クラスの真面目な風紀委員が、僕のカノジョになった理由
ひなた華月
Prologue
第1話 風紀委員の鷹宮さんは、僕のカノジョになりたくない
「ど、どうかな……へ、変じゃないかな?」
言葉に詰まりながらも、なんとか僕のほうを見ながら、そう告げる彼女。
艶のある長い黒髪。ぱちりとした眼は、瞳の中まで輝いてみえる。
そして、すらりとした手足は、白く雪のように儚い。
ただ、顔は真っ赤になってしまって、落ちつかない様子だ。
「で、でも……キミにこんな趣味があるなんて知らなかったな。が、学校で……こんな格好をさせるなんて……」
彼女の言う通り、今、僕たちがいるのは学校内の一室で、外からは放課後の部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。
しかし、彼女は他の生徒とは違い、制服を着ているわけではない。
「で、でも……キミの為なら、仕方ないよね……」
今、彼女が来ている正装着。
なんと、それは――。
「私のメイド服、似合ってるかな?」
そう告げた彼女の姿は、まさにこの世の可愛さを全て凝縮したようなメイドさんそのものだった。
フリルの付いたカチューシャに、首筋から胸元近くまで露出されている素肌。
なにより、必要以上に短くなってしまったスカートから覗く、黒いソックスとの間の絶対領域が、実に艶美な雰囲気を醸し出していた。
見た目は間違いなく、僕が想像した完璧なメイドさんへと仕上がっている。
だが、彼女には決定的に足りないものがあった。
なので、僕はそのことを、しっかりと彼女に伝えると――。
「えっ!? そ、そんなことまでやるの!?」
彼女は酷く驚いたように、慌て始める。
やはり、これはいくらなんでも難易度が高すぎただろうか……。
「で、でも……う、うん……。き、キミがそうしてほしいなら……が、頑張るねっ!」
しかし、彼女はギュッと目を閉じたかと思うと、覚悟を決めたように、震えた声で僕に言った。
「……ご、ご主人様! きょ、今日だけは、特別ですよ?」
少しずつ、彼女はゆっくりと僕に近づいてくる。
「だって、私はご主人様のことが、世界で一番、だ……だ……」
そして、彼女の手が、僕の顔に触れようとした、その瞬間――。
「――誰がこんなことできるかああああああああああ!!」
絶叫が響き渡った。
うん。そりゃあもう、すっごい大きな声で。
「ちょっとー。何やってるんですか
すると、スマホのカメラをこちらに向けていた女子生徒が、不満そうな顔を浮かべてそう呟く。
ブロンド色の髪はサイドで結わえて、体操着の上着をスカートの腰あたりに結んでいて、カッターシャツの胸元にあるリボン緩くなっており、第一ボタンも外されてしまっている。
そして、そんな彼女をまるで親の仇であるかのように、メイド服姿の彼女は睨みつけていた。
「
三枝、と呼ばれた女子生徒は、怒られているにも関わらず、いたずらな笑みを消さずに面白そうに反論する。
「え~、だって~。あの校内でも有名な風紀委員の
「あなたね……!」
「いやいや、文句を言うなら、アタシじゃなくて先輩に言ってくださいね。このシチュ考えたのって、そこにいる変態……じゃなかった。先輩なんですから」
ね、先輩♪ と、子供が甘えるような声を出して、三枝は僕のほうをみた。
すると、今まで三枝に鋭い目つきを向けていたメイド服の彼女が、今度は真っ直ぐと僕をみる。
さっきまでの、瞳をうるませた上目遣いではなく、完全に人を睥睨するときの目つきで、僕を見下ろす。
「ちっ、違うよ鷹宮さん! こ、これは……三枝から、何かインパクトのあるシチュエーションが欲しいっていうから……」
「ううっ……先輩ひどいですぅ~。アタシは止めようって言ったんですよ。でも、どうしても先輩が鷹宮先輩のメイド服姿を見たいっていうから、アタシがわざわざ衣装まで用意したんじゃないんですかぁ~。ぴえん」
ごめん、三枝。今はちょっと黙っててくれないかな。
「…………」
ほら、鷹宮さんだって、すっごい怖い顔でこっち見てくるんだけど……。
「…………
「はっ、はい!」
メイド服姿にも関わらず、全然奉仕活動などしなさそうな彼女。
僕のクラスメイトであり、普段は真面目な風紀委員が僕に向かって告げる。
「私にこんなことをさせて、満足しましたか?」
……いや、本当、どうしてこんなことになってしまったのか。
それを語る為には、今より少し、時を遡る必要があるだろう。
僕、
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