第17話 存在

「ザバアアアアアア!」


 ニケとエディは、森にある滝でよく水浴びをしていた。


「くあーー!気持ちいい!それにしても頑張るねー!ニケ!」


「僕は一番弱いから、一番努力をしなければいけないんです……。」


「おっ!ニケッちのお堅いモードが現れたなー!」


「うぐっ、エディさん!!からかうのはやめて下さい!」


 エディはニケを年の離れた弟のように思っており、よくからかっては遊んでいた。


「でもっ! ニケは強くなったよね!」


「えっ!本当ですか?!」


「ああ!そうさ!最初は剣の持ち方すらわからなかったのにな〜。」


「ぐっ!」


 エディの言う事を聞いているニケの顔は、徐々に赤くなっていく。


「エディ兄ちゃーん!って言ってた頃が懐かしいよ!!あの頃から純情だったよね。ニケは。」


「そっ!そんな事は言ってませんよ!」


 少し雰囲気が落ち着いてきたのを確認したエディが、話を切り出す。


「それで。使う武器は決めたのか?やっぱり剣にするのか?」


「あっ……。みなさんにいろいろ教えては頂いたんですが……まだ……。」


「まっ!いいんでない!実際に見ればまた変わるだろ!本物を見れば、いい物も見つかるかもしれないしな。」


「はい……。そうですかね……。」


 ニケの頭によぎったのは、ピンチの時に現れた奇跡のようなモノの事だった。


――あれは…鉄…だったのか?見たこともない金属だった……。あれがいつでも出せるなら……。それも考えて武器を選ぶ必要があるのかな?……。あれは金属の形を変えて剣になり、手になった。それなら……。僕は……。


「バサッ!」


「おう!フェルトか!」


 草陰から現れたフェルトは二人を見つけ、見たくもないものを見てしまったという顔で話しかける。


「アルバート様がお呼びだ。」


「はいはい。了解ですよっと。」


「ピチピチっ!」


 ニケはエディと捕まえた魚を持ち、三人でアルバートのもとへと向かった。


「ホーホー。」


 フクロウのの鳴き声が、森中を包みこむ。四人は焚き火を囲み、川で捕まえた魚等を食べながら話をしていた。


「みんな、どうしてるかなー。」


「ほお。ニケよ!寂しいのか?」


 ニケから不意に出た言葉を聞いたアルバートは、ニケに優しく尋ねた。


「あっ、いえっ!違います!……。いや……そう…なのかも……しれません……。」


 アルバートは少し間を置き、ニケの頭に手をのせ髪をかき混ぜた。


「わわっ、やっやめ…!」


「ふんっ。お前は気負いすぎだ。」


 アルバートが手を離すと、めちゃくちゃにされたニケの髪は変な形をしており、それを見たエディは笑いながらニケの頭を指差していた。


「がっはっはっ! あっはっは!」


 四人の笑い声が聞こえる中、アルバートがニケにやや真剣な表情で話しかける。


「そういえば、ニケよ。お主が奇跡や剣術において、素質を持っていることは十分にわかった。 そこでだ。戦いにおいてなんだが、何が勝敗に大きく関わるのか、わかるか?」


 燃えている薪を動かしながら、炎を見つめるアルバートは、視線を変えずどこか遠いものを見つめているように話していた。


「んー。今まで何度か見てきた戦いのなかで重要だと思ったのは、やはり個々の奇跡が持つポテンシャルでしょうか?」


「うん。当たっている。だが十分ではないな。戦いにおいて、勝敗を左右させる大事な要因となるのは確かに奇跡だ。だが、その奇跡を使うのはその奇跡が宿る人間自身だ。つまり、奇跡の力を最大限に引き出すことが出来るか否かは、その者の力によっても大きく変わってくる。要は奇跡の所有者の能力が大きなポイントとなる。」


「確かに……。イグニス様や敵も奇跡の力と体術の両方を駆使して戦っていた……。」


 アルバートの話を聞いたニケは、両手で拳を握りただ一点を見つめていた。


――僕には、何もない……。奇跡のようなモノはいつでも出せるわけじゃないし、勉学も武術も未熟、戦闘経験もほとんどない。


「くっ!僕には何もかもが…足りない!!」


 自身の無力さを再確認し、絶望感に苛まれたニケが悲痛な叫びを発した。


「ドンッ!!」


「ぐおっ!!」


 物音はニケの背中で鳴ったモノだった。すぐに振り返るニケと、どうしたの?と言わんばかりのエディの目が合う。音の正体はエディがニケの背中を平手で軽くどついた音だった。


