第14話 方針
アバズン、ここもルッカたちと戦った遺跡同様、旧時代の建物である。撤退を強いられた遺跡が高層ビルであるなら、ここは学校の校舎と言ったところだろう。
ここには、ある程度の知識が保存されていた。俺にとっては大助かりである。
何故なら、おはなさんは知識を持っていても、中々その情報を提示してくれない傾向にあるからだ。
彼女曰く、本当に身に付く知識とは自分で苦労して入手した知識だけだ、と。
君は俺のお母んか先生かね。まったくもう。
そんでもって、ここにあった知識から判明したのは、この世界は概ね地球のそれと似通っている、ということだ。
旧時代のこの世界は地球と瓜二つの地形だったが、人類とマンイーターとの戦いで核兵器が用いられ、散々に世界の形が変わってしまったそうだ。
もちろん、核兵器を使ったのは人類側である。馬鹿だろ、おまえら。
現在、俺たちがいるのは地球で言うところのオーストラリア。その首都キャンベラの付近。ここも、かつては人間で溢れていたらしい。
今は誰もいねぇがな。
そこから東に少し進むと海がある。でも、その海も見事に汚染されており、おはなさんに、現時点では絶対に近付いてはいけない、ときつく注意されている。
それは俺の汚染の進行を心配しての事だろう。
無敵と思っていた俺の再生能力だが、よくよく聞かされると唯一の欠点が発覚していた。それが【汚染】である。
俺の仕事はその汚染を取り除く植物を生やすこと。だが、肝心かなめの俺が汚染されていたのでは生やす植物も汚染状態で誕生してしまう、とのこと。
こうなると逆に汚染を撒き散らしてしまい、まったく意味がない。
これは根本的な問題となるので納得し、彼女の注意に従うより他に無いだろう。
あと、学生服を見つけております。女子用しかないけど。
女子の服を着るのは嫌なので、全裸で一向に構わん、と宣言したら、おはなさんとアスに怒られました。今は男の娘として過ごしている。
意外なことに、最初に訪れた際、アバズンには三週間程度しか滞在してなかったり。
ここに到着した直後に、例の高層ビル型の遺跡を発見したからだ。
俺たちは学校であろうここよりも、高層ビル型の遺跡の方が探索の重要度が高い、と判断し、アバズンの探索もほどほどに出立した。
後の流れは、折角、拠点として機能しかけたところで撤退と相成った、と言った感じになる。
高層ビルは正直なところ、こちらで押さえておきたかった。あそこには生きているパソコンと電力があったからだ。
ただ、その電力源がちょっと不具合が起きており、それを修繕できるパーツを捜索中にハンターの襲撃が起こってしまった。その結果、全部オシャカになってしまったというわけだ。
これは全部、ハンターが悪い、ということにしておこう。
このアバズン、俺たちが訪れるよりもかなり前に人間たちによる盗掘があったようで、めぼしい物は全く存在していなかった。
とはいえおはなさんのあまり役に立たないスキャン機能によって、数点、旧時代の遺物が発見されている。
それが、この学生服と【
学生服の説明はもういいだろう。現在、俺が着せられているこれだ。ここでの説明は元素魔法媒体となる。
この元素魔法媒体は大きさが【ビー玉】程度。重さは種類によって異なる。おはなさんによれば、元素魔法媒体の種類は百五十種類を超えるとされている。しかし、現在ではその製造方法が失われており、【天然物】を見つけるより他に入手手段がないそうだ。
実に貴重な存在であるが、これを使いこなせるのは魔法使いのみ。俺が持っていても宝の持ち腐れ―――ということにはならないもよう。
実はこれと対になる、とあるアイテムがあるそうなのだ。それが【
このビー玉をエネルギー源とし、元素魔法媒体の特徴を弾丸として撃ち出す銃器だ。
これは俺でも扱える代物らしく、是非とも入手したいところ。
しかし、というかなんというか、それらは旧時代に殆どが失われており、あったとしても人間側が確保しているであろうことが、おはなさんより語られている。
だったら―――殺してでも奪い取ればいいんじゃね?
