第6話 守護

――こんなところで死ぬ…のか…? まだやり残した事がたくさんあるのに……。死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!


 黒服の剣が、ニケの頭上数センチのところに来た時だった。


 アギトとメルが覚悟を決めてしまいそうになった瞬間、それは姿を現した。


「ガキイイーーン!!」


「なにっ!?ぐあっ!!」


 黒服は剣を軽々とはじかれ、態勢をくずした。ニケの右肩付近に、この世のモノとは思えない空間の狭間が生じていた。そこから現れた誰も見たことがないであろう金属の手のようなモノが、ニケのことを守った。


――なっなんだこれ!?剣!?助かったの!?


「なっ!?こっ!このガキがああ!!」


 黒服はすぐさま追撃を加えようと態勢をとろうとしたが、その腕のようなものは左からも現れ、黒服の身体を尖った剣先で突き刺した。その攻撃の早さはとてつもなく、黒服はその未知の物体の動きにまったくと言っていいほど着いていけていなかった。


「ぐあああああ!!!」


 その瞬間、黒服の悲鳴と共に血が吹き荒れた。


「なっなんだこれは!!お前!すでに…奇跡を持つ者だったのか!」


 黒服は消えかかっている意識の中でも、ニケに殺意を向け続けた。


「ひいぃ!!」


 ニケは今まで体験したことのない恐怖を感じていた。


「くそおおおお!!」


 黒服は最後の力でニケに掴みかかろうとしていたが、男を刺した左腕は軽々と男の身体を持ち上げ振り回した。黒服の死体は水平に投げ飛ばされ、数回地面を転がり壁に叩きつけられる。

