第24話 風紀委員の鷹宮さんは、生徒の誰とも馴染まない④
「せんぱーい。昼休みにこの教室使いましたよね? もしかして、またあの風紀委員さん連れ込んだりしました?」
「えっ!?」
放課後、同好会の教室で唐突に
プロット作成の為、タイピングをしていた手が思わず止まってしまう。
「いや、分かりやすっ。もうちょっと頑張って誤魔化すとかしてくださいよぉ。アタシが看破する楽しみが減っちゃいますよぉ」
不満そうにそう漏らす三枝は、頬杖を突きながら僕のほうを向く。
「いや、別にいいんですけど。アタシに黙って別の女を連れ込むなんて、先輩ってば、男になってきましたね~」
ヒッヒッヒッ、と悪役みたいな笑い方をする三枝。
相変わらずの三枝の態度だとは思いつつも、一体どこでバレてしまったのかと危惧してしまう。
僕の不審な態度から驚異の推理力を発揮して、僕にブラフを掛けただけだったら、まだいいとして……。
万が一、まだ監視カメラなどが残っていたのだとすると(改めて言葉にすると怖いな……)また僕と
いや、だとしても、変なことは何も言っていないはずなのだが……。
「安心してくださいよ。昨日言った通り、監視カメラも盗聴器も全部回収してますから」
「……本当?」
「本当ですよ。このアタシの言葉が信じられないと?」
何故か、三枝は自信満々な顔で僕にそう言ってきた。
うん、本人がそう言うんだったら、ここは信じてあげよう。
「で、ぶっちゃけ、風紀委員さんとは何処まで進展しました、先輩?」
「別に、進展なんて何もないけど……」
「隠さなくてもいいですよぉ~。密室に若い男女が2人、何か起こるときの定番シチュじゃないですか」
「また変な言い方を……」
勿論、鷹宮さんとは話をして一緒にご飯を食べただけだ。
しかし、僕がどれだけいっても、また三枝はその反応を楽しむだけだろう。
なので、僕は正直に鷹宮さんとどんなことを話していたのか、一から説明したのだった。
「……ふーん。成程、そういうことっすか」
そして、珍しく茶々を入れずに最後まで話を聞いた三枝が、つまらなそうな顔で呟く。
「ってか、先輩がクラスの女子に話しかけるなんて凄いじゃないですか」
いや、どこを気にしているんだ、三枝は……。
それに、話しかけたとしても、相手からしたら急に話に割り込んできた変な奴と思われてるだろうし……。
「そんなの、ゼロがマイナスになっただけですって。今さら気にしたって仕方ないっすよ」
「そんなこと言われると、余計気になるんだけど……」
「でも……そうですねぇ……」
すると、三枝は背もたれに身体を預けながら、独り言のように呟く。
「文句の一つも正面向かって言えない奴なんかに嫌われたっていいじゃないですか。放っておけばいいんですよ、先輩たちは」
「三枝……」
その言葉は、三枝らしくもあったけれど……。
「……なんっすか。その意外そうな顔は」
「いや、三枝が僕を励ましてくれるようなことを言ってくれるとは思わなかったから……。それに……」
「それに?」
「僕はともかく、鷹宮さんのことも庇ってるみたいだったから……」
三枝は、僕だけでなく『先輩たち』と言った。
となると、そこに含まれるのは、僕だけじゃないことくらい分かる。
それこそ、鷹宮さん風に言えば、文脈から三枝の心境を読み解くことは容易だ。
「…………まぁ、そうかもしれないっすね」
すると、三枝は珍しく、戸惑ったような反応を僕に見せた。
そして、彼女は自分の髪を触りながら、ぽつりと呟く。
「……あの人、初めて会ったときも、アタシの髪の毛の色を注意してこなかったんです」
「えっ?」
「普通なら、この髪をみたら、自分で染めてるって思うじゃないですか?」
そう言われて、僕はサイドテールに結わえられた三枝のブロンドヘアを眺める。
金色に輝く彼女の髪の色は、学校内どころか街を歩いていても、かなり目立つだろう。
それこそ、僕が三枝と初めて顔を合わせたときなんかは、何かのキャラクターの髪型を真似しているんじゃないかと思ったくらいだ。
「それで、気になって聞いたんですよね。そしたら『あなたの髪の色は、元々なんでしょう?』って平然と言われたんです。しかも、入学式の次の日ですよ?」
三枝の反応から、それが意外な返答であったことは間違いなかった。
確かに、三枝の髪の色は、祖母がイギリスの人だそうで、生まれたときからブロンドヘアだったらしい。
「多分、アタシのことも調べてたんですよね。てっきり、この学校でも注意されると思ってたんですけど、拍子抜けでした」
いつの日か、雑談混じりで三枝が話していたことを思い出す。
彼女は、自分の髪色のせいで、色々と苦労してきたらしい。
時には、事情を知らない教師や他の保護者から『黒髪に染めろ』と言われてしまうこともあったそうだ。
今でこそ、そういった問題にも真摯に向き合ってくれる先生や学校が増えて来たけれど、きっと数年前までは、そんなことはなかったのだろう。
「だから、あの人は他の人とはちょっと違うのかなって、そう思ってるだけですよ」
「……そっか」
「あっ、言っときますけど、だからって、アタシがあの人のこと好いてるとか、そういうことはないですからね。むしろ、服装とかはバンバン注意されるので面倒くさい人だとは思ってるのは本当ですから」
最後はそんなことを言って、誤魔化すようなことをいう三枝。
「ってか、アタシの話より先輩のほうはどうなんです? ちゃんとテキスト進んでるんですか?」
「す、進んでるよ。まだプロットだけど……」
「じゃあ見せてくださいよ。またつまらないもの書いてたら、ボロクソに言ってあげますから」
そういって、三枝はパイプ椅子を持ったまま、僕の隣までやってくる。
なんとなく、誤魔化されてしまったような気がするけれど。
もしかしたら、鷹宮さんと三枝が、本当に仲良くこの教室で話している日が来るのかもしれないと、そんな風に思う僕だった。
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