まぁ、それは最終手段だ。中央管理センターに辿り着くまでは基本的に人間たちとは事を構えない方が得策、ってそれ一番言われてっから。
つまり、俺たちの下へと逃れてきたドルイドたちなら、難なく使用可能というわけだ。
でも、
そもそも、
でも、中央管理センターと連絡が取れないから仕方がないらしい。
何かあった、というよりかは俺たちの方に問題があるとのこと。理由の一つとしては距離が離れすぎている事が挙げられる。
もう一つは俺たちが抱える【バグ】の存在。これが一番、大きいらしい。なので、俺たちは中央管理センターに直接、赴く必要があるのだ。
そういうことで、ただいま方針を話し合っている最中である。基本的に、ここに上下関係は殆どない。俺がそういうのが嫌いだから。
でも、一応は俺を頂点とした組織にはなっている。事実上のトップは当然、おはなさん。中間管理職にアスといったところだ。
ちなみに、ポチは、ポチといったポジションである。見た目は化物だけど、中身はわんこだからね。
『少し休憩にしましょう』
「だな」
この方針を決める会議だが、割と煮詰まっている。
人間たちや自然再生をガン無視して中央を急ぐか、それとも人間を殲滅しながら自然を再生しつつ中央を目指すか、で意見が真っ二つに割れているのだ。
俺とおはなさんは、あくまで中立。
これがまた激しい主張のぶつけ合いなのだ。
中央に急ぐ派は穏健派といえよう。俺の下まで何事も無く辿り着けた連中に多い。
殲滅派は過激派だ。俺の下に辿り着く前に、同族によって非道な振る舞いをされた連中に多い。
従ってアスは過激派の筆頭である。
とはいえアスも言いたいことは沢山あるだろうが、立場もあってグッと堪えているもよう。
そもそも、酷い目に遭った事を隠しておきたい、という思いもあるのだと思う。
それほどまでに彼女の辿った道は酷いものだったのだ。
「ヴァ~」
「ヴ~」
よたよた、と
もちろん、彼らは調理などしない。出来上がった物を運んでいるだけだ。
「取り敢えず食事にしてくれ。俺も席を外す」
「はい、ナナシ様。さぁ、食事を摂って後の会議に備えましょう」
アスが音頭を取ってドルイドたちに食事を促す。
彼らの昼食は俺が生やした植物の中で食べれる物。ゼンマイによく似た山菜。それとM-893が捕獲してきた砂漠トカゲの丸焼きだ。
砂漠トカゲは小型の肉食動物で体長は二十センチメートル程度。砂漠の砂によく似た皮膚を持つ。見た目は割と可愛い。
でも、生きるために食べられてしまう。悲しいなぁ。
よく焼けば全部丸かじりできる、ということもあり、砂漠に生きる者たちにとって馴染みのある生物の一つといえよう。
「あっ、そうだ。アス、これ、使ってみ」
俺は元素魔法媒体の一つをアスに放り投げた。それを片手で受け取る軍服姿が凛々しいアス。
「ナナシ様、これは?」
「【ナトリウム】の元素魔法媒体。それで食塩を生み出せるっぽい」
「しょ、食塩ですかっ!? 高級食材ですよねっ!?」
この世界は食塩ですら高級品扱いだ。特にそういった物は全て支配階級に回されてしまうので、支配される側は殆どが素材そのままを口に運ぶしかない。
なので、腹さえ膨れればいい、というのが一般庶民の共通感覚である。
ただし、高給取りのハンターたちは事情が異なるようで。彼らは身体が資本だから、お貴族連中も彼らの溜まり場である【酒場】に物資を回しているようだ。
ラインクに聞いたから間違いないだろう。
今頃、どこで何をしているのやら。
「あ、ありがとうございますっ!」
「別にいいよ。俺には使い道が無いし、そもそも使う事もできんし」
はたはた、と手を振って退室する。ドアの上部に設置された壊れかけの掛札は1-2だというのが辛うじて分かった。
この校舎の中で一番、状態が良い部屋である。
廊下を進む。そこでは
その先にある階段を上る。目的地は屋上だ。最後の階段を登り切る、とそこにも
