第12話 育ちの違いの話

 僕の死んだ父方の祖父、おじいちゃんの話。

 まあ気性の荒い性格で酒を飲んで悪酔いしたら、物をすぐに「ぶっ壊してやる!」とか「家を燃やしてやる!」とか言うハチャメチャな人だった。


 酔ってない時は、けっこう厳しめなおじいちゃんだった。

 まあでも、無口な父よりは面白い話もよくしてくれたし、酒さえ飲まなければ、いいひとだった。


 妻のおばあちゃんという人は、対照的でお嬢様みたいな育ち方で、大人しく、死ぬまで女の子らしい人だった。


 ある日、おじいちゃんが、僕にこう言った。


「おい、幸太郎。じいちゃん、腹が減ったな。なんかおやつあるか?」

「えっと、ちょっと待ってね」

 僕はおやつが入っているカゴを探ってみる。

 母がいつも買い込んでくるので、何かと困らない。


 だが、じいちゃんが好きそうなものはないなぁと、思っていたら、後ろから声をかけられる。


「おお! 犬の糞があるじゃないか! じいちゃん、それ好きだから一つくれや」

「え……?」

 僕は耳を疑った。


「なんのこと?」

「犬の糞があるやないか。そこに」

 僕が手にもっているのは、黒糖のかりんとうが入った袋。

 まさかとは思うが、これを言っているのか?


「かりんとうのこと?」

「そうよ。犬の糞って言わんか?」

「言わないよ……」

 とりあえず、かりんとうをおじいちゃんに渡す。


 それを見ていたおばあちゃんが、口を大きく開いて呆れていた。


「ねぇ、じいちゃん。変なこと、幸太郎ちゃんに教えないでくれる?」

「ハァ!? 犬の糞はいぬのくそだろが!」

 どうやら、おばあちゃんは悪い冗談だと思っていたらしい。

「ウソでしょ?」

「言うよ! 俺がガキの時は、近所の駄菓子屋にいって、『おばちゃん、犬の糞ちょうだい!』って頼みよったぞ」

「じいちゃんの育ったところだけじゃない……私の周辺じゃ、誰もいわなかったわよ。かりんとうって言ってた」

「な~んか、上品ぶって。幸太郎、覚えとけ。これはいぬのくそだぞ!」

 僕は苦笑いするしかなかった。


「幸太郎ちゃん、じいちゃんのこと信じたらいかんよ! お母さんに怒られるから……」

 おばあちゃんが僕にそう注意すると、おじいちゃんはふてくされて、犬のウンチをバクバク食べていた。


「犬の糞はうまいぞ! 幸太郎!」


 それ以来、僕はかりんとうがどうしても、それに見えてしまうようになってしまった……。

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