「なっ、何するんですか!!」


「なーにをそんなに思いつめてるんだよ!」


「だって……。僕の力はみんなに遠く及ばないから……。」


 辺りが静まりかえり、ニケ以外の三人は顔を見合わせた。エディが自分の頭をかきながらニケに話しかける。


「はあ。ニケ、お前ってやつは。」


「えっ?」


「そんなことは、あ、た、り、ま、え、だ!今いる強者達は、例外なく己に厳しく接してきたんだ。それは敵味方関係ない。自分の可能性を信じる事が出来るのは、自分だけだ。自分をただ責めるのではなく、自分を信じて努力をし続けることが、今のニケにとって一番大事なことさ!」


「はい……。」


「それに、その歳でお前ほどの奴はそうはいないぞ!」


「本当にそうでしょうか?」


「ああ!この俺が保証してやる!」


 自信満々に話すエディの話を不安そうに聞くニケが、再び話始める。


「……たまに……凄く不安になるんです。いつ、誰が危険な状況になるかもわからない。そんな状況で、いざという時に何も出来なかったらどうしようって。」


 エディは、優しくニケの肩に手を置く。


「そんな時のために、俺たち王国騎士がいるんだ。お前は1人じゃない。例え誰かが居なくなったとしても、俺たちの想いは受け継がれていく。」


「そうだぞ。俺たちは王族や国民を守る為。いや、大切に想う全てのものを守る為に、日々鍛錬を積んでいく。」


「はい。」


 エディとアルバートの話を聞いたニケは、少し落ち着いた様子で返事をした。


「大切な……人……。」


 ニケの頭には父親やアギト、メルの顔が思い浮かんでいた。直後、晴れやかな花畑とこちらを見ながらニッコリと笑うナインの顔を、ニケは連想していた。


「……。」


 黙っているニケの顔が少し赤くなっていることに、アルバートが素早く反応する。


「おう!どうした?姫さんの事でも考えていたのか?」


「いいっ!!そっ!そんなっ!べっ、なぼっは!」


「はっはっは!わっかりやすいな!」


 アルバートの指摘が的を射ていた事を、ニケの意味不明な発言が証明していた。


「お前!姫さまの事が好きなのか!?」


 エディは、すぐさまニケの方を見て質問をした。


「そっ!そそそっそんな筈ありません!!!」


「いやっ、何というか…バレバレだぞ……。」


 エディの指摘を聞いたことで、ニケの慌て方がピークに達しようとしていた。


「いや!そんな!僕なんかが姫さまをなんて!」


「いいじゃないか。いいじゃないか。俺も大好きだぞ!妻に欲しいくらいだ!」


 突拍子のないエディの発言が、周りの空気を凍らせた。


「えっええええ!!」


「バキッ!」


「いっ!てえええええ!」


 フェルトはエディの頭に向けて、勢いよく拳を振り下ろしていた。


「なっ!何すんだ!フェルト!」


「おう、すまない、頭がおかしいことになったかと思い、叩けば直るかと。」


「そんなわけあるか!!」


「アッハッハッハ!」


 ニケはクスクスと、アルバートは上を向き大きな声で笑っていた。エディは夜空を見ながら、再びニケに話しかける。


「っとまあ冗談は置いておいて!これから強くなればいいのさ!ニケ。お前はは強くなる。」


「はっはい!」


「安心しろ!お前にはヘキサグラムのアルバート様とイケメン騎士の俺がいる!フェルトもな!」


「バキッ!」


「いっ!てえええええ!」


 エディの頭には、再度フェルトの拳が振り下ろされていた。


「だからっ!そんなに強く殴るなっての!」


「私をついでみたいに言うな。」


「そうだぞ!フェルトもいるからな!皆お前の味方だ!」


「はいっ!」


 アルバートの発言に、ニケは強く返事をした。


 焚き火の前に座るフェルトの顔は、赤く照らされており、口角が少しだけ上がっていた。ニケから見えるフェルトの顔は、少し照れているように見えた。


※∮※⌘※∞※⁂※§※∮※⌘※⁂※


読んでいただきありがとうございます。


※∮※⌘※∞※⁂※§※∮※⌘※⁂※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る