第9話 評価の高い話

 高校3年生の時。

 僕は18歳になったので、大人向けの映画をレンタルショップで借りたりしていた。


 だが、自慢じゃないが、僕はどうもそういう作品は好きじゃなかった。

 成人向けレンタルしといて格好つけてんじゃねーよとツッコミを入れたいと思いますが……。

 こう見えてロマンチストでして。


 なんというか、女性が一方的に痛そうに男優から「おらぁ!」とか「ドヤァ!」てのが多く感じて、相互ラブみたいなのがあまりない印象でした。(これは僕が見てきたものなので、探せばあったかもしれません)


 あくまでも同意の上で、イチャこかないと、見ている僕は「うわぁ、痛そう……」「キッツ…」とドン引きしていることが多数でした。


 そんな時、とあるレーベルを見つけました。


 その名も巨乳シリーズ。


 ありがちな童貞キラーなタイトルでした。

 この作品はあまり痛いことしないし、どちらかというと女性もケラケラ笑っていることが多かったです。

 相互ラブもあったし、イチャラブの傾向が強い気がしました。あくまでも20年ぐらい前の話です。


 その中でも気に入ったのは、秘書シリーズでした。

 何回もレンタルするぐらい好きになりました。

 なので、親に内緒でネットオークションでDVDを購入。


 あまりにも素晴らしかった内容に感動した僕は、高校の友達に話をしました。

 すると若い男子のみんなはこぞって、目をキラキラと輝かせこう言うのです。

「味噌村! 今度学校に持ってきて!」

 言われた僕は、少し手放すのが寂しく感じましたが、ここは男同士、いいものは共有しあわないとなぁと感じ、快くDVDを友達に貸しました。

 

 翌日、学校に行くと友達は、興奮気味にこう言いました。

「味噌村! あれ、すげーな! しばらく貸してくれよ!」

「え……」

 たちまち、クラスで僕のDVDは評判になりました。


 すると、まだ友達に貸している状態なのに、他の男子生徒が「俺にも貸して」「僕にも」と次々にリクエストが飛び交いました。

 僕に返ってくることなく、DVDは友達から友達へ……どんどん数珠つなぎのように、回されていきます。


 男子生徒たちは、嬉しそうに僕に言います。

「味噌村! ありがとな! 自分的には90点だわ!」

「中々返したくなかったけど、他の奴が早く早くってうるさいから貸したわ」

 みんなやりたい放題でした。


 女子の目の前で、グシャグシャになった茶封筒を堂々と、教室の中で毎日前から後ろへ、右から左へ……気がつくと、隣りのクラスにまで、行ってしまう始末。


 年末に一人の友人に貸してから、数ヶ月。

 既に僕は大学受験に合格し、卒業間近となりました。


 いい加減、返してもらわないと、僕も嫌だったので、いろんな友達に現在、所有している人物を聞くことになりました。

 皆、ニヤニヤ笑いながら「ああ、アレねぇ。良かったわぁ。あいつに貸したわ」と言うばかり。

 僕がききまわっていると、40人以上が見たと回答が返ってきました。


 知らず知らずのうちに、こんなにも見られているとは……とても困惑しました。


 最後の一人に「DVD知らないか?」と尋ねると、意外な人物が現在、手にしていることがわかりました。

「秘書ものだろ? メガネ先生が借りてったよ」

「ええ!?」

 メガネ先生というのは、とても真面目な教師で教育熱心、生徒たちからも人気でした。


 まさかあのメガネ先生が、巨乳シリーズを、ましてや生徒のDVDを勝手に拝借しているだなんて……。

 とんだ卒業祝いだなと思いました。


 職員室に入って、メガネ先生に声をかけます。

 もちろん、小声で。

「先生、僕のDVD持っているって本当ですか?」

 僕がそう言うと、先生は苦笑いで答えました。

「あ、うん。悪いな味噌村。卒業前なのにさ……俺、今から帰りだから車で送ってやるよ。その時に、な」

 先生はウインクして、ニヤッと笑いました。


 僕はメガネ先生の車に乗って、家の近くまで送ってもらいました。

 思っていたより、先生は成人向けの映画が大好きらしく、僕の持っていたDVDをかなり気に入ったそうです。

 数ヶ月ぶりに返却されたDVDはボロボロで、ケースも傷だらけ。

 一応、新品で買ったはずなのに……。


 車内で先生はこう言いました。

「味噌村はセンスあるなぁ。大学行ってもがんばれよ」

 メガネ先生とはあまり話したことないのに、なんで学業とは関係のないところで褒められているのだろうか? と感じました。


 その後、風の噂ではメガネ先生は高校教師をやめて、夢だった小学校の教師になったそうです。

 幼い子供たちと、笑って楽しく過ごしていることを切に願っております……。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る