第17話 風紀委員の鷹宮さんは、無理難題には屈しない⑤


 そして、迎えた1時間後。


 無事に短編を書き終えた僕は、三枝さえぐさのチェックを待っていた。


 短編の設定は、三枝のほうから提示があった。



 まず、登場人物は2人で、場所は放課後の教室。


 関係性などの指定、文字数の制限などはなし。


 但し、オチは必ず作って、その話の中で完結させること。



 この提示された内容で、僕はゲームテキスト形式で、物語を綴った。


「…………」


 普段はお喋りな三枝だが、こうやって僕のテキストデータを見たりするときなどは、基本何も喋ったりはしない。


 それどころか、マウスやパソコンを動かす音以外は、全く何も反応しなくなる。


 自分の書いたテキストを読まれている身としては、独特の緊張感に包まれてしまう。


「……ふぅ」


 だが、その沈黙も、三枝の大きな息遣いによって、打ち消された。


「ど、どうだった……?」


 恐る恐る、三枝に感想を尋ねてみる。


「ん~、そうっすね~」


 そして、三枝は僕の顔をみながら告げる。


「ってか、ここに出てくる女子生徒のモデルって、まんま鷹宮先輩のことだったりします?」


「えっ!? い、いや……」


「別に、隠すことじゃないと思いますけど?」


 で、どうなんですか? と聞いてくる三枝に、僕はせめて自分が照れているのを悟られないように肯定した。


「ふーん、なるほど。そういうことっすか」


 机の上をコン、コン、と小刻みよく指で叩く三枝。


 彼女が何か思案しているときの癖だ。


 一応、僕が書いた短編の話をさっと説明すると、こんな感じだ。



〇 〇 〇



 放課後の教室で、忘れ物をした男子生徒が教室に戻ってみると、女子生徒が1人残っているところを発見する。


 彼女は、クラスでも成績優秀で先生たちからの評価も高い女子生徒だった。


 だけど、男子生徒はその子が誰かと一緒にいるところを見たことがない。


 それでも、いつも堂々とした佇まいをしている女子生徒は、きっと友達なんていらないと、男子生徒は勝手に考えていたのだが、それが間違いであったことに気付く。


 何故なら、彼女は誰もいない教室の中で、必死に笑顔を作って「おはよう」と声を出していたからだ。



 ――大丈夫……大丈夫……。

 ――明日こそ、必ず……。



 小さなガッツポーズをしながら挨拶の練習をする彼女は、いつものような凛とした佇まいはなくて、まるで、逆上がりができるようになるまで、何度も練習に取り組む子供のようだった。


 それで、男子生徒はある仮説を立てた。


 きっと、彼女はクラスメイトたちと仲良くなりたいと思っているんじゃないかと。


 自分から声を掛けて、ちゃんと話ができるようになりたいと、そう考えているのかもしれない。


 そして、男子生徒は、そのまま何も見なかったことにして、その場を後にした。



 しかし、翌日。


 教室に入った男子生徒は、いつものように誰よりも早く教室に来ている彼女の席の前までいって、声をかける。



 ――おはよう、■■さん。



 そう告げると、最初は驚いたような顔をした女子生徒だったが、小さな声で「おはよう」と挨拶を返してくれたのだった。


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