第53話 ヴァルキュリア
だが、その間に一騒動が発生し、結果として新たな仲間が加わった。今回はそんな出来事を振り返ろうと思う。
新たに加わったのは人型で女性タイプのマンイーター。おっちゃんことM-893型の派生ともいえる存在だ。
型番はM-893-02。開発コードは【ヴァルキュリア】。中央管理センターの要人たちを護衛するために開発されていたうちの一体だそうだ。
既に名前も設定されていたようだが、おはなさんは根っからの中央管理センター嫌いである。
俺の権限を悪用し、勝手に改名されてしまわれました。
その名も【ミツエ】。俺は親しみを込めて【おみっちゃん】と呼んでいる。おっちゃんの派生型だから語呂もいい。
容姿は成人女性を想定して製造されたようで、バインバインのむっちむち。癖のある長い髪は黒。薄い黄の肌。緑色の瞳。
極めて整った顔立ちは戦士に相応しいきつめのパーツで構成されているが、ごん太の眉がそれをよく言えば緩和、悪く言えば間抜けに見せている。
彼女専用の装備もそこに存在しており、なんと銀のビキニアーマーであった。俺たちのスケベ枠を埋める最重要人物であるのは間違いないだろう。
とはいえ、そのビキニアーマーには様々な物騒な付属品が付いており、そのわけの分からなさはサイボーグ女を想起させる。
特に背中付近で浮遊し、付かず離れずのウィング型バックパックはどういう原理で機能しているか理解不能。彼女はそれを使用し、短時間ながら空中戦も可能だというのだ。
ちなみに、そのバックパックにはツインキャノンも装着されており、エネルギー弾を発射できるらしい。
流石は要人護衛のためだけに製造されたマンイーターだ。金の掛け方が段違いである。
主力の武装は巨大な
尚、ランスの根元部分には機関砲が搭載されており、ぶすっ、とやった後に発砲して止めを刺せるとかなんとか。殺意、高いですねぇ。
おみっちゃんと出会ったのは地下研究施設だ。砂で埋もれていたのが風によって入り口部分が露出。そこを偶然、俺たちが発見した形である。
先を急ぐ必要はあったものの、ポチをずっと走らせておくわけにはいかない。なので隠れる事ができそうなそこに潜り込むことにした。
鋼鉄で覆われたそこはまるで地下シェルターのような感じで不気味であった。だが、その機能は失われていないようで、忙しなく働く黄色の丸っこいロボットが多数確認できた。
一体くらいは持ち帰ってもバレへんやろ、とか考えたが、おはなさんに『めっ』されたので諦めました。
彼らは俺たちを見てもそれだけで襲ってきたりはしなかった。きっと防衛などのプログラムは施されていないのだろう。それでも用心して奥に進む。
ポチを休ませるだけなら奥に進む必要はなかったのだが、好奇心に抗う事は出来なかった。おはなさんもまた、有益な情報や物資が手に入るかも、と心を弾ませていた。
また、パオーン様が一人勝手に奥に突っ走って行った、という事情もある。ほんま、あいつは。
鋼鉄の通路を進む。そこはポチが余裕をもって通れるほどに広い。きっと、ポチサイズの機械やら生物兵器を製造していたに違いない、と俺たちは推測していた。
途中、幾つものドアを発見する。そこを慎重に探索した。今の俺には護衛らしき護衛がいないので用心するに越したことはない。
殆どのドアはロックが掛かっていなかった。扉にはパネルのようなもの。そこに手をかざしてみるとプシュという音と共にドアが自動でスライドしていった。
恐る恐る内部を窺う。そこは個人の部屋だったようで散乱した内部のベッドの上には白衣を着た白骨死体が確認できた。
「返事がない。ただの屍のようだ」
『99%死亡しています』
「えっ? あとの1%は?」
『うふふふふふふふふ』
おいバカやめろ。AIがそういうこと言うとか卑怯でしょ。
「パソコンだ。電源が付きっぱなしだけど……いつからだ?」
『さぁ? 詳しく調べる理由はないかと』
「雑ぅ!」
おはなさんは興味がない事にはとにかく雑だった。まぁ確かに、どうでもいいことだとは思うけどさぁ。もう。
「う~ん? スタークリーナー計画? なんじゃそりゃ?」
『データに無いプロジェクト名ですね。詳しく分かりますか?』
「んと……無線式のマウスは動かないか」
傍にあったマウスを手に取り動かすも画面のポインターは微動だにしなかった。マウスの裏を確認。すると乾電池式であることが判明する。
「電池が切れているみたいだ。単三電池かな?」
『予備があったとしても期待はできませんね』
「有線式のマウスは無いかなぁ?」
部屋を物色する。まずはパソコンが載っているデスクの引き出し。全部で四つ。
だが、ことごとく期待していた物は発見できず。殆どが用途不明のガラクタ群。
「なんだろ、これ」
『大人の玩具ですね』
「えっ?」
『作動すると、玩具が様々な動きをします。バイブレーション機能も搭載しているかと』
「もういい。次だ次っ」
どうやら、そこの仏さんは女性だったもよう。だからって、デスクの引き出し全部が大人の玩具とかどういう神経してんだ。
次はタンスを開いてみる。いやな予感しかしない。
『ててててーん。ナナシは【ドスケベ下着セット】を手に入れた』
「返品いたします」
こんなの、おパンツとは言えないよっ! パンツを脱がずに用を足せるとか身に着ける意味がないではないかっ!
