第26話 遭逢

「ニケ、なんだか顔色が悪いぞ?休んでた方がいいじゃないのか。」


「うっ、うん……大丈夫……。ごめん、少し外に出てもいいかな?……部屋にいるよりも気が晴れると思うんだ。」


 ニケは心配そうに話しかけるエディに対してぎこちない笑顔で応えた。


「ん?そうか?……まあ、外に行くのは全然構わないが、あんまり遠くには行くなよ。昨日会ったような奴らとまた出くわさないとは限らないからな。」


「うん。……わかってる。」


 ニケはエディの優しさを感じながらも宿を後にし、街へと出かけた。少し歩いていると、ニケは見慣れた道を歩いていた。


――ここは……昨日エディと歩いた大通りか。まっすぐ行くとフィリップスナイトレイに着くんだったな……。


 ニケは大通りに面した店を順番に見ていく。そうしている内に一軒の店がニケの目に入った。そこには、色とりどりの綺麗な鉱石で作られた装飾品が並べられていた。


――綺麗だなー。うわー可愛い物もいっぱいある。


 ニケは並べられた装飾品を見て、一人の少女の顔を思い浮かべた。


「ナインに似合うかな……。」


 ナインの笑顔を思い出していたニケは、棒立ちになりながら顔を赤らめ装飾品に目を奪われていた。


「おいっ!お前っ!!」


「バンッ!」


「ふぁいっ!」


 ニケは肩を後ろから勢いよく手で叩かれ、生まれてこの方出したことないだろう変な声を出してしまった。ニケがすぐさま後ろを振り向くと、そこには髪を束ねた同い年くらいの子供が腕を組み仁王立ちしていた。


「お前!男だろ!?そんなもん見てんじゃねーよ!」


 その子は怒っているのか、顔をしかめてニケに檄を飛ばした。


「だっ、だれ?」


 ニケは初対面の子の顔を見て、おそるおそる誰なのかを訪ねた。ニケは自身の記憶を辿るが、その子の顔を見た覚えはなかった。


「いいから来いよ!!良い物見せてやっから!!」


「ちょっ!ちょっと!」


 その子はニケの腕を掴み、強引に引っ張って道案内を始めた。路地に入り進んで行くと、そこには小さな工房があった。


「ここさ!」


「ここ?ここは……お店なの?」


 その子は自慢げに顔をニヤつかせ、ニケに近付き耳元でそっと呟いた。


「ここはフィリップスシリーズの工房なんだ。」


「えええっ!!むぐぅっ!」


「バカっ!声が大きいっ!」


 ニケは驚きのあまり大声を出してしまったが、辺りに響く寸前の所でその子がニケの口に手を当てた。


「ぷはっ!なっ、何で君はそんな事知ってるの?」


「えっ?だってここ俺ん家だし。」


「ええっ!!むぐぅっ!」


 その子は目を瞑り左手で拳を作りながら、ニケの耳元で再度呟く。


「しっ!ずっ!かっ!にっ!」


「ごっ……ごめん……。」


 ニケは反省しつつも、何かを思い出したかのようにその子に話しかける。


「そういえば、君……名前は?……。」


「おう!わりぃわりぃ!俺はルーファスだ。よろしくな!お前は?」


「僕はニケ。よろしく!」


 ルーファスは気を取り直し、扉を開けズンズンと奥に入って行く。ニケは先を行くルーファスに置いていかれまいと、知らず知らずの内に後を追いかけていた。しばらく進んだ二人の行き着いた場所には、人一人が使っているであろう作業机がポツンと置いてある場所であった。


