第11話 志が高い友達の話

 僕は中退したが、以前とある底辺大学に通っていた。

 一年間、ちゃんと単位を取得できたが、他に夢ができてやめたのだが……。


 その大学の生徒たちは男性が多く、女性は一学年に10人いるぐらいだった。


 だから出会いがほぼない。

 むさ苦しい野郎ばかりが、集まっては「昨日のアニメ」とか「あのエロゲー神」とか、いわゆるオタクが多く感じた。

 なかには同じ系列の高校から推薦で、入学したヤンキーたちもいた。

 


 そのほかは、遠い地方からやってきた田舎の学生が多かった。

 県外から福岡市に初めて一人暮らしする子が大半。

 18才とはいえ、まだ子供だ。

 入学して初日でバタバタと退学していく子が多い。

 理由はホームシック、家が恋しい、一人暮らしが辛いなどなど……。


 けっこう可愛らしい理由で中退していく。


 そんな中、ちゃんと卒業まで在学できる人たちは、大学の寮に入ってたり、サークルやゼミで友達をしっかり作れるコミュ力が高い人が多かった。


 僕は地元民だったので、実家から通えたし、特に不便はない。


 一か月もすれば、だいたい講義に集まるメンバーは決まってきて、仲も自然とよくなる。

 若い男が集まれば、講師の話をそっちのけで、下ネタで盛り上がる。


 友達の一人に、かなり下品な子がいた。

 陳平ちんぺいくんだ。

 出会いがない大学で、カノジョと付き合っていたのは僕と陳平くんぐらいだった。

 

