エニグマ(王道ファンタジーを目指した小説です。)

sirosai

第1話 平和

●YouTube(音付き)

https://youtube.com/playlist?list=PLfxN29oc6jUyIOqP33iggAIVyoijAqWXV


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 とある世界で言い伝えられていた伝説があった。 


 選ばれし七人の英雄達

 世界に破滅が起きる時

 人々をあるべき場所へ

 導き救うだろう


 この世界では神が信じられ、それによる奇跡が実在していた。

 この世界にはまだ未開の地が多く存在し、全てを見たものはまだいない。 

 この世界では後に神話として語り継がれる生物や魔獣が多く存在していた。 


 星に住む人間にはその日が必ずやってくる 。光に包まれた何者かが、十歳の誕生日に夢の中で奇跡を届ける。それはその者に必要なもの、相応しいもの、記憶にあるもの等が贈られる。(以降、贈られるモノを奇跡と呼ぶ。)


 人間の住む百二十六の国、魔物の領地、モンスターの縄張り等によって別れる世界。その中でも、人類が治める七つの大国は、それぞれ七大天使によって守られており強大な力を持っていた。天使は奇跡の中でも最上位に位置するため、代々受け継ぐ家系は王国を統治することとなっていた。 


 この七大国は互いに競い合い、いいバランス関係を構築していたが、その内の一つであるエルミナス王国には他国にはない物があった。 


 時を司る天使の力である。 


 時が経つにつれ少しずつではあるが、力関係に差が生まれ始めていた。そんな中それを心良く思わない者達が出てくるのもまた必然であった。


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 ある夜、優美な音楽がエルミナス王国の城を包み込んでいた。貴族が催す舞踏会では、皆が己の地位や権力を誇示しようと、綺麗な装飾の服を着飾りグラスを交わす。


 会場の一番奥に置かれた玉座に座る国王の横には、顔を布で隠しているまだ幼い子供が椅子に座っている。


 貴族は次々と国王の前に立ち、深々とお辞儀をしていく。その内の一人が国王に媚びを売るように話しかけた。


「お久しぶりです。国王陛下。お元気そうで何よりでございます。」


「おお、シベリウス。久しいな、そなたも変わりないか?」


「はい!」

 

 シベリウスは続けて王妃にお辞儀をして、最後に顔を隠している小柄な女の子にお辞儀をする。


「王妃様、姫様。お二方はお元気でしたでしょうか?」


「はい。ありがとうございます。」


 王妃はニコりと笑い貴族に礼を言う。姫様と呼ばれる女の子はどうすればよいかわからず、戸惑いながらもお辞儀をした。


「子供の成長とは早いものですな。もう姫様もここまで大きくなられた。これからの将来が楽しみです。」


 シベリウスは姫をみて少し驚いたように見せた。


「はははっ。まだまだ子供だよ。しかし、将来この子がどうゆう生き方を選択するのかは、楽しみであるな。」


 国王は姫を優しさに満ちた眼差しで見ながら髭をさする。


「これからの未来を担う者達。人間にとって脅威になり得る者達がいる中で、人間はようやく存在を確立できてきた。全ては奇跡を運ぶ天使様のお陰。そのお勤めを果たされる王家の女性方には、頭が上がりません。」


「そうだな。私達は平和な未来を守るためにも、国の平和を維持していかなけばならぬな。」


「はい!我らの道は天使様と共に。」


 シベリウスは胸に手を置き、深々とお辞儀をしてからその場を去った。


 優美な演奏は夜遅くまで続けられ、盛り上がりが収まったのは深夜だった。しかし、そこで奏でられた美しいハーモニーは、どこか寂しさを感じさせるものであった。


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 お昼の鐘が鳴る頃、遠くから石階段をタッタッと跳ねるように走る足音が聞こえる。


「早く来いよー!」


 黒髪で活発な男の子の『アギト』は、友人に早く着いて来るように告げた。アギトの髪は短いが近づけば癖っ毛なのがわかる髪質で、目は丸くとても綺麗な色をしている。口からは小さな八重歯が生えているがほとんど見えない。ただしそれを少し恥ずかしいと思っているようで、稀に気にしているようなそぶりを見せる。服はいつもシャツに短パンで、出かける際に気にせず見つけた服から着ているような男の子だ。自由気ままに行動する彼は、いつも集まるグループのムードメーカーだった。


「待ってよー!」


 茶髪で九歳という年齢にしては少し落ち着いた雰囲気を出す男の子の『ニケ』。一生懸命アギトの後を追うニケは、目が切れ長であることから、街の住人には少し性格が尖っていると思われているらしい。しかし、実際は全くもってそんなことはない。とても友達思いの優しい男の子であることが、後からついて来る女の子を気にしているそぶりからも一目瞭然である。ニケには小さかった頃の記憶がない。まだ若いので当然ではあるが、記憶の中にすっぽりと消えた時間があるのは確かであった。


「もう!本当に体力馬鹿ね!」


 ニケと共にアギトを追っているショートヘアの女の子の『メル』は、もう疲れたと言わんばかりに愚痴をこぼす。メルは苛立ちから、着ているワンピースの恥を持ち握りしめていた。本来なら同年代の女の子と遊びたい年頃だが、やんちゃな二人が心配でついつい着いていってしまう世話役のような存在だった。メルはリンゴのように真っ赤になった頰を膨らませて二人の後を全力で追う。


