正暦保全者
@4093
記憶の澱みを泳ぐ先
01
記憶を煮詰めた重く暗い澱みに押されて何処かへ流されていく。
島原天草の一揆で討たれ、命尽きて目を開けると私はここにいた。あれから幾つの年が過ぎたのか、意識だけが働くこの身体は人の形を保っているのかそれともほろほろと解けているのか。そんなことは知る由もなかった。
時折身体の中に入っては掻き乱して出て行く何かがいるが、その何かの正体もまた同じこと。
決して途切れることの無い意識を恨んで、取り留めのない話をその澱みに向かって延々と吐いていた。澱みは「たぷんっ」と鳴いて返す。
そんな会話を続けて幾星霜。いつもの声では無い音が頭に流れてくる。
「天草四郎。この先を生きる全ての人間を救う覚悟は君にはあるか。」
文字通り澱んだこの視界が晴れるかのような澄んだ声だった。
私は人を救うんだと意気揚々とその手を掲げ、皆がこの私を信じてついてきてくれると思っていた。しかしその成れの果てを顧みれば父上に天草四郎という神輿として担がれていただけ。
この私、益田四郎時貞は誰一人として救ってなどいなかった。だからこそ巡り合せがあるならば、この命賭けてそれに応えます。
あるのかも分からないなけなしの口でそう答えると、想いが澱みに伝播して声の主に届く。
「宜しい。ならばこの流れの終着点“バートンテイル”でその役目を果たしなさい。」
恨み続けた意識はその言葉を聞き息絶えた。
───。
「
「はい。トレイス体測定中です…。えっと、バニシング・ポイントは1638.04.12、素体名“天草四郎”です。バニシング時点だと年齢は17歳ですが、トレイス体はプラス6となっています。」
あの澄んだ声を聞いて長らく眠っていた私を起こすかのように、2つの声が左右の耳から脳に届く。どうやらまだ人の形はしているようで安心しました。
「あの、僕の声聞こえて、ますか?あの…会長、今回も“エングレイバー”だったらどうしましょう…。」
「恐れることはないよ
「此処は…。此処がバートンテイル…ですか。」
私の口から決められていたかのように勝手に出た言葉。それを待っていたかのように答える男。
「そう、君を待っていたよ。君の言うとおり此処がバートンテイルだ。直ぐにその体にも慣れるよ。詳しい話は向かう途中ですることにしよう。」
重く淀んだ身体がみるみるうちに軽くなり、漸くその声の方へ顔を上げる。落ち着いた低い声の会長と呼ばれていた男性はその姿を隠すように白い布を巻き付けるように身に纏い、顔には暗く影が指し、青い目だけが妖しく光っていた。
会長の後ろに隠れ、こちらを見つめる憂と呼ばれた男の子は12か3くらいだろうか。自信の無さがどこからでも見て取れるが何故かその奥に強い圧を感じる。
「それでは、
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