第19話 風紀委員の鷹宮さんは、無理難題には屈しない⑦


 時刻は夜の9時。


 あやの作ってくれた夕ご飯を食べた僕は、片付けを終えたのち、すぐに自分の部屋へと引き返していた。


「…………」


 そして、部屋に入ってからの僕はというと、ベッドの上にスマホを置き、その画面を只々ジッと見つめているのであった。


 しかし、そのスマホの横には、放課後に三枝から貰った1枚のメモがある。


 そこには、11桁の数字が書かれていた。


 これだけで、殆どの人が、その数字がなんなのかは、お分かり頂けたのではないだろうか?


 三枝が僕に教えてくれた、この数字の正体。



 それは、鷹宮たかみやさんの携帯番号だった。



「んじゃ、今日の夜9時に、その番号に電話を掛けてください。一応、あの人には了承を貰ってますから」


 三枝さえぐさは、まるでマニュアルを教えるように、僕にそう伝えてきた。


「良かったですね、先輩。夜にカノジョと電話通話とか、リア充カップルみたいっすよ」


 本当はビデオ通話にしたかったんすけどね~、とアメリカンコメディーよろしく、両手を上げて変なポーズを取る三枝。


 しかし、なんでこのタイミングで、鷹宮さんの電話番号を僕に教えようと思ったのだろうか?


「だから、先輩のビビりな性格を直す為ですって。このままだと、マジで先輩、あの人と何もないまま終わっちゃいそうですし」


 若干、怒り気味にそう言った三枝は、最後に僕に告げる。


「とにかく、今日の夜に鷹宮先輩に電話すること。良いですね?」



 こうして、有無を言わせぬ、雰囲気に思わず流されてしまった僕だった。


 そして、僕は今まさに、鷹宮さんのスマホへ電話を掛けようとしているところなのだが……。


「…………いや、無理だって!」


 思わず、頭を抱える僕だった。


 正直、最初は「なんだ。電話をするだけなら……」と考えていたのだが、いざスマホを手に取って番号を打ち込もうとすると、心臓の鼓動がやたらと速くなるのだ。


 結果、約束の9時が過ぎても尚、僕は鷹宮さんへ電話をすることが出来ていなかった。


「……これじゃあ、三枝にビビりだって言われても、仕方ないよな」


 このままだと、本当にいつまで経っても、鷹宮さんに電話を掛けられそうにない。


 なんとか、自分の中で後押ししてくれるようなことがあれば……!


『~♪♪』


「おわっ!?」


 すると、ベッドの上にあったスマホがバイブした。


 普段なら、こんなにいいリアクションはしないのだが、今の自分の心境も相まってか、思わず声を出してしまった。


「……えっ!?」


 しかし、本当に驚くべきポイントは、本当はここだったのかもしれない。


 何故なら、スマホの画面に表示されている11桁の数字が、今まさに僕が電話を掛けようとしていた鷹宮さんの電話番号と一致していたからだ。



 ――だとしたら、答えは1つしかない。



 僕は、一度生唾を飲み込んだのち、通話ボタンを押した。


『……もしもし、藤野くん……ですか?』


「はっ! はい! 藤野です!」


 おそらく、今までの人生で一番はっきりと自分の名前を発音したんじゃないだろうか。


『あの……夜なのにそんなに大声を出しても大丈夫ですか? ご家族の方に聞かれるのでは……』


 そして、鷹宮さんにも電話越しで心配されてしまった。


「う、うん……ごめん。だけど、大丈夫だと思う」


 おそらく、妹は今頃、自分の部屋にいるはずで、この時間ならヘッドフォンを付けて音楽を聴いたりしているはずだから、僕の声には反応しないと思う。


 念のため、そろっと自分の部屋を空けて確認したけれど、やっぱり綾が部屋から出てくる様子はなさそうだった。


『そうですか、良かったです。すみません、私から電話を掛けてしまって』


「い、いや、それは別に構わないんだけど……」


『実は、三枝さんから約束の時間に電話が掛かってこなかったら、私から連絡するように言われていたんです』


「な、なるほど……」


 どうやら、三枝は僕のヘタレ振りまで計算していたらしい。サポートが手厚すぎる。


「でも、ごめんね、鷹宮さん……。待たせちゃってたよね」


『いえ、それは別に構わないのですが……』


 すると、鷹宮さんが少し口ごもったのが電話越しでも分かった。


 しかし、その理由は、すぐに彼女自身の口から伝えられる。


『……一体、私達はどんな話をすればいいんでしょうか?』


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