 三人は今年で十歳を迎える奇跡を待つ子供達。奇跡によっては人生が変わってしまう。

それほど大きな影響力を持ち、周りをも変えてしまう事象が奇跡なのだ。


 そんな子供達は高揚する気持ちをどこにぶつければいいのかわからず、はしゃいでいた。


 十歳を迎える少年達は、その日をどれだけ楽しみにしているのか、ここではそれを理解する者も多い。 十歳になると、全ての人間に奇跡が起きるからである。


 今日はなかなかお目にかかれることが無い、王族と貴族のパレードの日であった。


 凛々しく進む白馬の行列。選ばれた者のみが立つ事を許された場所、子供達が憧れるには充分過ぎる理由がそこにはあった。


 最前列には、王国の軍隊長であるイグニスが馬に乗って軍を先導していた。屈強な肉体を持ち、大剣を背中に背負っている彼の奇跡は、炎の守護神 ベヒモス。イグニスはその力を自在に操り、炎を駆使して敵と戦う騎士団屈指の手練れである。


 その後方五十メートルには、一台の豪華な馬車が隊列の中にいた。その馬車の窓には、少女のシルエットが浮かび上がっていた。彼女は王国の姫、ロックフィールド・クロノス・サーガ 。彼女はまだ九歳の子供であり、城内で静かに暮らしていた。故に彼女の素顔を知っているものは王国の中でも極一部でけであった。


「どんな子が乗っているのかなあ?」


 ニケは身を乗り出して馬車へと視線を向けていた。


「きっとすっごく可愛いんだろうなー。」


 目をつぶり妄想にふけっているアギトを横目にメルが口を出す。


「そうかな、そうでもないかもよ!?」


 ニケとアギトは顔を見合わせ息を合わせるようにしてうっすら笑っていた。


「なんで笑ってんのよ?!!」


 メルはすかさず二人を攻め立てた。お姫様が乗る馬車が三人の前を通る瞬間、ニケは馬車の窓に釘付けになっていた。中に誰が何人いるのかは全くわからなかったが、惹きつけられるように窓を見てしまっていた。


――何だろう……。時間が遅く流れているような…… 。音もよく聞こえない…… 。あれだけうるさかったのに…… 。


 馬車を引く馬が地面を踏み抜く音だけがやたらと耳に入って来る。


――何でここにいるんだっけ……?


「ニケ?」


 誰かが話しかけて来る声が聞こえる……。ニケは声に気づきはしたが目線を変えることができなかった。


「ニケっ!?」


――うるさいな……。邪魔しないでくれよ……。今やっと……。


「ニケっ!!!」


 ニケの体はビクッっと反応した。それは寝ている時に起きるアレに似ている感覚だった。ニケの意識がはっきりとしてきた事を確認したアギトは、ニケの両肩を掴んでニケに強い口調で話しかけていた。


「どうしたんだよ?いきなり固まっちゃってさ。」


 アギトとメルは心配そうにこちらを見ていた。


――あれ?……。僕、どうしたんだろう……。あれっ?何してたんだっけ……?


 今までに体験したことのない不思議な感覚だった。


「ごっごめん。ぼーっとしてた!」


 ニケ自身も何がなんだかわからず、とっさにその場をごまかした。


 盛大なパレードは約一時間ほど続いているが終わる気配はない。上からは紙吹雪が止まらない勢いで降っており、この国ににいる人間が全員集まっているかのような大勢の観衆で街は湧いていた。


街のあちらこちらで物が飛ぶように売れていくが、このチャンスの波に乗り切れていない店があった。ニケの実家兼お店の黄昏堂である。各国から骨董品や価値あるアンティークの品物が買い付けられ、所狭しと並べられていた。


「なんでここだけ流行ってないんだ?」


 アギトは笑いながらニケの方を横目で見ていた。ニケはまたこのやりとりかと呆れ果てているが、すぐさま反論をする。


「うるさいなー!みんなは物の本当の価値を知らないんだ!」


――確かに……。例えすごい価値のあるものだとしても、一般人からしたらただのガラクタだしな……。


 ニケも心の内では店で売られている物に価値があるとは思っていなかった。しかし、周りの言う事を認めてしまうと父親の存在を否定してしまうみたいで素直になる事が出来なかった。


「ニケのお父さんがいくらすごくてもお金にならなければただのガラクタだからねー。」


 メルもフォローをしようと考えたが、一人も入っていない店内を見た後では良い言葉が見つからなかった。ニケの父は行商人をしていた。父は奇跡により、物に触れる事によって対象の価値が分かるようになっていた。


 店の正面にはとても綺麗な細工が入った壺が置いてあり、左奥の壁には血の跡が付いた美女の絵画、その横には年季の入ったボードゲーム、棚には古書がずらりと並んでいる。黄昏堂はどこか見知らぬ場所につながっているような雰囲気を醸し出していた。


 黄昏堂に入ると本や乾燥した木の匂いが立ち込める。ニケはその匂いが好きだった。何故かはわからないが、そこでは何とも言えない懐かしさが感じられたからだ。


ドアを開けるとドアの上部に取り付けられたベルがなる。その音はよくあるベルのような音ではなく音と音の合間が異常に長い不思議なベルだった。


「チリーーーン チリーーーン」


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読んでいただきありがとうございます。


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