Day 13『うろこ雲』

嫌なのに懐かしい

 嫌な夢を見た。内容は忘れた。ただ、嫌な夢のはずなのに、どこか妙に懐かしかった。それから身体が痒かった。

 ウデを掻きながらカレンダーを見ると、今日は生物の小テストがある日。机の上の教科書を掴んでリビングへ向かった。

「テスト前だけじゃなくて、普段からもっと勉強しなよ」

 トースト片手に教科書を眺めていると、バッチリ身支度を済ませた妹。どうせいつもの小言なので、生返事を返しページをめくる。

 ふと、テストとは関係のないコラムコーナーが目に留まった。

『胎児の成長は進化の道をたどる?!』

 たしか、授業のときに先生も言っていた。胎児は魚、両生類、爬虫類、鳥類のような姿を経る時間があるのだと。

 それなら、鱗や羽のある人間がいてもいいのにな、と思ったことも覚えている。

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 不安そうな妹の声に視線を落とすと、シャツの袖が朱く染まっていた。腕がヒリヒリしていて、捲らなくても、肌を掻きむしってしまったのだとわかる。だけど、つい捲ってしまった。

 ポロポロとこぼれだす白い鱗。突然のことにびっくりして、捲りかけた袖を慌てて戻した。

 だけど、袖がどんどん重くなる。血がどんどんあふれ出ていて、湯気でも出てるように見えた。ぼんやり眺めていているうちに、白い袖は真っ赤に潤い先から、しずくがポタポタ滴った。何が何やらわからない。妹がいつの間にやら居なくって、もう学校に行ったのかと窓から覗くと、今度は空が真っ赤っ赤。そして、それを覆ったうろこ雲。

 落ち着かない気持ちになる異様な空を見て、僕はひとつ思い出した。僕に妹なんていなかったこと。

 もう一度腕を掻くと、さっきよりずっと血が熱くって、目から何かがこぼれ出た。目から鱗なんて出るはずない。

 そう思って目をこすると、なんで自分が目をこすったのかわからなくって。イヤイヤながら、ベッドを降りた。今日は生物のテストらしい。教科書をひっつかみ、あくびを噛み殺しながら、居間へと向かった。

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