その体は無惨にも床に落ち、何の反応も示さない。


「うおぉぇ!!」


 ニケはそのあまりの光景に驚き嘔吐する。

それに気づいたイグニスはニケのもとに駆けつけ、言葉をかける。


「良くやった!少年!大丈夫か!」


「はっはい……。」


「奇跡をあそこまで使いこなすとは、なかなかやるじゃないか!」


「あっ、いえ……。僕はまだ奇跡が使えないのですが……。」


「ん?どうゆう事だ?」


 イグニスは不思議そうな顔でニケを見る。ニケ自身も、何が起きたのか戸惑っていた。


「僕にも何が何だか……。」


 ニケとイグニスが話をしているところに、黒マントが身を乗り出しニケ達の元に近づいてきた。それに気づいたイグニスは咄嗟にニケを突き離し、黒マントと剣を交える。


「ガキイイイイン!」


「くっ!おまえらは何者だ!」


 イグニスは黒マントに問いかけた。


「ふん、貴様に名乗る名前などないわ!!」


 黒マントは剣を弾き、イグニスとは反対方向に飛んだ。二人が離れた瞬間、黒マントの男が呪文を唱え始める。


「母なる大地よ!我が祈りを叶えたまえ!悪を討ちたる石のつるぎ!敵を突き刺し浄化せよ!カウントレス ロック ピール!(無数の石槍)」


 黒マントが地面に剣を突き刺すと、地面から次々と石の杭が出現し、イグニスに向かって波となり襲った。


「くっ! 登壇せよ!国を守り、主を守れ!炎の守護神ベヒモスの名において、敵を我の前に膝まづかせよ! クレセント ブレイズ!(三日月の火炎)」


 イグニスが剣を上に構えると火花が起きた。炎は一瞬にして凝縮され、剣の刃を包み込む。イグニスが剣を振り下ろすと、三日月の形をした炎の衝撃波が黒マントへと向かった。

石杭の波と炎の衝撃が打ち消し合う。イグニスはその場所柄、全力で攻撃をすることができず、黒マントに対して攻撃を決めきれずにいた。

間も無く、天上から降りてきた彼女がナインの元にたどり着こうとしていた。


「よしっ!!あと少しだあ!姫さまを守りきれえええ!」


 イグニスの号令は騎士達を鼓舞した。


「おおおおお!!!」


「愚か者があああ!!悪あがきをせず死ねえ!!!」


 黒マントは石杭の波を何度も発生させ姫を狙うが、それらをことごとくイグニスが無効化した。


 そして、頂上から降りてきた彼女が、ついにナインの元に降りたった。

彼女がナインに触れた瞬間、そこから光が発生し辺りをくまなく覆う。

上から降りてきた彼女は光となってナインの身体を包んだ。


「くっ!こっこれが!天使の継承か!!」


 黒マントは後ずさりをしながらナインを見て呟いた。


「ピキイーーン!!」


 辺り一帯につんざくような音が鳴り響く。その音を待っていたと言わんばかりにイグニスは騎士達に号令をかけた。


「よし!!継承の儀は完了した!!者共!反撃の開始だあ!!我らがエルミナス王国に敵意を持ったこと!あの世で後悔させてやろうぞ!」


「くっ!やむを得まい!者共!!引けええ!!」


 黒マントは黒服達に退却を命ずる。それに対してイグニスも味方に追撃を命じた。


「敵を逃がすなー!」


 状況が変わったことにより、混乱は一層増していく。そんな中、イグニスと黒マントは向かいあっていた。


「ふふっ。まあ良い。本当の目的は達成したのだからな。」


 黒マントの言動が理解出来ないイグニスは、敵を問い詰めた。


「な!?それはどうゆうことだ!」


「はっはっはっ!時期に解る。この勝負は次の楽しみとでもしておこうか!」


 黒マントの男は地面に煙玉を叩きつけ、その煙と共に姿を消した。その直後に他の部隊からの連絡が入った。


「伝令!!我らがエルミナス城と城下町が、火の海に包まれております!!」


「なっ!!なんだと!? 他の部隊長達は何をしている!!?」


 イグニスは信じられないという顔をして、兵を責める。


「はっ! 他の隊長方は敵の策略により、ちりぢりになり各個敵部隊と交戦中です!現在、国王とその護衛がこちらに向かっているはずです!」


「そんな!!街にはお父さんとお母さんが!!」


 メルは伝令を聞き、両親のもとに帰ると聞かなかったが、アギトがそれを引き止めていた。かつてここまで取り乱していたメルを見るのは、ニケもアギトも初めてだった。見かねたアギトは、メルをなだめるために声をかける。


「メル!!俺たちは帰ろう……。」


「アギト……。うっ、うん……。」


 アギトはメルを支えながら、何とか立ち上がり帰ろうとしていた。それに気づいたイグニスが、2人を止める。


「まってくれ。今出ていけば敵が何かに感づくかもしれぬ。」


「そんな……。私達はお父さんお母さんに会いたいだけなんです……。」


 イグニスはメルの願いに対して、すぐに了承するこは出来なかった。


「敵部隊は反抗しない民間人に対して、危害を加えてはいないようです!」


 連絡兵の言葉を聞いたメルは、少しだが落ち着きを取り戻していく。


「それなら……。大丈夫、かもしれません……。」


「伝言だけであれば承れるかと!」


 連絡兵の言葉を聞いたイグニスは、メルに提案をする。


「この者に伝言を預ける事で、今は我慢してくれないか?」


「はい……。わかりました……。ありがとうございます……。」


 天井から祭壇に向けて、七色の光が注がれている。光は徐々に小さくなり、名残惜しそうに消えていく。


「うっ……。」


 横になっていたナインが、ゆっくりと起き上がる。そこにいた全員はただただナインに見とれ、立ち尽くすだけであった。


「サーガ!!」


 王妃はナインのもとに急ぎ駆け寄った。


「姫さま……。」


 イグニスや騎士達はその場で片膝をつきナインと王妃に敬意を表す。


「ナイン……。」


 その光景を見たニケ、アギト、メルも固唾を飲んで見守る。


「みんな……。わたし……わたしっ!!」


 涙を流しながら喜びをこらえるナインに、王妃が抱きつく。王妃はナインの四肢を確かめながらナインの身体を優しく包み込んだ。


「ナイン……。」


 ニケは固まりながらナインを見つめ、アギトやメルも状況が全く理解出来ず、ナインの方を見るだけであった。


「ねえ、アギト……。これってどうゆう事?」


「おっ俺が知るかよ……。」


「ニケっ!アギトっ!メルっ!」


 唐突に名前を呼ばれた三人は、驚き呆然と立っている事しか出来なかった。ナインは勢いよく三人に飛びつき、今まで溜め込んでいたものを解放するかのように、力いっぱい抱きしめた。

 三人は少し照れながらも、みんなが無事であることへの喜びをを実感していた。


「あれっ?でも、なんでみんなが……。」


 ナインはこんなところにいるはずのない三人を見て、頭の上に?が浮かんでいた。


「えっ!?あっそれは……。」


 アギトはまずいという顔を見せ、すかさずニケは理由を説明する。


「ごめん、僕達、ナインが心配だったから……。」


「なんか最近ナインの様子がおかしいから、付いて来ちゃったの!・・・ごめん。」


 メルも正直に意図を告げる。


「みんな……。ありがとう!!」


 ナインが喜びと感謝を告げているところに、イグニスが割って入る。


「姫様。ご友人との再会も大切なことですが、今は!」


「あっハイ、すいません。」


 気持ちが焦るナインは、自分に落ち着くようにいい聞かせる為、深呼吸をした。


「あの……詳しいことは後で説明するけど……。きっと!きっとまた、みんなで私たちの舟に戻ろ!」


 ナインの強い思いに、ニケ達三人は強く意志を固めるのであった。


「うんっ!!」


「みな行くぞ!!反撃だ!!」


「おおおおおおおお!!!」


 イグニスの掛け声によってそこにいる者達の想いが一つになった。


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読んでいただきありがとうございます。


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