろうか?
……いや、そんなこと、分かりきっていることだった。
鷹宮さんのような人が、自分だけ逃げるなんてあり得なかったんだ。
それなのに、僕が勝手にヒーロー気取りの行動を取って、結果的に、鷹宮さんまで窮地に追いやるような状況を作ってしまった。
本当に、僕はなんて情けない人間なのだろう。
殴られた痛みよりも、悔しくて涙が流れそうだった。
「……お願いですっ! 私なら、あなたたちの気が済むまで付き合いますから」
「へぇ。だったら……」
必死に懇願する鷹宮さんに対して、男は無慈悲に言い放つ。
「俺たちに土下座でもしてもらおうかな? 私が悪かったです。すみませんでした、ってよ」
そう言った瞬間、取り巻きの2人も面白そうに笑い声を上げる。
しかし、鷹宮さんは肩を震わせながら、男に告げる。
「……私がそうしたら……あなたたちは満足してくれますか?」
「ああ、ちゃんと誠意を見せてくれたらな」
「……わかりました」
男の言葉を受け、鷹宮さんは唇を強く噛みしめながら、ゆっくりと膝を折る。
「本当に、申し訳…………」
そして、正座の体勢になってしまった鷹宮さんが、頭を下げようとするのだが……。
「……絶対に、それは駄目だッ!」
僕は、大声を上げてそれを制止した。
すると、当然のように、この場にいる全員の視線が僕に集まる。
それを無視して、僕は鷹宮さんを引っ張るようにして、無理やり立ち上がらせた。
「……謝る必要なんてないよ。だから、絶対にそんなことをしちゃ駄目だ」
そう言って、僕はまた、鷹宮さんを後ろに下がらせて、男たちの前に立つ。
頭では、ちゃんと分かってる。
あの鷹宮さんが、自分の意思を曲げてまで、僕を助けようとしてくれた。
きっと、それが事を済ませるのに、一番穏便に済ませる方法だったんだと思う。
だけど、僕はどうしても、鷹宮さんにそんなことをさせたくなかったのだ。
例え、これから僕がどんな酷い目に遭ってもだ。
「……大丈夫、絶対に僕がなんとかするから」
正直、なんとかできる算段なんて、何もない。
だけど、せめて鷹宮さんだけでも逃げてほしい。
「だから、僕のことなんて放っておいて……」
「何言ってるんですか!? そんなの……」
しかし、何度僕が説得しようとしても、鷹宮さんはこの場から離れようとしてくれない。
「ああ、なんか段々とムカついて来たな、こいつら。少し黙らせようぜ」
そして、僕たちを見ていた男たちも、さっきまでの笑みを消して、こちらを睨みつけてくる。
くそっ、このままじゃ……本当に鷹宮さんまで巻き込まれてしまう。
それだけは、絶対に避けないと……!
「おまわりさーん! こっちです!! なんか喧嘩してるみたいですよ!! ほら、早く早く!!」
突然、僕たちにも聞こえるような女性の大声が聞こえてくる。
「やべっ、警察か!?」
「クソっ! コンビニの店員が通報でもしやがったのか!?」
「おい、逃げるぞ! バレると面倒くせえことになるからな!」
そして、聞こえて来た内容は、男たちがこの場から退散していく理由には十分で、案の定、彼らはすぐに僕たちを置いて走り去ってしまった。
「……ははっ、良かった」
男たちがいなくなった途端、僕は安堵の気持ちと共に、思わずその場にへたりこんでしまった。
「藤野くん!」
すると、僕を支えるようにして、鷹宮さんが倒れた僕の肩を抱く。
「ご、ごめん、鷹宮さん。安心しちゃったら、なんだか力が入らなくて……」
本当に、足に全く力が入らなくなってしまい、また殴られた左頬の痛みで涙が出そうになってしまう。
「情けないよね……僕……」
思わず、そんな弱音を吐いてしまう。
「いいえ、全然情けなくなんかないですよ……」
しかし、鷹宮さんは、そんな僕の言葉を否定する。
「情けなくなんか、ありません……!」
僕の肩を支える手の力が、ギュッと強くなる。
本当は少し痛いくらいだったけど、僕は何も言わずに、ただその痛みを受け止めた。
「……あーあー、なんか派手にやっちゃってますねぇ。それとも、今いいカンジだったら、アタシってお邪魔だったりします?」
すると、場違いな明るい声を出しながら、誰かがこちらに近づいてくる。
だけど、その声を聞いた瞬間、僕はどうしてか、現実に引き戻されたような感覚になってしまった。
何故なら、その声は、僕の日常には欠かせない人物の声だったからだ。
「あなたは……!」
どうやら、暗闇の中でも顔が確認できる距離まで来た彼女を見て、鷹宮さんも気付いたようだ。
そして、彼女はタイミングを見計らったかのように、僕たちに向かって告げる。
「こんばんは、先輩方。こんな時間に2人で何やってんっすか?」
そう言って、赤いロングドレスを着た
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