 ただ、陳平くんは冗談でも酷いことをよく言ってくる。

「おい、味噌村。お前のカノジョのプリクラ見せてよ」

「いいよ」

 陳平くんは僕のカノジョの姿を見るなり

「なあ。ちょっとこの子とヤらせてくんない?」

「ハァ? なに言ってんの?」

 冗談でもあまりにブラックな話に僕はドン引きしていた。


「いやぁ、なんかさ。こういう顔の子ってどんな感じなのかなって……一回でいいからさ。お願い!」

「嫌だよ、そんなの」

 その後もしつこく彼は必死に手を合わせて懇願するのであった。

 もちろん、僕は断るし、どこまでが彼の冗談なのか、知る由もなかった。


 それからしばらくして、大学の講義に参加しようと教室に入ると、慌てた陳平くんが僕の顔を見るなり、駆け寄ってくる。

 いつもふざけた陳平くんが顔を真っ青にしていた。


「なあ! 味噌村! 相談があるんだ!」

「いいけど。なに?」

「俺の高校の時のさ。元カノがさ、『あの日』が来ないって言うんだよ」

「……」

 朝から一体なにを聞かされているんだろう、と僕は絶句した。


「どう思う?」

「いや……どう思うって避妊してたんでしょ?」

 彼は真顔で答える。

「え……味噌村って、避妊すんの? ウソだろ?」

 それを大声で語る彼もどうかと思った。

 周りにいた友人も、陳平くんが「みんなもつけないよなぁ!?」なんて言われたから固まっていた。


 僕はとりあえず、彼を席に座らせて、落ち着かせる。

「陳平くん、その子にちゃんと丁寧に接してたの?」

「ううん、別れてもたまにするような関係で、先月福岡にその子を来させて……」

「もういいよ、生々しい…」

「俺、18歳でパパになるの? デキ婚しないとダメ?」

 それを僕に聞くのか? と言いたかったが。

「そりゃそうでしょ。責任持ちなよ」

「うわぁ、マジかぁ~ 大学辞めて働くかのよぉ~ 勘弁してくれよぉ~」

 彼はそう嘆くと、頭を抱えていた。

 バカだなと思っていたが、ここまでバカな子だったとは、驚きだ。


 後日、元カノさんの話は誤解だったようで、彼は安心していた。

 僕は今後そんなことがないようにと、注意したが、それでも陳平くんは「嫌だ」と言って耳を貸さなかった。


 それからまたしばらくして……。



 彼は合コンなどをよくやって、カノジョというか、関係を持ちたいがために夜な夜な女の子を集めていたらしい。

 そんなにイケメンとかではないが、まあ話していて楽しい男性だったし、女子からは人気がありそうな人だった。


 陳平くんは、そんな最低なクズだが、女性の好みは「清楚系」が好きと言っていた。

 白いワンピースに麦わら帽子が似合う黒髪ロングのロリッぽい子が良いと、毎日聞かされた。

 携帯電話に保存していた芸能人の画像は、ほぼ低身長でバストも控えめな清楚系アイドルや女優の卵でいっぱいだった。


 また陳平くんが僕に相談があると言ってきた。

 ろくなことじゃないんだろうなって思ってたけど、まあ聞いてみる。


「なんかさぁ。この前合コンでJKの連絡ゲットできたけど、まださせてくんないの? どう思う?」

「ちょっと待って。なんで君、女子高生と知り合ってんの? 相手いくつ?」

「16歳、一年生」

「……」

 怖くなってきたので、もうこちらからは質問しなかった。


「それでさ。連絡とりあって2週間経つのに、まだダメなんだって! おかしくね?」

「……フツーじゃない?」

「普通じゃねーだろ! 3日でも遅いわ! なあ味噌村はさ。俺とこの子、脈なしだと思う?」

 脈があったら、ダメだろと思ったが、まあ優しく諭してあげる。

「あれじゃない? 陳平くんのことが怖いんじゃない?」

 僕がそう言うと、彼は顔を真っ赤にして怒る。

「はぁ!? 俺、女には優しいぜ?」

 元カノをあんな扱いしといて、よく言うなと思った。


「違うよ、そうじゃなくて……相手はまだ16歳の子供じゃん。そういうコトが怖いってこと」

「ああ……そっちね。普通の子ってそんな感じなの? わからんわ~」

 驚いた顔で首をかしげる陳平君。

 彼はどこまでが本当でウソかがわからない。


 そこで話が終わるかと思ったのだが、彼はまだ粘る。

「でもよ、見てくれよ! そのJKさ『陳平さんに』ってこんな画像送り付けてくるんだぜ?」

 ガラケーをのぞくと、黒髪で童顔の少女が下着姿で映っていた。

 講義中ということもあり、僕はすぐさま彼の携帯電話を隠す。

「ちょっと! なんてもん出すの!?」

 見ちゃいけないものをみたと思い、彼にすぐ写真を閉じるように注意する。

「だってさぁ……こんなもん、送り付けられたらワンチャンあるって思うじゃん…」

 当時流行っていたアヒル口で、上目遣いをする。


「はぁ……陳平君。年上でしょ? もうちょっとその子を大切にしてあげなきゃダメだよ」

 僕は彼にキツく説教したが、反省の色はなかった。


 

 それから一年間、彼と共に過ごしたが、年がら年中、そういうことを聞かされた。

 本当に女性をモノとしてしか、見ない最低のヤツだと思った。


 だが、僕が大学をやめてもしばらく交流は続き、メールで互いの近況報告をとりあっていた。

 二年生になってから、彼はなにを思ったのか、バイトもせず、ゲームもしないで、勉強一本で頑張っていた。

 理由を聞くと、「今の大学を卒業してから、教員免許をとるために別の大学に行く」と意気込んでいた。


 悪寒が走る。

 まさかとは思ったが、僕は恐る恐る聞いてみた。

「先生になるって、どこの?」

「しょうがっこう」

「……」


 彼はその後、成績をほぼトップで同大学を卒業し、別の大学でしっかりと教員免許をとって、教師になったらしい。


 陳平くんがどうか、子供たちの道しるべになれるような、良き教師に成長していることを切に願う……。

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