「なんなんだよ、これ」
『いちいちパンツを脱いで【ピー】するのが面倒だったのでは?』
「セルフ規制音、凄いですね?」
『どやぁ』
二人っきりの場合、おはなさんは、超はっちゃける。普段は二人っきりとかは少ないから仕方が無いとはいえ、中々に自重が無い。
『あ……ナナシ、そこに』
「うん? おっと、有線式マウスだ……なんか、黄色くてべとべとした物が付着してるんですが?」
『勇気を持って手にしましょう』
「やだよ。何か拭く物は……」
俺は先ほどのドスケベパンツでマウスの汚れをふき取った。使用後のパンツは所有者の顔の上に載せておきました。責任をもって処分しておいてくれたまえ。
「壊れてなければいいんだけど」
『そこですよね』
有線式マウスのハブをソケットに差し込む。マウスのライトが点灯した。
「おっ? こいつ……動くぞ」
『やりましたね。臭そうですが』
「実際問題、臭い」
熟成しすぎなんだよなぁ。
とはいえ、これで先に進めるというもの。しかし、スタークリーナー計画のファイルをクリックしても中身は空だった。
「処分された後か」
『残念な結果ですね。でも、他のファイルが、まだあるみたいです』
「うん。一応調べておくか」
いくつかのファイルは中身があった。だが、無修正のエロ画像はNG。男女がすっぽんぽんでドッキング。ニューライフをクリエイションする光景が様々なポージングで展開されていた。
「ほ、ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? なんて物をファイルに突っ込んでんだっ!?」
『いけません。ナナシ、目が腐ります。即座に画像を閉じてください』
「あっ、まちがえ……あえぇぇぇぇぇぇっ!? 中田氏っ!? なんでっ!?」
『やはり、人間は滅ぼさねばっ!』
おはなさんが決意を新たにしたところで、なんとか画像を閉じる事が出来ました。
「うぐぐ……なんだかモヤモヤする」
『くっ……ナナシも色を知ってしまいましたか』
「いや、そうじゃなくて……アスたちもこれを強要されていたかと思うとな」
『そっちでしたか。そうですね、お互いの同意がなければ、これはただの暴力です』
種を途絶えさせないようにするためだ、としてもよく出来過ぎているシステム。俺は嫌悪感を覚える。
「絶滅の危機に瀕してしまえば、尊重も倫理観も無いって悲しいよな」
『弱肉強食の掟です。原初にして最大の法ともいえます』
「そんなの法と呼ぶのもおこがましい」
『そうですね……』
引き続きファイルを調べる。するとその中の一つにヴァルキュリア計画なる物を発見した。そして、そのファイルにはデザインベースとなった人間女性の画像も。
だが、幾ら改造実験に使用するからといって尊厳を冒していいものではないだろう。被験者が凌辱されている様子を収めた画像も残されていたのだ。
「こいつらは本当に……」
『
実際問題、彼女の細胞を培養して使用する計画のようで、被験者は脳以外は廃棄処分となっていた。まさに鬼畜の所業。
凌辱は長期間行われており、彼女は妊娠出産まで行わされていた。そして、その子供こそがおみっちゃんであるもよう。
彼女をベースとして改造を施す案が急浮上し、被験者の脳をおみっちゃんの脳と融合させ、その後にマンイーター細胞を侵食させる、という実験が行われたらしい。
そして、それは一応の成功を見たが、おみっちゃんが幼体であるため、培養カプセル内での成長を待ってから複製を行う、との記述で締めくくられていた。
「M-893-02・ヴァルキュリア……か。酷い誕生の経緯だな」
『この施設内にいるのでしょうか? 是非に確保しておきたいですね』
「う~ん、どうだろう? 施設自体は生きてるから、可能性はあるけど」
『とにかく、施設内を調べましょうか』
「そうだな。ゆっくりしている時間はないし」
再び探索へと移る。各部屋を回ってみる、とあるわあるわ。人には語れない悪逆非道の数々が記録されたファイルが。
胸糞悪くなる一方で、貴重品も多数発見する。その中には熱望していたナトリウムの
「ここが最奥か」
「ぱおーんっ」
「こんな所にいたのか、パオーン様」
そこには寝っ転がっているパオーン様の姿が。そして、ちょっぴり凹んでいる鋼鉄の扉。
恐らくパオーン様が無理矢理開こうとした痕跡であろう。彼の馬鹿力でも破壊できなかった、とあればこの先には件のM-893-02・ヴァルキュリアが安置されているに違いなかった。そして、実際にそうだった。
「パネルだな……暗証番号だって」
『ハッキングします……89302だそうです』
「型番のまんまじゃねぇか。セキュリティ、ガバガバだな」
ぴ、ぽ、ぱ、と数字を入力して行く。そして、ロックは解除され分厚い鋼鉄の扉がゆっくりと開いて行く。そこに彼女は居た。
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