「ここがフィリップシリーズを作っている場所……。」


 ニケは目を輝かせながら机を凝視していた。それを見ていたルーファスは、近くに立てかけられている剣を持ち出しニケの前に差し出した。


「うわっ!び、びっくりさせないでよ……。」


「悪い悪い。そんなことよりコレを見てみろよ。」


 ルーファスは手に持っていた剣の刀身を、剣先に向けてゆっくりと指でなぞった。するとルーファスが触れた部分から氷が解けるかの如くゆっくりと水滴が流れ落ちた。


「こっ、これは……?」


 ニケは驚きのあまり固まりながらルーファスに問いかけた。


「これは正真正銘フィリップスシリーズの剣だ。」


「すっ、すごい……。ということはやっぱり素材に魔獣の何かが使われているの?」


 ニケの発言に感心した顔をするルーファスは嬉しそうに説明を続けた。


「おお!よく知ってるな!そうさ!これは海神リヴァイアサンの鱗が使われているんだ!まあ、粉々にされた鱗一枚が刀身に使われてるだけなんだけどね。」


「うっ、鱗……。」


 海神という生物を全くもって想像出来ないニケは、ポカンとしながら剣を見続ける事しか出来なかった。


「まっ!俺も鱗の現物なんて見たこともないし!海神がどんな奴なのかも全くわかんねーけどな!だけど、俺は将来立派な鍛冶師になってやるんだ!」


「へー、すごいね。もうやりたい事が決まってるんだね。それに比べて僕は……。」


 やる気と希望に満ちたルーファスの表情にアギトの面影を見たニケは、エルミナス王国の事を思い出し黒服達に対する憎しみを抱いていた。


「僕はこれからどうしたいのか……何をするべきなのか……考えている途中かな……。」


 険しい表情のニケを横目で見ていたルーファスは、少し驚きつつも剣を元の位置に戻した。その時、ルーファスのいる方を見たニケは、窓から見えるオレンジ色の空に気がついた。


「あっ、ゴメン!僕そろそろ帰らないと……。」


――帰りが遅くなると皆んなが心配するだろうし、早く帰らないと。


 ニケは慌ててルーファスに帰宅する事を告げ、帰宅の準備を進める。


「えっ……あっああ、そうか?まっまあ!いつでも来いよ!帰り道わかるか?」


「ああ、うわ。多分……。」


「着いて来いよ!」


 ルーファスは少し寂しそうな表情を見せながらも、強がっているのか元気良くニケを来た道へと案内し始めた。装飾品のお店の前に着いた頃、二人はすでに仲の良い友人のようであった。


「じゃあな!また会おうぜ!」


「うんっ!また!」


 別れた二人はそれぞれの帰路に着く。ニケが宿に着き扉を開けると、アルバートとエディが真剣な表情で話し合っている光景がニケの目に入った。


「ただいま……。どっ、どうしたんですか?なっ何かあった……?」


 重たい空気の中、ニケは二人に向かって問いかけた。


「おう!おかえり。ちょっと問題が起きてな……。今、アルバートさんと相談してたところだ。」


「相談?……問題って何ですか?」


 エディの発言に対してニケが真意を尋ねた。アルバートはニケの質問に腕を組みながら答える。


「フェルトが時間になっても戻らないんだ。」


「えっ!?そっそんな、まさか……。」


 アルバートの発言を聞いて動揺していたニケの肩に、エディは手を置いた。


「あいつなら大丈夫だよ。そう簡単にやられるタマじゃあないからな。」


「そうだといいんだけど……。」


 エディは落ち込むニケを元気付けようとニケの肩を叩き、固まっていた身体をほぐした。


「第一、アイツがそんな簡単にやられる奴なら俺があそこまで弄られることはないだろ?」


 エディはベッドに腰掛け、頭を掻きながらアホくさいと言いたげな表情を浮かべた。エディはそのままニケへと優しさに満ちた目線を送る。


「はっはい……。確かに……。」


「何か事情があって戻れなくなったんだとは思うがな……。ただ、アイツも私の優秀な部下の一人だ。心配する必要はないと思うが……。明日になっても戻らなければ探すとしよう。」


「はい……。」


 ニケ達三人は、朝まで代わる代わる見張りを置いてフェルトの帰りを待ったが、フェルトが帰ることはなく朝日はゆっくりと昇った。


「仕方ない。これから別れてフェルトを捜索する。」


「はっ!」


 アルバートの指令に対して、装備を整えたニケとエディは勢いよく返事をした。


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読んでいただきありがとうございます。


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