すると生温い風が頬を撫でて、キャッキャ、と建物の中へと流れ込む。
「今日もいい天気か。いや、雨降ったら困るんだがな」
『酸性雨ですからね。クイーンの汚染が進んでしまいます』
「それな。でも、おはなさんが咲く以前は普通に浴びてたぞ?」
『胆が冷えますね』
屋上の中心まで進む。そして、グッと背伸びをした。燦燦と輝くお日様は、おまえも真っ黒こげにしてやろうか、と張り切っている。
でも、その日光は俺の大好物であり、そこに
俺って、お安い希望の芽だよなぁ。ぐびぐび、ぷはー。
あ、この水。俺が生やした植物が酸性雨をろ過したものになります。その浄化率は驚異の100%。
伊達に、この腐り切った星を再生させよう、としているわけではない。
形としては【ウツボカズラ】に似ている。その大きい版。
酸性雨が降ると一斉に口を開けて雨水を溜め込み、じっくりとそれを浄化する。そして、浄化が終わるとそのサインとして白い花を咲かせるのだ。
その後、一週間程度、咲き続けた後に種を残して枯れる。
その種が芽吹くのがこれまた早く、僅か半日。成長も半日。後はそのローテーションを繰り返す。
生き急ぎ過ぎてる植物だ。もっとのんびりしてどうぞ。
「今日で会議、三日目だっけ?」
『はい』
「今日で決まるかなぁ?」
『恐らく』
「どっちだと思う?」
『過激派でしょうね』
「調べたの?」
『はい、結構に酷いものでしたよ。特に女性』
「そっか」
おはなさんより、そのような報告を受けては俺も覚悟を決めなくてはなるまい。人間たちは星に対しても、同族に対してもやり過ぎた。
俺は決して神でも地獄の使者でもないが、そういった人間の駆除を躊躇うことはない。
というか、最終的には人間に消えてもらう予定だし。
『全マンイーターたちの集結を急がせます』
「いや、それだと各地のバランスが崩れる。各地で戦力的に過剰な地域から、その過剰分をこっちに回せないか?」
『可能です。そうなると十分な戦力の到達までに時間が掛かりますが、よろしいでしょうか?』
「いいよ。急ぐわけでもないし。生き急ぐ人間と違って、こっちには時間がある」
『了解しました。そのように致します』
ドルイドたちは今も俺の下を目指しているらしい。二週間に一回はドルイドたちのクロウが訪れる。とはいえ、その殆どが壊滅状態で、無事に辿り着けるのは二~三名だ。
話によればここ数ヶ月の間で【ドルイド狩り】なるものが横行しているかららしい。
法が崩れ去って久しいこの世界では、強者こそが法となる。人間の性根が腐っている証明なのだが、それに異を唱えなければならないのも人間である。
だが、それができないほどに、両者に力には差ができていた。その時点で、人間という種は限界なのだろう。俺はそう思う。
「なんだかなぁ」
俺は出来れば人間という種には滅びてほしくは無い、というのが根底にあるのだが、それを否定しなくてはならない事案が、人間自ら提示している状況に憂いを抱いている。
ラインクは本当に人間を見捨てないで済む者たちを探し出せるのであろうか。不安だ。
屋上の外側へと移動する。朽ちて役目を果たせなくなっている金網たち。その裂け目からは、広大に広がる砂漠が確認できた。
所々に、えいや、と漲る緑が確認できる。俺が通った跡だ。
――――――――――。
「ナナシ様、そろそろお時間です」
「ん、そうか」
少しの間、呆けていたようだ。アスに声を掛けられるまで時間の経過を意識できていなかった。
おはなさんも、ぼ~、っとしていたもよう。やっぱ
その後、予想通り過激派の意見が通り、俺たちは人間を駆除しながら中央を目指すことに決定した。
そして、そのための戦力を整える。これが最初の目標に決まったのである。
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